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判例 平成17年04月19日 第三小法廷判決 平成12年(受)第243号、平成17年(オ)第251号 国家賠償請求上告,同附帯上告事件

要旨:
 1 弁護人から検察庁の庁舎内に居る被疑者との接見の申出を受けた検察官が同庁舎内に接見の場所が存在しないことを理由として接見の申出を拒否することができる場合
2 検察官が検察庁の庁舎内に接見の場所が存在しないことを理由として同庁舎内に居る被疑者との接見の申出を拒否したにもかかわらず,弁護人が同庁舎内における即時の接見を求め,即時に接見をする必要性が認められる場合における検察官が執るべき措置

内容:  件名 国家賠償請求上告,同附帯上告事件 (最高裁判所 平成12年(受)第243号、平成17年(オ)第251号 平成17年04月19日 第三小法廷判決 破棄自判,附帯上告却下)

 原審 広島高等裁判所 (平成7年(ネ)第427号、430号)

主    文
1 原判決のうち上告人敗訴部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消す。
上記部分に関する被上告人の請求を棄却する。
2 本件附帯上告を却下する。
3 訴訟の総費用は被上告人兼附帯上告人の負担とする。

理    由

 第1 上告代理人山崎潮ほかの上告受理申立て理由について

 1 本件は,弁護士である被上告人が,上告人に対し,検察官が検察庁の庁舎内における被疑者と被上告人との接見を,その庁舎内には接見室又は接見のための設備のある施設が無いなどとして拒否したことが違法であるとして,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料を請求する事案である。

 2 原審が適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1) 接見拒否に至る経緯

 被疑者A(以下「本件被疑者」という。当時17歳)は,平成4年2月24日,非現住建造物等放火の容疑で逮捕された(以下,この容疑に係る事件を「第1被疑事件」という。)。本件被疑者は,翌25日に広島地方検察庁(以下「広島地検」という。)に送致され,B検事が主任検察官として事件を担当することになった。

 本件被疑者は,翌26日,広島簡易裁判所裁判官が発した勾留状によって代用監獄である可部警察署の留置場において勾留されることとなったが,翌27日,被上告人が第1被疑事件につき弁護人に選任され,同年3月5日,被上告人からの準抗告に基づき,広島地方裁判所は,本件被疑者の勾留場所を広島少年鑑別所(以下,単に「少年鑑別所」という。)とした。

 (2) 本件接見の拒否(1)

 被上告人は,前同日,本件被疑者が広島地検で取調べのため待機中であることを知り,午後2時20分ころ,B検事の執務室(以下「本件執務室」という。)に電話をし,C事務官に対し,本件被疑者との接見を申し出た。被上告人は,本件被疑者に対し,勾留場所が少年鑑別所に変更されたことをできるだけ早く伝えて元気づけようと思い,接見を急いでいた。

 B検事は,同日午後2時30分ころ,被上告人に電話をし,広島地検の庁舎内での接見は,同庁舎内には接見のための設備が無いのでできない旨,及び本件被疑者については接見指定をしておらず,接見設備のある場所での接見はいつでも自由にできるので,本件被疑者との接見交通には何らの支障がない旨を述べた。これに対し,被上告人が,異議を述べたが,B検事は,多忙を理由に電話を切った。

 被上告人は,広島地検へ出向き,同日午後2時35分ころ,本件執務室の扉をノックして開け,B検事に対し,本件被疑者との接見を申し出たが,B検事は,広島地検には接見室が無いので庁舎内では接見できない旨,及びこの件に関してはこれ以上話をすることがない旨を述べ,C事務官に対し,扉を閉めるように指示をした。

 被上告人は,扉を閉めて廊下に出てきたC事務官に対し,取調べまで時間があるはずなので今すぐに会わせてほしい旨,及び接見の場所は本件被疑者が今待機中の部屋でもよいし,本件執務室でもよい,戒護の点で問題があるなら,裁判所の勾留質問室を借りて,そこで会わせてほしい旨を申し入れた。

 被上告人は,広島地検の庁舎内の待合室で待機していたが,B検事からの回答がないので,同日午後2時55分ころ,本件執務室の扉をノックし,出てきたC事務官に対し,用事を済ませた後にまた来るので,その時には必ず会わせてほしい旨を告げて,同庁舎を退出した。

 B検事は,同日午後3時15分ころから午後5時45分ころまでの間,本件被疑者の取調べをした。

 被上告人は,同日午後4時40分ころ,広島地検の刑事事務課を訪れ,B検事との面会を求めたが,同課の事務官から,B検事は捜査中で会えない旨を告げられたため,午後5時ころ,退出した(以下,同日の午後にB検事がした上記の広島地検の庁舎内での本件被疑者と被上告人との接見の拒否を「本件接見の拒否(1)」という。)。

 本件被疑者は,上記取調べ終了後に少年鑑別所に押送され,同日午後6時25分に少年鑑別所に身柄が引き渡された。被上告人は,同日午後7時30分から約30分間少年鑑別所で本件被疑者との接見をした。

 (3) 本件接見の拒否(2)

 本件被疑者は,平成4年3月16日,第1被疑事件については,処分保留のまま釈放されたが,同日,別件の現住建造物等放火容疑で再逮捕された(以下,この容疑に係る事件を「第2被疑事件」という。)。

 被上告人は,同月17日午前9時ころ,可部警察署に赴き,本件被疑者と接見したが,被上告人は同日午前10時から広島地方裁判所において公判の予定があったため,翌日再度接見することとして,約6分間で接見を終えた。

 被上告人は,第2被疑事件についての弁護人選任届を本件被疑者から受領しておらず,また,本件被疑者が前日の接見まで被疑事実を否認していたため,再度黙秘権について教示する必要があると考えたことから,同月18日午前9時ころ,可部警察署において,本件被疑者との接見を申し入れた。しかし,本件被疑者は,既に広島地検に押送されていた。そこで,被上告人は,同日午前10時5分ころ,広島地検に赴き,D係長に対し,本件被疑者との接見を申し出た。

 D係長は,B検事に被上告人の上記接見の申出を伝えたところ,B検事は,D係長に対し,広島地検の庁舎内には接見のための設備が無いので接見をさせることはできない旨,及びそのことは第1審強化方策広島地方協議会で弁護士会も了承していることである旨を被上告人に伝えるように指示し,D係長は,上記指示に係る内容を被上告人に伝えた。

 被上告人は,上記回答に納得せず,D係長に対し,B検事に再度連絡を取るように申し入れた。D係長は,B検事の意向を確認した上で,被上告人に対し,B検事が先程と同じことを言っている旨を伝えたところ,被上告人は,再々度,D係長に対し,本件被疑者から弁護人選任届を受領していないことなどから接見の必要がある旨,及びこれを認めないと大きな問題になるかもしれない旨をB検事に伝えるように申し入れた。D係長は,上記申入れの内容をB検事に伝えたが,B検事は,これに応じなかった。

 被上告人は,同日午前10時50分ころ,他の弁護士と共に,本件執務室を訪れ,B検事に対し,広島地検の庁舎内での本件被疑者との即時の接見を申し出た。これに対し,B検事は,前記と同様の回答をし,上記接見の申出に応じなかった(以下,同日の午前中にB検事がした上記の広島地検の庁舎内での本件被疑者と被上告人との接見の拒否を「本件接見の拒否(2)」という。)。

 B検事は,同日午前11時45分ころから午後0時5分ころまでの間,本件被疑者から弁解を聴いた上で,同日午後1時11分,広島地方裁判所に対し,本件被疑者の勾留を請求した。本件被疑者は,同日午後4時ころ,勾留質問のために同地方裁判所に押送されたが,その際,被上告人は,同地方裁判所内の接見室において,本件被疑者と接見をし,第2被疑事件につき,弁護人に選任された。

 (4) 広島地検の庁舎内の設備

 広島地検の庁舎内には,接見のための設備を備えた部屋はなかった。

 広島地検の庁舎地下1階に,警察官同行室(以下「同行室」という。)及び拘置所仮監があり,前者は警察署の留置場から,後者は拘置所から,それぞれ取調べのために押送されてくる被疑者を留置するための施設である。

 同行室には,五つの房があり,各房の定員は,1〜12人である。各房は,出入口側を除く3面がコンクリート壁であり,出入口側の面は,内外から金網が張られた鉄格子で仕切られており,その仕切り壁には,扉と開口部(縦約20p,横約10pのもの)が設けられている。同行室には,監視台があり,各房の内部を監視できるようになっている。

 拘置所仮監には,三つの房があり,その構造は,上記同行室のそれとほぼ同様であった。

 (5) 第1審強化方策広島地方協議会における協議

 平成3年10月5日に開催された第1審強化方策広島地方協議会において,弁護士会から,広島地検の庁舎内に接見室を設置することを求める旨の要望がされたのに対し,広島地検は,庁舎の実情や戒護の問題があり,上記要望には応じかねる旨,検察庁への被疑者の押送は検事の取調べのためであり,庁舎内での弁護人との接見は予定されていない旨,及び取調べ終了後は,速やかに身柄を勾留場所に戻すので勾留場所で接見をしていただきたい旨を回答した。

 3 原審は,上記事実関係の下において,要旨,次のとおり判断し,被上告人の請求を,慰謝料10万円とこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却すべきものとした。

 (1) 検察官は,単に検察庁の庁舎内に接見室又は接見施設が無いことのみを理由として,接見を拒否することは許されず,その庁舎内に,被疑者との接見を行わせても,被疑者の逃亡,罪証の隠滅を防止することができ,戒護上の支障を生じさせないような場所が存在しないことを理由とする場合に限り,接見を拒否し得るものと解すべきである。

 (2) 広島地検の庁舎内においては,弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)が,その庁舎地下1階の同行室の房外に居て,房内に居る被疑者と接見する方法を採った場合には,弁護人等が被疑者と小声で会話をすることにより,他の者に聞かれることなく会話をすることが可能であり,会話の秘密性を確保するため,当該被疑者と同じ房内に居る他の被疑者を他の房に移す必要があるとは認められない。また,上記のような方法で同行室を利用して接見を行えば,接見の際に,被疑者と弁護人等が物の授受をすることは困難であり,立会人なしに接見することを認めたとしても,戒護の面や留置管理業務の面で,現実的,具体的な支障が生ずるおそれがあるとは認められない。

 (3) そうすると,被上告人の前記各接見の申出に対し,B検事は,上記同行室を利用しての接見をさせるべきであったのに,これをいずれも拒否したこと(本件接見の拒否(1),(2))は,違法というべきである。

 (4) B検事が,検察庁の庁舎内に接見室が無い場合には,そのことのみを理由として接見を拒否することができると考えたことについて,相当な理由があったものと認めることはできないから,B検事には,被上告人の前記各接見の申出に対しこれらをいずれも拒否したこと(本件接見の拒否(1),(2))について過失があったものというべきである。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 被疑者が,検察官による取調べのため,その勾留場所から検察庁に押送され,その庁舎内に滞在している間に弁護人等から接見の申出があった場合には,検察官が現に被疑者を取調べ中である場合や,間近い時に上記取調べ等をする確実な予定があって,弁護人等の申出に沿った接見を認めたのでは,上記取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合など,捜査に顕著な支障が生ずる場合には,検察官が上記の申出に直ちに応じなかったとしても,これを違法ということはできない(最高裁平成5年(オ)第1189号同11年3月24日大法廷判決・民集53巻3号514頁参照)。

 しかしながら,検察庁の庁舎内に被疑者が滞在している場合であっても,弁護人等から接見の申出があった時点で,検察官による取調べが開始されるまでに相当の時間があるとき,又は当日の取調べが既に終了しており,勾留場所等へ押送されるまでに相当の時間があるときなど,これに応じても捜査に顕著な支障が生ずるおそれがない場合には,本来,検察官は,上記の申出に応ずべきものである。もっとも,被疑者と弁護人等との接見には,被疑者の逃亡,罪証の隠滅及び戒護上の支障の発生の防止の観点からの制約があるから,検察庁の庁舎内において,弁護人等と被疑者との立会人なしの接見を認めても,被疑者の逃亡や罪証の隠滅を防止することができ,戒護上の支障が生じないような設備のある部屋等が存在しない場合には,上記の申出を拒否したとしても,これを違法ということはできない。そして,上記の設備のある部屋等とは,接見室等の接見のための専用の設備がある部屋に限られるものではないが,その本来の用途,設備内容等からみて,接見の申出を受けた検察官が,その部屋等を接見のためにも用い得ることを容易に想到することができ,また,その部屋等を接見のために用いても,被疑者の逃亡,罪証の隠滅及び戒護上の支障の発生の防止の観点からの問題が生じないことを容易に判断し得るような部屋等でなければならないものというべきである。

 上記の見地に立って,本件をみるに,前記の事実関係によれば,広島地検の庁舎内には接見のための設備を備えた部屋は無いこと,及び庁舎内の同行室は,本来,警察署の留置場から取調べのために広島地検に押送されてくる被疑者を留置するために設けられた施設であって,その場所で弁護人等と被疑者との接見が行われることが予定されている施設ではなく,その設備面からみても,被上告人からの申出を受けたB検事が,その時点で,その部屋等を接見のために用い得ることを容易に想到することができ,また,その部屋等を接見のために用いても,被疑者の逃亡,罪証の隠滅及び戒護上の支障の発生の防止の観点からの問題が生じないことを容易に判断し得るような部屋等であるとはいえないことが明らかである。

 したがって,広島地検の庁舎内には,弁護人等と被疑者との立会人なしの接見を認めても,被疑者の逃亡や罪証の隠滅を防止することができ,戒護上の支障が生じないような設備のある部屋等は存在しないものというべきであるから,B検事がそのことを理由に被上告人からの接見の申出を拒否したとしても,これを直ちに違法ということはできない。

(2) しかしながら,上記のとおり,刑訴法39条所定の接見を認める余地がなく,その拒否が違法でないとしても,同条の趣旨が,接見交通権の行使と被疑者の取調べ等の捜査の必要との合理的な調整を図ろうとするものであること(前記大法廷判決参照)にかんがみると,検察官が上記の設備のある部屋等が存在しないことを理由として接見の申出を拒否したにもかかわらず,弁護人等がなお検察庁の庁舎内における即時の接見を求め,即時に接見をする必要性が認められる場合には,検察官は,例えば立会人の居る部屋での短時間の「接見」などのように,いわゆる秘密交通権が十分に保障されないような態様の短時間の「接見」(以下,便宜「面会接見」という。)であってもよいかどうかという点につき,弁護人等の意向を確かめ,弁護人等がそのような面会接見であっても差し支えないとの意向を示したときは,面会接見ができるように特別の配慮をすべき義務があると解するのが相当である。そうすると,検察官が現に被疑者を取調べ中である場合や,間近い時に取調べをする確実な予定があって弁護人等の申出に沿った接見を認めたのでは取調べが予定どおり開始できなくなるおそれがある場合など,捜査に顕著な支障が生ずる場合は格別,そのような場合ではないのに,検察官が,上記のような即時に接見をする必要性の認められる接見の申出に対し,上記のような特別の配慮をすることを怠り,何らの措置を執らなかったときは,検察官の当該不作為は違法になると解すべきである。

 (3) これを本件接見の拒否(1)についてみるに,前記の事実関係によれば,@被上告人は,担当のB検事に対し,平成4年3月5日午後2時20分ころ,本件執務室に電話をして本件被疑者との接見の申出をし,同検事から,広島地検の庁舎内には接見のための設備が無いことを理由に接見を拒否されるや,直ちに広島地検に出向き,同日午後2時35分ころ,本件執務室において,直接,同検事に対して接見の申出をしたが,同様の理由により拒否されたこと,Aその際,被上告人は,C事務官に対し,取調べまで時間があるはずなので今すぐに会わせてほしい旨,及び接見の場所は本件被疑者が現在待機中の部屋でもよいし,本件執務室でもよい,戒護の面で問題があるなら,裁判所の勾留質問室を借りてそこで会わせてほしい旨の申入れをしたが,B検事は,この申入れに対し,何らの配慮をせず,回答もしなかったこと,B本件被疑者は代用監獄である可部警察署の留置場において勾留されていたが,弁護人に選任された被上告人からの準抗告に基づき,前同日,勾留場所が少年鑑別所に変更されたこと,被上告人は,本件被疑者に対し,できる限り早くそのことを伝えて元気づけようと考え,接見を急いでいたこと,CB検事が本件被疑者の取調べを開始したのは,同日午後3時15分ころであって,被上告人が広島地検庁舎内でした接見申出の時から約40分ほどの時間があり,ごく短時間の接見であれば,これを認めても捜査に顕著な支障が生ずるおそれがあったとまではいえないこと等が明らかである。

 以上の諸点に照らすと,被上告人の上記接見の申出には即時に接見をする必要性があるものというべきであり,その際,被上告人が,接見の場所は本件被疑者が現在待機中の部屋(同行室のことと思われる。)でもよいし,本件執務室でもよいから,すぐに会わせてほしい旨の申出をしているのに,B検事が,立会人の居る部屋でのごく短時間の面会接見であっても差し支えないかどうかなどの点についての被上告人の意向を確かめることをせず,上記申出に対して何らの配慮もしなかったことは,違法というべきである。

 (4) 次に,本件接見の拒否(2)についてみるに,前記の事実関係によれば,@本件被疑者は,平成4年3月16日,第1被疑事件については処分保留のまま釈放されたが,同日,第2被疑事件で再逮捕されたこと,A被上告人は翌17日午前に本件被疑者と可部警察署において約6分間程度の接見をしたが,本件被疑者はその時点で被疑事実を否認しており,被上告人としては,再度黙秘権について教示する必要があると考え,また,いまだ第2被疑事件についての弁護人選任届を本件被疑者から受領していないことから,翌18日午前10時5分ころ,広島地検に赴き,本件被疑者との接見の申出をしたが,B検事は,前記と同様の理由により拒否したこと,B被上告人は,これに納得せず,本件被疑者から弁護人選任届を受領していないことから接見の必要があるなどと主張して再度の接見の申出をし,さらに,同日午前10時50分ころには,他の弁護士と共に本件執務室を訪れ,B検事に対し,本件被疑者との即時の接見を申し出たが,同検事は,これらの申出に対し,何らの配慮をせず,前記と同様の理由により拒否したこと,CB検事が本件被疑者から弁解の聴取を開始したのは,被上告人が広島地検の庁舎内において最初の接見の申出をした時点から約1時間40分後であり,また,上記弁解の聴取が終了した時点から本件被疑者が広島地裁に押送されるまでには4時間近くの時間があり,その間,本件被疑者は広島地検の庁舎内において待機していたのであるから,短時間の接見であれば,これを認めても捜査に顕著な支障が生ずるおそれがあったとは到底いえないこと等が明らかである。

 以上の諸点に照らすと,被上告人の上記接見の申出には即時に接見をする必要性があるものというべきであり,その際,被上告人が,本件被疑者から弁護人選任届を受領していないことから接見の必要があるなどと主張して即時の接見の申出をしているのに,B検事が,立会人の居る部屋での短時間の面会接見であっても差し支えないかどうかなどの点についての被上告人の意向を確かめることをせず,上記申出に対して何らの配慮もしなかったことは,違法というべきである。

 (5) 以上のとおり,B検事が,被上告人の上記各接見の申出に対し,面会接見に関する配慮義務を怠ったことは違法というべきであるが,本件接見の拒否(1),(2)は,それ自体直ちに違法とはいえない上,これらの接見の申出がされた平成4年当時,検察庁の庁舎内における接見の申出に対し,検察官が,その庁舎内に,弁護人等と被疑者との立会人なしの接見を認めても,被疑者の逃亡や罪証の隠滅を防止することができ,戒護上の支障が生じないような設備のある部屋等が存在しないことを理由に拒否することができるかという点については,参考となる裁判例や学説は乏しく,もとより,前記説示したような見解が検察官の職務行為の基準として確立されていたものではなかったこと,かえって,前記の事実関係によれば,広島地検では,接見のための専用の設備の無い検察庁の庁舎内においては弁護人等と被疑者との接見はできないとの立場を採っており,そのことを第1審強化方策広島地方協議会等において説明してきていること等に照らすと,B検事が上記の配慮義務を怠ったことには,当時の状況の下において,無理からぬ面があることを否定することはできず,結局,同検事に過失があったとまではいえないというべきである。

(6) そうすると,上記と異なる見解の下に,被上告人の請求の一部を認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,被上告人の請求は理由がないから,第1審判決のうち上告人敗訴部分を取り消し,同部分に関する被上告人の請求を棄却することとする。

 第2 附帯上告について

 上告受理申立てに対して附帯上告をすることはできないところ(最高裁平成10年(受)第963号,同年(オ)第2177号同11年4月23日第二小法廷決定・裁判集民事193号253頁),本件附帯上告は上告受理申立てに対してされたものであるから,不適法である。のみならず,附帯上告が上告と別個の理由に基づくものであるときは,当該上告の上告理由書の提出期間内に原裁判所に附帯上告状及び附帯上告理由書を提出してすることを要するところ(最高裁昭和37年(オ)第963号同38年7月30日第三小法廷判決・民集17巻6号819頁参照),@本件上告受理申立ては,検察官の接見の拒否が違法ではなく,また,検察官に過失がないことを理由とするものであるのに,本件附帯上告は,原判決認定の損害額が過少であることを理由とするものであるから,本件附帯上告は,本件上告受理申立てとは,別個の理由に基づくものであること,A本件附帯上告状が当審に提出されたのが平成17年2月4日であり,本件上告受理申立て理由書の提出期間(本件上告受理申立て通知書が送達された平成11年12月6日から50日)を超えた後であることは,記録上明らかである。したがって,本件附帯上告は,この点においても不適法である。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 藤田宙靖)

この判例に関する評釈

「最新判例演習室」 渕野貴生(静岡大学助教授) 法学セミナー607号124頁(2005年)

特に指定がないものは、最高裁判所判決です。
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