法律学研究支援室

判例 H15.07.16 第二小法廷・決定 平成15(あ)35 傷害致死被告事件(第57巻7号950頁)

判示事項:
  暴行とその被害者が現場からの逃走途中に遭遇した交通事故による死亡との間に因果関係があるとされた事例

要旨:
  暴行の被害者が現場からの逃走途中に高速道路に進入するという極めて危険な行動を採ったために交通事故に遭遇して死亡したとしても,その行動が,長時間激しくかつ執ような暴行を受け,極度の恐怖感を抱いて,必死に逃走を図る過程で,とっさに選択されたものであり,暴行から逃れる方法として,著しく不自然,不相当であったとはいえないなど判示の事情の下においては,上記暴行と被害者の死亡との間には因果関係がある。

参照・法条:
  刑法第1編第7章 犯罪の不成立及び刑の減免,刑法205条

内容:
 件名  傷害致死被告事件 (最高裁判所 平成15(あ)35 第二小法廷・決定 棄却)
 原審  H14.11.14 東京高等裁判所 (平成14(う)1230)

主    文
本件各上告を棄却する。

理    由

 被告人Aの弁護人及川信夫の上告趣意は,量刑不当の主張であり,被告人Bの弁護人滝谷滉の上告趣意は,事実誤認,単なる法令違反,量刑不当の主張であり,被告人Cの弁護人金沢裕幸の上告趣意は,事実誤認,単なる法令違反の主張であり,被告人Dの弁護人西嶋勝彦の上告趣意は,違憲をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 なお,所論にかんがみ,職権により判断する。

 1 原判決の認定によると,本件の事実関係は,次のとおりである。

 (1) 被告人4名は,他の2名と共謀の上,被害者に対し,公園において,深夜約2時間10分にわたり,間断なく極めて激しい暴行を繰り返し,引き続き,マンション居室において,約45分間,断続的に同様の暴行を加えた。

 (2) 被害者は,すきをみて,上記マンション居室から靴下履きのまま逃走したが,被告人らに対し極度の恐怖感を抱き,逃走を開始してから約10分後,被告人らによる追跡から逃れるため,上記マンションから約763mないし約810m離れた高速道路に進入し,疾走してきた自動車に衝突され,後続の自動車にれき過されて,死亡した。

 2 【要旨】以上の事実関係の下においては,被害者が逃走しようとして高速道路に進入したことは,それ自体極めて危険な行為であるというほかないが,被害者は,被告人らから長時間激しくかつ執ような暴行を受け,被告人らに対し極度の恐怖感を抱き,必死に逃走を図る過程で,とっさにそのような行動を選択したものと認められ,その行動が,被告人らの暴行から逃れる方法として,著しく不自然,不相当であったとはいえない。そうすると,被害者が高速道路に進入して死亡したのは,被告人らの暴行に起因するものと評価することができるから,被告人らの暴行と被害者の死亡との間の因果関係を肯定した原判決は,正当として是認することができる。

よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 福田 博 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷 玄 裁判官 滝井繁男)

この判例に関する評釈

「時の判例」 深町晋也(岡山大学助教授) 法学教室281号148頁

特に指定がないものは、最高裁判所判決です。
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