法律学研究支援室

事件番号 平成17(受)948
事件名 所有権確認請求事件
裁判年月日 平成18年07月20日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 その他
判例集巻・号・頁
原審裁判所名 福岡高等裁判所?? 宮崎支部
原審事件番号 平成16(ネ)41
原審裁判年月日 平成17年01月28日
判示事項
裁判要旨 1 動産譲渡担保が同一の目的物に重複して設定されている場合,後順位譲渡担保権者は私的実行をすることができない。
2 集合動産譲渡担保の設定者が,目的動産につき通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合,当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められない限り,当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできない。
参照法条
全文

主文

1 原判決を破棄する。
2 被上告人の請求のうち原判決別紙物件目録1記載の物件の引渡しを求める部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
3 その余の部分につき,本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
4 第2項に関する控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人佐瀬正俊ほかの上告受理申立て理由について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 上告人は,ブリ,ハマチ,カンパチ等の養殖,加工,販売等を業とする株式会社である。
(2) 上告人は,A(以下「A」という。)との間で,平成12年6月30日,Aを譲渡担保権者,上告人を譲渡担保設定者とする次の内容の集合動産譲渡担保契約を締結し,占有改定の方法により目的物を引き渡した。
ア 譲渡担保の目的は,串間漁場(宮崎県串間市沖合,漁業権公示番号区第53号),黒瀬漁場(同第54号)ほかの漁場のいけす内に存する上告人所有の養殖魚の全部とする。
イ 被担保債権は,養魚用配合飼料の売買取引によりAが上告人に対して現在及び将来有する売掛債権等一切の債権とし,極度額を25億円とする。
ウ Aは,上告人が上記目的物を無償で使用し,飼育生産管理し,通常の営業のために第三者に適正な価格で譲渡することを許諾する。
エ 上記ウにより第三者に譲渡された養殖魚は譲渡担保の目的から除外される。
上告人は,上記ウに基づき目的物を搬出したときは,速やかに新たな養殖魚をいけすに搬入し,補充しなければならず,上告人が補充した養殖魚は,当然に譲渡担保の目的を構成する。
(3) 上告人は,B(以下「B」という。)との間で,平成12年12月7日,Bを譲渡担保権者,上告人を譲渡担保設定者とする次の内容の集合動産譲渡担保契約を締結し,占有改定の方法により目的物を引き渡した。
ア 譲渡担保の目的は,黒瀬漁場のいけす内の養殖魚全部とする。
イ 被担保債権は,Bが上告人に対して現在及び将来有する一切の債権とし,極度額を10億円(元本)とする。
ウ Bは,上告人が目的物をその当然の用法に従い無償で使用することを許諾し,上告人は善良なる管理者の注意義務をもって管理する。
エ Bが目的物につき担保権を実行する場合には,上告人に対し,保管替え又は処分のために目的物の現実の引渡しを求めることができる。
(4) 上告人は,C(以下「C」という。)との間で,平成15年2月14日,Cを譲渡担保権者,上告人を譲渡担保設定者とする次の内容の集合動産譲渡担保契約を締結し,占有改定の方法により目的物を引き渡した。
ア 譲渡担保の目的は,串間漁場,黒瀬漁場ほかの漁場のいけす内に存する上告人所有の養殖魚の全部とする。
イ 被担保債権は,上告人とC間の商取引及び金融取引に基づく債権とし,極度額を30億円とする。
ウ 上告人は,善管注意義務をもって目的物を通常の営業方法に従い販売する。
その代金はCの承諾を得て上告人の運転資金に供することができる。
(5) 上告人は,被上告人との間で,平成15年4月30日,@上告人の所有する養殖魚(以下「原魚」という。)の被上告人への売却,A被上告人から上告人への原魚の預託,B買戻しの各要素から成る次の内容の契約(以下「本件契約1」という。)を締結した。
ア 原魚の売却上告人は,被上告人に対し,次のとおり,その所有する原魚を預託用原魚として売却し,被上告人はこれを買い取る。
(ア) 売却の目的物は,黒瀬漁場内の特定の21基のいけす内のブリ13万5212尾とする。
(イ) 売買単価は,1s当たり620円とする。
(ウ) 売買代金は,上告人の被上告人に対する同日までの債務に充当(対当額により相殺)するものとする。
(エ) 預託用原魚の所有権は,同日,上告人から被上告人に移転するものとし,各対象いけすに被上告人が所有者であること及び後記預託期間を表示した明りょうな標識を設置するものとする。
イ 原魚の預託被上告人は,上記のとおり買い取った預託用原魚の飼育管理を,次のとおり,上告人に委託し,上告人はこれを受託する。
(ア) 預託期間は,同日から平成16年4月30日までとする。
(イ) 上告人が被上告人から預託された原魚を飼育する際に発生する経費は,上告人が被上告人から下記のとおりこれを買い戻すときに精算する。
ウ買戻し上告人は,上記のとおり預託された原魚を,次のとおり,被上告人から買い戻し,これにフィレ加工を行い,被上告人に販売する。
被上告人はこれをDに販売する。
(ア) 買戻期間は,平成15年10月1日から平成16年4月30日までとする。
(イ) 買戻代金は,上記アにより売り渡した預託用原魚の金額に経費を加算して算出した金額とする。
(ウ) 買戻代金の支払は,上告人から被上告人への加工販売代金との精算をもって行う。
エ その他の約定(ア) 本件契約1の期間は,平成15年4月30日から平成16年4月30日までとし,期間満了日に被上告人所有の預託用原魚が残留する場合,契約を継続する。
(イ) 上告人につき,破産等の申立てがあったときは,被上告人は,契約期間中であっても,本件契約1を解除することができる。
(ウ) 上告人が支払不能の場合,被上告人は原魚を第三者に売却する権利を有するものとする。
(6) 上告人は,被上告人との間で,平成15年4月30日,上告人の所有する養殖ハマチを,次のとおり,被上告人に売却する旨の契約(以下「本件契約2」という。)を締結した。
ア 目的物は,上告人の所有する養殖ハマチ計27万2566尾とし,販売単価は1s当たり650円とする。
イ 被上告人は,第三者への売却を目的として,同年7月31日までにすべての目的物をいけすから移動するものとする。
上告人はすべての目的物が移動するまで被上告人に代わり飼育を行うものとする。
(7) 原判決別紙物件目録1記載の養殖魚(以下「本件物件1」という。)は本件契約1の目的物,同目録2記載の養殖魚(以下「本件物件2」という。)は本件契約2の目的物となったものであるが,本件物件1及び2(以下,併せて「本件各物件」という。)は,A,B及びCの上記各譲渡担保(以下「本件各譲渡担保」という。)の目的物ともなったものである。
(8) 上告人は,平成15年7月30日,東京地方裁判所に民事再生手続開始の申立てをし,同年8月4日,同開始決定がされた。
2 本件は,被上告人が,上告人に対し,本件契約1及び2(以下,併せて「本件各契約」という。)により本件各物件の所有権を取得したとして,所有権に基づく本件各物件の引渡しを求める事案である。
これに対し,上告人は,@本件各契約は譲渡担保契約と解すべきである,A本件各契約に先立って,A,B及びCが本件各物件を含む養殖魚について本件各譲渡担保の設定を受け,対抗要件を備えている以上,被上告人は,即時取得の要件を満たさない限り,本件各物件の所有権を取得することはあり得ないなどと主張した。
3 原審は,次のとおり判断して,被上告人の請求を認容した。
(1) 本件各契約は,上告人を売主,被上告人を買主とする売買契約を本体とする契約であり,これを譲渡担保契約と認めることはできない。
(2) 商品の集合動産譲渡担保契約において,譲渡担保設定者は,独自の判断において,目的物たる商品を通常の営業の範囲内において第三者に売却する権限を留保していると解すべきであり,上告人とA及びCとの間の各譲渡担保契約においても,この事理を確認した条項が定められているところである。
このような集合動産譲渡担保契約においては,譲渡担保設定者に,目的物の売却によりその所有権を第三者に確定的に移転取得させることができるという物権的地位がとどめられていると解さざるを得ない。
そうだとすると,被上告人は,上告人が有する上記物権的地位に基づき,本件各物件の所有権を承継取得したというべきである。
本件各物件につきA,B及びCのために本件各譲渡担保が設定されているとしても,被上告人の所有権に基づく引渡請求を妨げる抗弁となるものではない。
したがって,被上告人の請求は理由がある。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。
その理由は,次のとおりである。
(1) 本件物件1について前記確定事実によれば,本件契約1においては,上告人から被上告人への原魚の売却と同時に,被上告人から上告人への原魚の預託が行われるため,契約時に目的物に対する直接の占有は移転せず,上告人が原魚の飼育管理を継続して行うこととされていること,当初の原魚の売買代金は,被上告人の上告人に対する既存の債権に充当するものとされており,現実の代金の授受は行われないこと,原魚を現実の商品として第三者(D)に販売しようとする際には,いったん上告人が被上告人から買い戻した上,改めて上告人から被上告人に対し,加工品として販売するものとされており(上記1(5)ウ),実質的には,この加工販売代金との精算をもって,被上告人の上告人に対する既存の債権の回収が行われることになること,上告人が支払不能になった場合には,被上告人が原魚を第三者に売却することで,上記債権の回収が図られることになることが明らかである。
これらの点に照らせば,本件契約1は,その目的物を上記債権の担保とする目的で締結されたものにほかならない。
そうすると,本件契約1は,再売買が予定されている売買契約の形式を採るものであり,契約時に目的物の所有権が移転する旨の明示の合意(前記1(5)ア(エ))がされているものであるが,上記債権を担保するという目的を達成するのに必要な範囲内において目的物の所有権を移転する旨が合意されたにすぎないというべきであり,本件契約1の性質は,譲渡担保契約と解するのが相当である。
したがって,本件契約1が真正な売買契約であることを前提に,本件物件1の所有権に基づく引渡請求(取戻権の行使)を認めることはできない。
ところで,被上告人の主張が,本件契約1が譲渡担保契約であれば,譲渡担保の実行に基づく引渡しを請求する趣旨(別除権の行使)を含むものであるとしても,以下に述べるとおり,これを肯認する余地はない。
すなわち,本件物件1については,本件契約1に先立って,A,B及びCのために本件各譲渡担保が設定され,占有改定の方法による引渡しをもってその対抗要件が具備されているのであるから,これに劣後する譲渡担保が,被上告人のために重複して設定されたということになる。
このように重複して譲渡担保を設定すること自体は許されるとしても,劣後する譲渡担保に独自の私的実行の権限を認めた場合,配当の手続が整備されている民事執行法上の執行手続が行われる場合と異なり,先行する譲渡担保権者には優先権を行使する機会が与えられず,その譲渡担保は有名無実のものとなりかねない。
このような結果を招来する後順位譲渡担保権者による私的実行を認めることはできないというべきである。
また,被上告人は,本件契約1により本件物件1につき占有改定による引渡しを受けた旨の主張をするにすぎないところ,占有改定による引渡しを受けたにとどまる者に即時取得を認めることはできないから,被上告人が即時取得により完全な譲渡担保を取得したということもできない。
よって,本件物件1の引渡しを求める被上告人の請求は理由がないというべきであり,これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
(2) 本件物件2について本件契約2が譲渡担保契約であると解すべき根拠はないから,以下,これが真正な売買契約であることを前提に,被上告人が本件契約2に基づいて本件物件2の所有権を取得したといえるかどうか,検討する。
構成部分の変動する集合動産を目的とする譲渡担保においては,集合物の内容が譲渡担保設定者の営業活動を通じて当然に変動することが予定されているのであるから,譲渡担保設定者には,その通常の営業の範囲内で,譲渡担保の目的を構成する動産を処分する権限が付与されており,この権限内でされた処分の相手方は,当該動産について,譲渡担保の拘束を受けることなく確定的に所有権を取得することができると解するのが相当である。
上告人とA及びCとの間の各譲渡担保契約の前記条項(前記1(2)ウ,エ,(4)ウ)は,以上の趣旨を確認的に規定したものと解される。
他方,対抗要件を備えた集合動産譲渡担保の設定者がその目的物である動産につき通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合,当該処分は上記権限に基づかないものである以上,譲渡担保契約に定められた保管場所から搬出されるなどして当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められる場合でない限り,当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできないというべきである。
本件においては,本件物件2が本件各譲渡担保の目的である集合物から離脱したと解すべき事情はないから,被上告人が本件契約2により本件物件2の所有権を承継取得したかどうかを判断するためには,本件契約2による本件物件2の売却処分が上告人の通常の営業の範囲内のものかどうかを確定する必要があるというべきである。
この点を審理判断することなく,本件物件2の引渡請求を認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
5 論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。
そして,被上告人の請求のうち,本件物件1の引渡しを求める部分については,これを棄却した第1審判決は正当であるから,同部分についての被上告人の控訴を棄却し,本件物件2の引渡しを求める部分については,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 泉 徳治 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)

特に指定がないものは、最高裁判所判決です。
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