法律学研究支援室


就業規則
 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成しなければならない(労基法89条)。そして、作成された就業規則は、労働者に対する強行的・直律的効力を有する(同93条)。
 それでは、なぜ使用者が一方的に作成した就業規則が、労働者を拘束するのか。拘束力の法的根拠が問題となる。
 この点、就業規則は、労働者の同意いかんにかかわらず、それ自体がそのまま法規範として拘束力をもつとして、労基法93条を根拠とする見解がある(法規説)。しかし、労基法93条は、最低基準としての法規範性を認めたにすぎないと解すべきある。また、使用者が一方的に作成する就業規則にあまりに大きな拘束力を認めることになり妥当でない。
 また、就業規則は、それ自体は事実規範にとどまり、労働者の承諾を得て労働契約の内容となり、拘束力を取得するとする見解がある(契約説)。しかし、労働者が就業規則に意義を唱えることなく就労していれば、黙示の同意を推定し、法的拘束力を認めることになるが、これでは、法規説と何ら変わりなく、支持できない。
 思うに、労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが、合理的な労働条件を定めているものである限り、労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められる(民法92条参照)と解する。そして、労働者は、就業規則の存在・内容を知っているか、また、これに対して個別的に同意を与えたかを問わずに当然にその適用を受けると解する(修正契約説 秋北バス事件判例に同旨)。

 ところで、企業組織再編に伴って労働条件が不利益に変更されることが増えている。この際、就業規則の変更によって、不利益変更がなされることがあるが、就業規則によって労働条件を不利益に変更することは認められるか。
思うに、使用者が、新たな就業規則の作成または変更によって、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないが、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されないと解すべきである(秋北バス事件判例に同旨)。
そして、就業規則の不利益変更に合理性があるかないかは、労働者の被る不利益の程度、変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、代償措置その他労働条件の改善状況、労働組合などとの交渉の経緯などを総合衡量して決すべきであると解する。
 ただし、賃金・退職金など重要な労働条件については、その変更が労働者の生活に与える影響が大きいことから、その変更による不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの「高度の必要性に基づいた合理的な内容のもの」であることが必要であると解する。
 さらに、労働条件の不利益変更が、特定の労働者に過大な不利益を及ぼす場合がある(第四銀行事件等参照)。
 この場合、全体としてみれば合理性が認められるとしても、特定の労働者に過大な不利益を及ぼすため、それを緩和するための経過措置が求められ、これが、合理性の要件となると解する。そして、一部労働者について変更の合理性が否定されれば、当該労働者との関係でのみ就業規則の拘束力が否定されると考える(相対的無効論)。


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