法律学研究支援室

判例 平成17年02月15日 第三小法廷判決 平成15年(受)第995号 損害賠償請求事件

要旨:
 1 株主総会の決議を経ずに支払われた役員報酬について事後に株主総会の決議を経た場合の当該支払の効力
2 株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われたことを理由として当該報酬相当額の賠償を求める株主代表訴訟において被告とされた役員らが当該報酬につき同訴訟提起後に株主総会の決議を経たことを主張することと信義則

内容:  件名 損害賠償請求事件 (最高裁判所 平成15年(受)第995号 平成17年02月15日 第三小法廷判決 破棄自判)

 原審 大阪高等裁判所 (平成14年(ネ)第2402号)

主    文
原判決を破棄する。
被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理    由

 上告代理人山口義治の上告受理申立て理由について

1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

 (1) A株式会社(以下「本件会社」という。)は,平成7年9月14日に設立された食料品の販売及び飲食店の経営等を業とする株式会社であり,設立時から現在に至るまで,その発行済株式総数は100株,資本金は1000万円である。

 (2) 被上告人は,本件会社の設立時から現在に至るまで,本件会社の株式13株を有している。

 (3) 上告人Y1,同Y2,同Y3及び同Y4は,本件会社の設立時から現在に至るまで,本件会社の取締役の地位にある。上告人Y5は,本件会社の設立時から平成10年3月23日までは,本件会社の監査役の地位にあり,同日から現在に至るまで,本件会社の取締役の地位にある。また,Bは,平成10年3月23日から現在に至るまで,本件会社の監査役の地位にある。

 (4) 本件会社の定款上,取締役の報酬及び監査役の報酬(以下,これらを併せて「役員報酬」ともいう。)は,それぞれ株主総会の決議をもって定めることとされている。

 (5) 本件会社は,設立時から平成12年6月までの間,上告人Y1,同Y2,同Y3及びBに対し,第1審判決別表のとおり,取締役会の決議に基づき,取締役報酬又は監査役報酬名下に,合計5850万円(以下「本件役員報酬」という。)を支払った。

 (6) 本件会社においては,本件訴訟提起後の平成13年9月23日に株主総会が開催され,株主10名全員が出席し,7名(持株数合計74株)の賛成,3名(持株数合計26株)の反対により,本件会社の設立時にさかのぼって効力が生ずる条件付決議として,取締役の報酬総額を年額3000万円以内(使用人兼務取締役の使用人分の給与を含めない)として,その配分方法は取締役会に一任し,監査役の報酬総額を年額500万円以内とする旨の決議(以下「本件決議」という。)がされた。

 2 本件は,被上告人が,本件役員報酬が本件会社の定款及び商法269条(平成14年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。),279条1項に違反して株主総会の決議に基づかずに支払われたものであり,上告人らは本件会社の取締役又は監査役として本件会社が被った本件役員報酬相当額の損害を本件会社に賠償すべき義務を負っていると主張して,上告人らに対し,連帯して本件会社へ上記損害の賠償をするよう求める株主代表訴訟である。

 3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人の請求を全部認容すべきものとした。

 (1) 株主総会において、役員報酬を過去にさかのぼって支給することを決議することも禁止されるものではなく,本件決議が商法269条,279条1項に違反するということはできず,無効ということもできない。また,本件決議に対する上告人らの株主権の行使が信義則に反し,権利の濫用であるということもできない。

 (2) 本件決議は,本件役員報酬に係る取締役会の報酬支払決定に根拠を与え,本件訴訟における有効な攻撃防御方法となることを意図して,本件訴訟を上告人らの勝訴に導くためにされたものであって,訴訟上の信義に著しく反するから,上告人らが本件決議の存在を主張することは許されない。

 (3) 上告人Y5を除くその余の上告人らは,本件会社の設立以来,取締役として,株主総会の決議に基づかずに,各年度の役員報酬の金額及び支払を取締役会において決定した点において,法令に違反する行為をしたものである。また,上告人Y5も,平成10年3月までは,監査役として,株主総会の決議に基づかないで役員報酬が支払われたにもかかわらず,決算報告が適法かつ正確であるとの監査結果を本件会社に報告した点において,その任務を怠り,取締役に就任後は,その余の上告人らと共に役員報酬の支払を決定した点において,法令に違反する行為をしたものというべきである。そして,本件決議は,取締役の責任を免除する決議ではないから,本件決議がされたことによっても,上告人らが上記の法令違反行為をしたことによって本件会社が本件役員報酬相当額の損害を被っていることは明らかである。

 4 しかしながら,原審の上記3(1)の判断は是認することができるが,同(2)及び(3)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 商法269条,279条1項が,株式会社の取締役及び監査役の報酬について,定款にその額の定めがないときは,株主総会の決議によって定めると規定している趣旨目的は,取締役の報酬にあっては,取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止し,監査役の報酬にあっては,監査役の独立性を保持し,さらに,双方を通じて,役員報酬の額の決定を株主の自主的な判断にゆだねるところにあると解される。そして,株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われた場合であっても,これについて後に株主総会の決議を経ることにより,事後的にせよ上記の規定の趣旨目的は達せられるものということができるから,当該決議の内容等に照らして上記規定の趣旨目的を没却するような特段の事情があると認められない限り,当該役員報酬の支払は株主総会の決議に基づく適法有効なものになるというべきである。そして,上記特段の事情の存在することがうかがえない本件においては,本件決議がされたことにより,本件役員報酬の支払は適法有効なものになったというべきである。

 このように,本件会社の株主総会において,本件決議により既に支払済みの本件役員報酬の支払を適法有効なものとすることが許される以上,本件決議に本件訴訟を上告人らの勝訴に導く意図が認められるとしても,それだけでは上告人らにおいて本件決議の存在を主張することが訴訟上の信義に反すると解することはできず,他に上告人らが本件決議の存在を主張することが訴訟上の信義に反すると認められるような事情はうかがわれない。また,本件役員報酬の支払は,本件決議がされたことによって適法なものとなるのであるから,取締役の責任を免除する株主総会の決議の対象とはならないし,本件会社が本件役員報酬相当額の損害を被っていることにもならない。

 5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,被上告人の請求はいずれも理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖)

特に指定がないものは、最高裁判所判決です。
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