法律学研究支援室


真実発見と人権保障の調和
 刑事訴訟法は、日本国の最高法規たる憲法31条〜39条の要請を具体化したものである。したがって、日本国憲法の精神である「基本的人権の尊重と個人の尊重」が図られなければならない。そこで、刑事訴訟法第1条は「この法律は、刑事事件につき公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適性かつ迅速に適用実現する事を目的とする。」と規定し、真実の発見と人権保障を目的とする事を宣言している。
  まず、捜査段階について。
 真実発見の必要性から、警察には一般の人や組織には与えられない特別な権力が与えられる。職務質問、検視、証拠保全、逮捕・保護、警告、武器使用があげられるが、これらを野放しに認めていたのでは、一般人の人権が不当に侵害される恐れがある。そこで、刑事訴訟法第197条但書で「強制の処分は、この法律に特別の定めのある場合でなければ、これをする事ができない。」として、任意捜査の原則を定めた。また、職務質問に関しては、警察官職務執行法第二条に規定があるが、同条3項において「刑事訴訟法の規定によらないかぎり、身柄を拘束され、意に反して警察所等に連行され、若しくは答弁を強要される事はない。」と規定して、職務質問の任意性と黙秘権の保障が規定されている。したがって、逮捕・拘留などの強制処分をするには、司法官憲の発する令状によらなけらばならない。憲法33条、35条は、「司法官憲の発する令状によらなければ、逮捕、住居等に対する侵入・捜査・押収をする事ができない。」として、令状主義を宣言している。令状主義は、強制処分を行う前に裁判官という中立な第三者を介在させる事によって、権力の濫用、不当な人権侵害をふせぐ働きを持っている。
 逮捕をするには、前述のように令状が必要である。逮捕が人権保障を担保して行われても、逮捕後の取調べの期間が不当に長ければ、自白の強要など好ましくない結果が発生する危険性が高まる。そこで刑訴法は、203条以下の条文において、警察は48時間以内に取り調べて、送検しなければならないと定め、また、検察は、送検を受けて24時間以内に拘留請求しなければならないと定めている。つまり、警察の取調べ期間は、48時間、検察の取調べ期間は、延長請求が認められたとしても20日間(内乱等、一部は、25日間)ということなる。こうした時間的制約を定める事で、被疑者の人権を保護する事ができるのである。さらに、一罪一逮捕一拘留の原則、再逮捕・再拘留禁止の原則の採用により、一つの犯罪について長期間拘留される事がないようにしている。
ここで問題となるのが、別件逮捕の問題である。学説は、適法とする「別件基準説」と違法とする「本件基準説」の対立がある。人権保障の立場に立てば、別件逮捕は違法であると言うべきである。
また、黙秘権、接見交通権も保障されていて、被疑者が不利益を被らないようにされている。ただ、黙秘していると、反省していないと解されたり、取調べを理由に接見を拒否されたり、不当に時間を制限されるなど、問題も多い。黙秘権は憲法38条で認められた人権であるから、それを理由に不利な扱いはしてはならないし、接見交通権も被疑者の防御の為に必要不可欠なものであるから、制限は必要最小限にしなければならない。
  そして、公判段階について。
 日本は当事者主義を採用しているため、公訴提起者たる検察官が挙証責任を負っている。したがって、検察官が「合理的な疑いを超えた立証」に失敗した場合には、無罪判決が出される事になる。これを、無罪の推定と言う。ただし、弁護側が違法性阻却事由や責任阻却事由の適合を主張する場合には弁護側がその挙証責任を負う。さらに、当事者主義から、弁論主義と直接主義も導かれる。弁論主義とは、当事者の弁論、すなわち主張、立証、意見陳述などに基づいて審判を行うべきであると言う考え方で、直接主義とは、裁判所が直接取り調べた証拠だけを裁判の基礎としうると言う原則の事である。
また起訴状一本主義を採用する事で、事前に裁判で争われる内容が分かり、被告側の防禦が可能となる。さらに、証拠を提出しない事によって、予断が排除され裁判官の白紙の心証を維持することができる。
 憲法38条は、「自白だけが自己に不利益な唯一の証拠の場合には、有罪とされない」と規定している。したがって、検察は、自白なしで有罪とするだけの証拠を集めるか、自白を裏づける証拠を提出しなければならない。
また、憲法37条2項は、「刑事被告人は全ての証人に対して審問する機会を十分に与えられる。」と規定している。これに基づき、刑事訴訟法320条は、伝聞法則を定めている。つまり、公判期日における供述に代えて書面を証拠としたり、公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とする事はできない。これは、被告側の反対尋問権を保障するための制度であるが、一定の例外がある。刑訴法321条〜328条までに規定があるが、被告人の同意の存在や検察官面前証拠などである。
憲法35条は、捜査・押収に関する令状主義を規定しているが、これに反して集められた証拠の証拠能力は認められない。これを違法収集証拠排除法則という。適正手続の保障、違法捜査の防止などの観点から見て重要な制度であるが、些細な違法行為の存在によって証拠能力が否定されてしまうと真実発見が著しく困難になるために、厳格には運用されていない。判例は、相対的排除基準を採用し「令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、証拠として採用する事が将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でない場合に、その証拠能力を否定するべきである。」としている。

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