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判例 平成16年04月23日 第二小法廷判決 平成12年(行ヒ)第246号 不作為の違法確認等請求事件

要旨:
1 道路が権原なく占有された場合には,道路管理者は,占有者に対し,占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を取得する
2 たばこ等の自動販売機を都道にはみ出して設置した業者が東京都に協力し費用の負担をして多数の自動販売機を撤去したなど判示の事情の下では,東京都がその業者に対して撤去前の都道占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を行使しないことは,違法ではない

内容:  件名 不作為の違法確認等請求事件 (最高裁判所 平成12年(行ヒ)第246号 平成16年04月23日 第二小法廷判決 棄却)
 原審 東京高等裁判所 (平成7年(行コ)第106号、107号、108号、109号)

主    文
       本件上告を棄却する。

       上告費用は上告人らの負担とする。

理    由

 上告代理人浅野晋,同伊佐山芳郎,同山本政明,同三枝基行,同原勝己の上告受理申立て理由(排除されたものを除く。)について

 1 本件は,東京都の住民である上告人らが,自動販売機で販売されるたばこ又は清涼飲料水等の商品の製造業者(以下「商品製造業者」という。)である被上告人らは自動販売機を東京都の管理する都道に権原なくはみ出して設置し,これによって東京都は都道の占用料相当額の損害を被ったとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下同じ。)242条の2第1項4号に基づき,東京都に代位して,被上告人らに対し,その損害賠償又は不当利得返還を請求する住民訴訟である。

 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 (1) 「主婦連合会」,「タバコと健康全国協議会」,「日本アルコール問題連絡協議会」などの市民団体(以下「主婦連等」という。)は,自動販売機が道路にはみ出して設置されることは通行の妨害になり,また,酒及びたばこの自動販売機は未成年者の飲酒喫煙の防止の観点から望ましくないなどとして,都道にはみ出して設置された自動販売機(以下「はみ出し自動販売機」という。)を撤去させるための活動を始めることとし,平成2年8月から9月にかけて行った調査の結果を踏まえ,同年10月4日,東京都その他の関係行政機関,酒類及びたばこの製造業者等に対し,はみ出し自動販売機の撤去を促す趣旨の申入れをした。さらに,主婦連等は,被上告人らを含む商品製造業者に対し,はみ出し自動販売機の撤去を要請するなど,はみ出し自動販売機の撤去運動を進めた。

 (2) 東京都は,主婦連等の前記申入れを受けて,平成2年10月末日ころ,自動販売機関係団体に対し,はみ出し自動販売機の移設,撤去等の是正措置をとることを要請した。

 次いで,東京都が,同3年1月から12月にかけて,道路延長約604qにわたり,はみ出し自動販売機のサンプル調査を実施したところ,同4年6月,1539台が道路にはみ出していることが判明した。そこで,東京都は,上記調査結果を受けて,商品製造業者及びその上部団体並びに自動販売機関係団体に対し,是正指導をするとともに,商品製造業者に対し,はみ出し自動販売機の実態を把握した上でその是正計画を同5年3月末日までに書面で提出することを要請した。さらに,東京都は,同年5月14日,商品製造業者から提出された実態調査及び是正計画についての報告書をまとめるとともに,個々のはみ出し自動販売機についてその管理者を特定することは困難で,そのためには多数の人員と多額の費用を要すると想定されるものであったことから,関係団体や商品製造業者に対して協力を要請し,はみ出し自動販売機の撤去等の是正措置の促進を指導した。

 さらに,東京都は,同年10月20日から同年12月10日にかけて,再三にわたり,商品製造業者及びその上部団体並びに小売店等に対し,はみ出し自動販売機の撤去等の是正措置を速やかに実施するように,その方法,費用負担,期限,関係業者の協力等を含めて具体的かつ明示的な指導をした。

 (3) 被上告人らは,主婦連等の前記申入れを受け,また,上部団体や東京都等の関係行政機関からの指導を受けて,はみ出し自動販売機の撤去等によりはみ出しの是正を進めようとしたが,道路敷と私有地との境界が明確でないこと,他のはみ出し物件と自動販売機との取扱いの不平等,是正に必要な費用負担,是正不可能な場合の取扱いなど数多くの問題点があったこと,また,自動販売機の利便性や有用性を理由として,小売店のほか一般人にも抵抗感があったことなどから,その撤去は,当初必ずしも円滑に進まなかった。しかし,東京都は,当初の方針を変えず,継続して被上告人らの協力を得てその目的の達成を目指し,これを受けた被上告人らも,小売店等の説得に努めるとともに,是正に必要な費用の相当部分を負担するなど東京都の是正指導に対して極めて積極的に対応し,協力を続けた。その結果,本件において上告人らの指摘する原判決別紙自動販売機の目録(以下「本件目録」という。)の1,3ないし5記載の各自動販売機については,平成5年11月までに撤去され,また,その当時約3万6000台もあった東京都内のはみ出し自動販売機のほとんどが同6年初めころまでに撤去された。

 (4) 被上告人A株式会社は本件目録1記載の自動販売機を,被上告人B株式会社は本件目録3及び4記載の各自動販売機を,また,被上告人C株式会社は本件目録5記載の自動販売機を,それぞれ遅くとも平成5年3月までに,道路占用許可を受けることなく都道にはみ出して設置した。

 その後,被上告人A株式会社は,同年10月20日,本件目録1記載の自動販売機を都道敷から撤去した。次いで,被上告人B株式会社は,同年11月12日に本件目録3記載の自動販売機を,同月16日に本件目録4記載の自動販売機をそれぞれ都道敷から撤去した。また,被上告人C株式会社は,同月12日,本件目録5記載の自動販売機を都道敷から撤去した。

 (5) 上告人らが本件訴訟において請求する平成5年3月23日又は同年4月1日から上記撤去の日までの都道の権原のない占有を理由とする損害賠償又は不当利得の額は,本件の自動販売機がいずれも道路法32条1項1号及び東京都道路占用料等徴収条例(昭和27年東京都条例第100号)別表の広告塔に該当し,その設置場所は同別表の特別区の一級地に該当するので,占用料相当額は1uにつき1年当たり2万0200円(1か月当たり約1683円)であるなどとして,その1か月当たりの金額に基づいて算出したものであった。

 3 道路法32条1項は,道路に広告塔その他これに類する工作物等を設け,継続して道路を使用しようとする場合においては,道路管理者の許可を受けなければならないと定めている。そして,同法39条1項は,道路管理者は道路の占用につき占用料を徴収することができる旨を定めており,この規定に基づく占用料は,都道府県道に係るものにあっては道路管理者である都道府県の収入となる(道路法施行令19条の4第1項)。このように,道路管理者は道路の占用につき占用料を徴収して収入とすることができるのであるから,道路が権原なく占有された場合には,道路管理者は,占有者に対し,占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を取得するものというべきである。

 これを本件についてみると,被上告人らは,前記のとおり,それぞれ,本件目録の1,3ないし5記載の各自動販売機を都道にはみ出して設置した日から撤去した日までの間,何らの占有権原なくこれらの自動販売機を設置してはみ出し部分の都道を占有していたのであるから,東京都は,被上告人らに対し,上記各占有に係る占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を取得したものというべきである。

 4 地方公共団体が有する債権の管理について定める地方自治法240条,地方自治法施行令171条から171条の7までの規定によれば,客観的に存在する債権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず,原則として,地方公共団体の長にその行使又は不行使についての裁量はない。しかしながら,地方公共団体の長は,債権で履行期限後相当の期間を経過してもなお完全に履行されていないものについて,「債権金額が少額で,取立てに要する費用に満たないと認められるとき」に該当し,これを履行させることが著しく困難又は不適当であると認めるときは,以後その保全及び取立てをしないことができるものとされている (地方自治法施行令171条の5第3号)。

 これを本件についてみると,前記事実関係等の下において,上告人ら主張のとおりにはみ出し自動販売機の占用料相当額を算定するとしても,その金額は,占用部分が1台当たり1uとすれば,1か月当たり約1683円にすぎず,他方,はみ出し自動販売機は当時約3万6000台もあったというのであるから,東京都が,はみ出し自動販売機全体について考慮する必要がある中において,1台ごとに債務者を特定して債権額を算定することには多くの労力と多額の費用とを要するものであったとして,本件について,「債権金額が少額で,取立てに要する費用に満たない」と認めたことを違法であるということはできない。また,はみ出し自動販売機に係る最大の課題は,それを放置することにより通行の妨害となるなど望ましくない状況を解消するためこれを撤去させるべきであるということにあったのであるから,対価を徴収することよりも,はみ出し自動販売機の撤去という抜本的解決を図ることを優先した東京都の判断は,十分に首肯することができる。そして,商品製造業者が,東京都に協力をし,撤去費用の負担をすることによって,はみ出し自動販売機の撤去という目的が達成されたのであるから,そのような事情の下では,東京都が更に撤去前の占用料相当額の金員を商品製造業者から取り立てることは著しく不適当であると判断したとしても,それを違法であるということはできない。

 以上によれば,本件の事実関係の下では,東京都が被上告人らに対して前記損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を行使しなかったからといって,これを違法ということはできない。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ,論旨は採用することができない。なお,その余の請求に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 滝井繁男)

この判例に関する評釈

判例時報1857号47頁
判例タイムズ1150号112頁
「時の判例」 荏原明則(関西学院大学教授) 法学教室292号122頁(2005年)
木原正雄(大東文化大学教授) ジュリスト1291号42頁平成16年度重要判例解説(2005年)
西鳥羽和明 判例時報1567号(判例評論450号33頁)

特に指定がないものは、最高裁判所判決です。
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