法律学研究支援室

判例 H14.07.11 第一小法廷・判決 平成11(行ツ)93 住民訴訟請求事件(第56巻6号1204頁)

判示事項:
知事が大嘗祭に参列した行為が憲法20条3項に違反しないとされた事例

要旨:
  知事が大嘗祭に参列した行為は,大嘗祭が皇位継承の際に通常行われてきた皇室の伝統儀式であること,他の参列者と共に参列して拝礼したにとどまること,参列が公職にある者の社会的儀礼として天皇の即位に祝意を表する目的で行われたことなど判示の事情の下においては,憲法20条3項に違反しない。

参照・法条:  憲法20条

内容:
 件名  住民訴訟請求事件 (最高裁判所 平成11(行ツ)93 第一小法廷・判決 棄却)
 原審  H10.12.01 福岡高等裁判所宮崎支部 (平成4(行コ)2)

主    文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理    由

 第1 上告代理人亀田徳一郎,同河野聡,同西田隆二,同松田公利,同小堀清直,同増田博の上告理由第二点及び第三点について

 1 憲法は,明治維新以降,国家と神道が密接に結び付き種々の弊害を生じたことにかんがみ,新たに信教の自由を無条件に保障することとし,更にその保障を一層確実なものとするため,20条1項後段,3項,89条において,いわゆる政教分離の原則に基づく諸規定(以下「政教分離規定」という。)を設けた。政教分離規定は,いわゆる制度的保障の規定であって,信教の自由そのものを直接保障するものではなく,国家と宗教との分離を制度として保障することにより,間接的に信教の自由の保障を確保しようとするものである。そして,憲法の政教分離規定の基礎となり,その解釈の指導原理となる政教分離原則は,国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが,国家が宗教とのかかわり合いを持つことを全く許さないとするものではなく,宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及び効果にかんがみ,そのかかわり合いが,我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものであると解すべきである。

 このような政教分離原則の意義に照らすと,憲法20条3項にいう宗教的活動とは,およそ国及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いを持つすべての行為を指すものではなく,そのかかわり合いが上記にいう相当とされる限度を超えるものに限られるというべきであって,当該行為の目的が宗教的意義を持ち,その効果が宗教に対する援助,助長,促進又は圧迫,干渉等になるような行為をいうものと解すべきである。そして,ある行為が上記にいう宗教的活動に該当するかどうかを検討するに当たっては,当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく,当該行為の行われる場所,当該行為に対する一般人の宗教的評価,当該行為者が当該行為を行うについての意図,目的及び宗教的意識の有無,程度,当該行為の一般人に与える効果,影響等,諸般の事情を考慮し,社会通念に従って,客観的に判断しなければならない(最高裁昭和46年(行ツ)第69号同52年7月13日大法廷判決・民集31巻4号533頁,最高裁平成4年(行ツ)第156号同9年4月2日大法廷判決・民集51巻4号1673頁等)。

 2 そこで,以上の見地に立って,本件について検討する。

 原審が適法に確定した事実関係によれば,大嘗祭は,天皇が皇祖及び天神地祇に対して安寧と五穀豊穣等を感謝するとともに国家や国民のために安寧と五穀豊穣等を祈念する儀式であり,神道施設が設置された大嘗宮において,神道の儀式にのっとり行われたというのであるから,鹿児島県知事である被上告人がこれに参列し拝礼した行為は,宗教とかかわり合いを持つものである。

 しかしながら,原審が適法に確定した事実関係によれば,(1) 大嘗祭は,7世紀以降,一時中断された時期はあるものの,皇位継承の際に通常行われてきた皇室の重要な伝統儀式である,(2) 被上告人は,宮内庁から案内を受け,三権の長,国務大臣,各地方公共団体の代表等と共に大嘗祭の一部を構成する悠紀殿供饌の儀に参列して拝礼したにとどまる,(3) 大嘗祭への被上告人の参列は,地方公共団体の長という公職にある者の社会的儀礼として,天皇の即位に伴う皇室の伝統儀式に際し,日本国及び日本国民統合の象徴である天皇の即位に祝意を表する目的で行われたものであるというのである。【要旨】これらの諸点にかんがみると,被上告人の大嘗祭への参列の目的は,天皇の即位に伴う皇室の伝統儀式に際し,日本国及び日本国民統合の象徴である天皇に対する社会的儀礼を尽くすものであり,その効果も,特定の宗教に対する援助,助長,促進又は圧迫,干渉等になるようなものではないと認められる。したがって,被上告人の大嘗祭への参列は,宗教とのかかわり合いの程度が我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず,憲法上の政教分離原則及びそれに基づく政教分離規定に違反するものではないと解するのが相当である。

 以上の点は,前掲各大法廷判決の趣旨に徴して明らかというべきである。これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に憲法20条1項,3項の解釈の誤りはない。また,その余の違憲の主張は,その前提を欠く。論旨は採用することができない。

 第2 その余の上告理由について

 論旨は,理由の不備・食違いをいうが,その実質は事実誤認を主張するものであって,民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 深澤武久 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 町田 顯 裁判官 横尾和子)

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