法律学研究支援室

判例 H16.02.20 第二小法廷・判決 平成14(受)399 預託金返還請求事件(第58巻2号367頁)

判示事項:
 ゴルフ場の営業の譲受人が譲渡人の用いていた預託金会員制のゴルフクラブの名称を継続して使用している場合における譲受人の預託金返還義務の有無

要旨:
 預託金会員制のゴルフクラブの名称がゴルフ場の営業主体を表示するものとして用いられている場合において,ゴルフ場の営業の譲渡がされ,譲渡人が用いていたゴルフクラブの名称を譲受人が継続して使用しているときには,譲受人が譲受後遅滞なく当該ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り,譲受人は,商法26条1項の類推適用により,会員が譲渡人に交付した預託金の返還義務を負う。

参照・法条:
 商法26条1項

内容:
件名  預託金返還請求事件 (最高裁判所 平成14(受)399 第二小法廷・判決 破棄差戻し)
原審  H13.12.07 大阪高等裁判所 (平成13(ネ)2776)

主    文
原判決を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理    由

 上告代理人上谷佳宏,同木下卓男,同幸寺覚,同笠井昇,同福元隆久,同山口直樹,同今井陽子,同松元保子,同小野法隆の上告受理申立て理由について

 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1) A(以下「A」という。)は,ゴルフ場その他スポーツ施設の運営等を業とする会社であり,「B」という名称の預託金会員制のゴルフクラブ(以下「本件クラブ」という。)が設けられているゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)を経営していた。

 (2) 上告人は,平成元年8月28日,Aに対し,1300万円を預託し(以下,この預託金を「本件預託金」という。),本件クラブの正会員の資格を取得した。

 (3) 被上告人は,Aから本件ゴルフ場の営業を譲り受け,それ以降,Aの商号は用いていないものの,本件クラブの名称を用いて本件ゴルフ場の経営をしている。

 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件ゴルフ場の営業を譲り受け,本件クラブの名称を継続して使用している被上告人は,商法26条1項の類推適用により,本件預託金の返還義務を負うべきであると主張して,本件預託金及び遅延損害金の支払を求める事案である。なお,原判決においては,被上告人が上記営業を譲り受けるに際しAが本件クラブの会員に対して負担している預託金返還債務の引受けをしたという事実は,認定されていない。

 3 原審は,次のとおり判断して,上告人の請求を認容した第1審判決を取り消し,上告人の請求を棄却した。

 ゴルフ場の営業主体である企業は,その商号とは別にゴルフクラブの名称を営業上使用することが多い。しかしながら,ゴルフクラブの会員が入会に当たりゴルフクラブの名称に寄せる信頼の内実は,優先的利用が可能なゴルフ場施設の充実度や至便性,会員の社会的地位により表象されるブランドそのものであって,ゴルフ場の営業主体である企業の取引上の信用や営業用財産ではない。これに対し,ゴルフクラブの会員が,預託金の返還請求をする場合に信頼のよりどころとなるのは,ゴルフクラブの名称により表象されるブランドではなく,商号により表象されるゴルフ場の営業主体である。そして,一般に,ゴルフクラブの名称とゴルフ場の営業主体とが異なることは,ゴルフ会員権を購入する者であれば容易に知り得るところである。したがって,本件ゴルフ場の営業を譲り受けた被上告人が,本件クラブの名称を継続して使用していることを理由に,商法26条1項の類推適用を認め,被上告人に本件預託金の返還義務を負わせることは相当ではない。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 預託金会員制のゴルフクラブが設けられているゴルフ場の営業においては,当該ゴルフクラブの名称は,そのゴルフクラブはもとより,ゴルフ場の施設やこれを経営する営業主体をも表示するものとして用いられることが少なくない。本件においても,前記の事実関係によれば,Aから営業を譲り受けた被上告人は,本件クラブの名称を用いて本件ゴルフ場の経営をしているというのであり,同クラブの名称が同ゴルフ場の営業主体を表示するものとして用いられているとみることができる。このように,【要旨】預託金会員制のゴルフクラブの名称がゴルフ場の営業主体を表示するものとして用いられている場合において,ゴルフ場の営業の譲渡がされ,譲渡人が用いていたゴルフクラブの名称を譲受人が継続して使用しているときには,譲受人が譲受後遅滞なく当該ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り,会員において,同一の営業主体による営業が継続しているものと信じたり,営業主体の変更があったけれども譲受人により譲渡人の債務の引受けがされたと信じたりすることは,無理からぬものというべきである。したがって,譲受人は,上記特段の事情がない限り,商法26条1項の類推適用により,会員が譲渡人に交付した預託金の返還義務を負うものと解するのが相当である。

 5 以上のとおりであるから,本件において上記特段の事情の存否につき審理判断することなく商法26条1項の類推適用を否定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記特段の事情の存否について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 福田 博 裁判官 亀山継夫 裁判官 滝井繁男)

この判例に関する評釈

「最新判例演習室」 笹本幸祐(西南学院大学教授) 法学セミナー602号122頁(2005年)
「時の判例」 高橋美加(北海道大学助教授) 法学教室289号150頁(2004年)
小林量 民商法雑誌131巻6号142頁(2005年)
宇田一明(愛知大学教授) ジュリスト1291号100頁平成16年度重要判例解説(2005年)

特に指定がないものは、最高裁判所判決です。
【分野別トップへ】
【トップページに戻る】

憲法. 民法.   刑法.   商法.   民事訴訟法.   刑事訴訟法
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送