法律学研究支援室

事件番号 平成14(受)133
事件名 占有権に基づく妨害予防請求事件
裁判年月日 平成18年02月21日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果
判例集巻・号・頁
原審裁判所名 東京高等裁判所??
原審事件番号 平成13(ネ)986
原審裁判年月日 平成13年10月30日
判示事項
裁判要旨 道路を一般交通の用に供するために管理している地方公共団体は,その管理の内容,態様によれば,道路がその事実的支配に属するものというべき客観的関係にあると認められる場合には,道路を構成する敷地について占有権を有する
参照法条
全文

主文

原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

 上告代理人友田和昭の上告受理申立て理由について
1 本件は,上告人が,道路法所定の道路管理者(以下「道路管理者」という。)として,原判決別紙物件目録記載の土地全体(以下「本件道路敷」という。)によって構成される道路(以下「本件道路」という。)を現に管理しているから,本件道路敷について占有権を有するところ,被上告人らが上告人の占有を妨害するおそれがあるとして,被上告人らに対し,本件道路敷について,民法199条に基づき,占有の妨害の予防を求める事案である。
 2 上告人の主張する事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 本件道路の現況は,東武鉄道伊勢崎線の北越谷駅東口から県道大野島越谷線に通じる幅員7.20m,延長47.80mの「越谷市道50468号線」であり,同駅前を発着場所とするバス,タクシーや電車の乗降客等が往来する終日交通量の多い道路である。
 原判決別紙物件目録1及び2記載の土地(以下「本件各土地」という。)は,本件道路敷の一部である。
 (2) 国は,明治33年初めころ,前所有者であるAから本件各土地の寄附を受けてその所有権を取得し,そのころ,本件各土地を含む本件道路敷によって構成される本件道路を開設し,その供用を開始した。
 その後,旧道路法(昭和27年法律第181号による廃止前のもの)の下においては,埼玉県知事が国の機関として本件道路を県道として管理し,道路法が昭和27年12月5日に施行された後,昭和42年2月までは,埼玉県が,国から本件道路敷の無償貸付けを受け,道路管理者として,本件道路を県道として管理してきたが,同年3月以降は,上告人が,国から本件道路敷の無償貸付けを受け,道路管理者として,本件道路を市道として管理している。
 (3) 上告人は,昭和42年3月以降,道路管理者として,本件道路を一般交通の用に供するため,本件道路について,@道路法28条に基づき,道路台帳の調製及び保管を行い,A同法42条に基づき,昭和45年には道路舗装補修工事を,昭和51年には道路補修工事を,昭和63年には道路舗装工事を行うなど,本件道路を常時良好な状態に保つために必要な維持,修繕を行い,B同法第3章第3節に基づき,電線,電話線,水道管等の架設,埋設工事のため本件道路を継続して使用する必要がある場合には,道路の占用の許可を与え,C同法71条に基づき,被上告人らが本件道路について後記(4)の交通妨害行為を行う都度,監督処分を行い,これによってなお原状を回復することができないときには,行政代執行法に基づく代執行をするなど,本件道路の管理,占有をしている。
 (4) 国は,本件各土地の寄附を受けた後も,所有権移転登記手続をしていなかったため,本件各土地の登記名義はAのままであったところ,平成4年10月1日,被上告人Y1は原判決別紙物件目録1記載の土地について,同Y2は同目録2記載の土地について,それぞれ同日売買を原因とする所有権移転登記を受けた。
 その後,被上告人らは,同月15日ころから,本件各土地の所有者である旨主張して,上告人に対し,本件各土地を時価で買い取るか,その代替地を提供するよう執ように要求するようになった。
これに対し,上告人が,本件各土地は国の所有であり,被上告人らの要求に応じることはできないとして,これを拒否したところ,被上告人らは,上告人が何らの権原もなく被上告人らの所有する本件各土地を使用しているなどと主張して,平成5年10月21日ころから平成9年9月7日までの間,断続的に,本件道路の交通を妨害し,あるいは,今にも本件道路の交通を妨害するかのような態度を示した。
被上告人らは,今後も,本件道路の交通を妨害するおそれがある。
 3 被上告人らは,国が本件各土地の所有権を取得して適法に本件道路の供用を開始したことや,上告人が本件道路敷について占有権を有することを否認するなどして争っている。
 4 原審は,次のとおり判断して,上告人の請求を棄却した。
 道路管理権は,道路管理者に対して,民法その他の私法上の権限とは全く無関係に,道路法によって独自に与えられたものであり,その内容及び範囲は,同法が定めるところに限定されるというべきである。
また,道路管理権は,あくまで道路を一般交通の用に供するために行使されるものであるから,これを行使することが,当然に,民法180条にいう「自己のためにする意思をもって物を所持すること」に当たるということはできない。
 以上によれば,道路管理者が,自己の管理する道路の敷地について占有権を有すると主張する場合には,単に道路管理権を行使して当該道路を現に管理していることを主張,立証するだけでは足りず,道路管理権とは別個に,占有権の取得原因事実を主張,立証する必要があるというべきである。
 そうすると,本件道路敷について占有権を有する根拠として,道路管理者として本件道路について道路管理権を行使していることのみを主張する上告人の主張は,それ自体失当というべきである。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,上告人の請求は理由がない。
 5 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。
その理由は,次のとおりである。
 (1) 占有権の取得原因事実は,自己のためにする意思をもって物を所持することであるところ(民法180条),ここでいう所持とは,社会通念上,その物がその人の事実的支配に属するものというべき客観的関係にあることを指すものと解される(大審院昭和15年(オ)第1号同年10月24日判決・法律新聞4637号10頁参照)。
 そうすると,地方公共団体が,道路を一般交通の用に供するために管理しており,その管理の内容,態様によれば,社会通念上,当該道路が当該地方公共団体の事実的支配に属するものというべき客観的関係にあると認められる場合には,当該地方公共団体は,道路法上の道路管理権を有するか否かにかかわらず,自己のためにする意思をもって当該道路を所持するものということができるから,当該道路を構成する敷地について占有権を有するというべきである。
 (2) これを本件についてみると,上告人が,本件道路を一般交通の用に供するために,その主張するとおりの内容,態様で本件道路を管理している事実が認められるとすれば,上告人は,本件道路敷について占有権を有するものというべきである。
 したがって,上告人の本件道路敷についての占有権の取得原因事実の主張はそれ自体失当であるとして,上告人の主張する事実関係について何ら審理することなく,上告人の請求を棄却した原審の判断には,判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
論旨は,以上と同旨をいうものとして,理由がある。
 6 以上のとおりであるから,原判決を破棄し,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男)

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