法律学研究支援室

事件番号 平成17(受)1206
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成18年06月01日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 その他
判例集巻・号・頁
原審裁判所名 名古屋高等裁判所?? 金沢支部
原審事件番号 平成16(ネ)219
原審裁判年月日 平成17年02月28日
判示事項
裁判要旨 「衝突,接触…その他偶然な事故」を保険事故とする自家用自動車総合保険契約の約款に基づき,車両の水没が保険事故に該当するとして,車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わない
参照法条
全文

主文

1 原判決のうち予備的請求に関する部分を破棄する。
2 前項の部分につき本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
3 上告人の主位的請求に関する上告を却下する。
4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人林成凱の上告受理申立て理由について1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 上告人は,普通乗用自動車(シボレーキャンピング車。
以下「本件車両」という。
)を所有していた。
被上告人は,損害保険業等を目的とする株式会社である。
(2) 上告人は,平成12年11月1日,A保険株式会社との間で,@被保険自動車を本件車両,A車両につき保険金額を245万円,B保険期間を平成12年11月1日から平成13年11月1日までとする自家用自動車総合保険契約(以下「本件保険契約」という。
)を締結した。
本件保険契約に適用される保険約款第5章(車両条項)第1条には「当会社は,衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の落下,火災,爆発,盗難,台風,こう水,高潮その他偶然な事故によって保険証券記載の自動車(以下「被保険自動車」といいます。
)に生じた損害に対して,この車両条項および一般条項に従い,被保険自動車の所有者(以下この章において,「被保険者」といいます。
)に保険金を支払います。
」との条項(以下「本件条項」という。
)がある。
(3) 被上告人は,平成13年4月2日,A保険株式会社を吸収合併した。
(4) 平成13年10月29日午前11時50分ころ,福井県大飯郡高浜町所在の和田マリーナにおいて,本件車両が海中に水没する事故(以下「本件事故」という。
)が発生した。
本件車両は,本件事故発生後,廃棄処分とされた。
2 本件は,上告人が,被上告人に対し,主位的には,被上告人からの保険金の支払に関する回答が遅れたため本件車両の早期の修理が不能になったなどと主張して不法行為に基づき損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求め,予備的には,本件保険契約に基づき車両保険金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
3 原審は,概要次のとおり判断して,上告人の予備的請求を棄却すべきものとした。
保険金の支払事由を火災によって損害が生じたこととする火災保険契約の約款に基づき,保険者に対して保険金の支払を請求する者は,火災発生が偶然のものであることを主張,立証すべき責任を負わない(最高裁平成16年(受)第988号同年12月13日第二小法廷判決・民集58巻9号2419頁)。
しかしながら,火災保険契約の約款においては,火災発生の偶然性は要件として規定されていないのであり,車両保険契約と火災保険契約とでは,保険金請求権の成立要件に関する保険約款の規定の内容が異なる。
また,実質的にみても,火災事故の立証の困難性は自動車事故のそれとは著しく異なる。
そうすると,本件保険契約に基づき車両保険金の支払を請求する者は,事故が偶然のものであることを主張,立証すべきであるところ,本件事故を偶然の事故と認めることは困難であり,本件においては,保険金請求権の請求原因事実の立証がないというべきである。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。
その理由は,次のとおりである。
商法629条が損害保険契約の保険事故を「偶然ナル一定ノ事故」と規定したのは,損害保険契約は保険契約成立時においては発生するかどうか不確定な事故によって損害が生じた場合にその損害をてん補することを約束するものであり,保険契約成立時において保険事故が発生すること又は発生しないことが確定している場合には,保険契約が成立しないということを明らかにしたものと解すべきである。
同法641条は,保険契約者又は被保険者の悪意又は重過失によって生じた損害については,保険者はこれをてん補する責任を有しない旨規定しているが,これは,保険事故の偶然性について規定したものではなく,保険契約者又は被保険者が故意又は重過失によって保険事故を発生させたことを保険金請求権の発生を妨げる免責事由として規定したものと解される。
本件条項は,「衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の落下,火災,爆発,盗難,台風,こう水,高潮その他偶然な事故」を保険事故として規定しているが,これは,保険契約成立時に発生するかどうか不確定な事故をすべて保険事故とすることを分かりやすく例示して明らかにしたもので,商法629条にいう「偶然ナル一定ノ事故」を本件保険契約に即して規定したものというべきである。
本件条項にいう「偶然な事故」を,商法の上記規定にいう「偶然ナル」事故とは異なり,保険事故の発生時において事故が被保険者の意思に基づかないこと(保険事故の偶発性)をいうものと解することはできない。
原審が判示するように火災保険契約と車両保険契約とで事故原因の立証の困難性が著しく異なるともいえない。
したがって,車両の水没が保険事故に該当するとして本件条項に基づいて車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わないというべきである。
5 原審は,本件条項にいう事故の偶然性は事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることをいうと解したものと判断されるが,このような解釈が採り得ないことは上記のとおりである。
そして,本件保険契約成立時において本件事故が発生するかどうかが確定していなかったことは明らかであるから,本件事故が偶然なものであるという立証がないとして請求を棄却することはできない。
原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
論旨は理由があり,原判決のうち予備的請求に関する部分は破棄を免れない。
そして,同部分につき,免責事由の有無等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
なお,上告人は,主位的請求に関する上告については上告受理申立て理由を記載した書面を提出しないから,同請求に関する上告は却下することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉 徳治 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)

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