法律学研究支援室

事件番号 平成16(受)519
事件名 損害賠償等請求本訴,請負代金等請求反訴事件
裁判年月日 平成18年04月14日
法廷名 最高裁判所第二小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄自判
判例集巻・号・頁
原審裁判所名 大阪高等裁判所??
原審事件番号 平成14(ネ)2682
原審裁判年月日 平成15年12月24日
判示事項
裁判要旨 本訴及び反訴が係属中に,反訴請求債権を自働債権とし本訴請求債権を受働債権として相殺の主張をすることは,反訴請求債権のうち本訴において判断された部分を反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更するものとして許される
参照法条
全文

主文

1 原判決を次のとおり変更する。
第1審判決を次のとおり変更する。
(1) 上告人らは,被上告人に対し,それぞれ327万2076円及びこれに対する平成14年3月9日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 被上告人のその余の本訴請求を棄却する。
2 訴訟の総費用は,これを5分し,その2を上告人らの負担とし,その余を被上告人の負担とする。

理由

上告代理人中北龍太郎,同村本純子の上告受理申立て理由について1 原審の適法に確定した事実関係及び本件訴訟の経過の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,平成2年2月28日,建築業を営むA(以下「A」という。
)との間で,請負代金額を3億0900万円として賃貸用マンション新築工事請負契約を締結した。
その後,被上告人は,設計変更による追加工事をAに発注した(以下,追加工事を含めた契約を「本件請負契約」といい,追加工事を含めた工事を「本件工事」という。
)。
(2) Aは,平成3年3月31日までに本件工事を完成させ,完成した建物(以下「本件建物」という。
)を被上告人に引き渡した。
(3) 被上告人は,平成5年12月3日,Aに対し,本件建物に瑕疵があり,瑕疵修補に代わる損害賠償又は不当利得の額は5304万0440円であると主張して,同額の金員及びこれに対する完成引渡日の翌日である平成3年4月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴を提起した。
(4) Aは,第1審係属中の平成6年1月21日,被上告人に対し,本件請負契約に基づく請負残代金の額は2418万円であると主張して,同額の金員及びこれに対する平成3年4月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める反訴を提起し,反訴状は,平成6年1月25日,被上告人に送達された。
(5) 本件請負契約に基づく請負残代金の額は,1820万5645円である。
(6) 他方,本件建物には瑕疵が存在し,それにより被上告人が被った損害の額は,2474万9798円である。
(7) Aは,平成13年4月13日に死亡し,その相続人である上告人らがAの訴訟上の地位を承継した。
上告人らの法定相続分は,それぞれ2分の1である。
(8) 上告人らは,平成14年3月8日の第1審口頭弁論期日において,被上告人に対し,上告人らがそれぞれ相続によって取得した反訴請求に係る請負残代金債権を自働債権とし,被上告人の上告人らそれぞれに対する本訴請求に係る瑕疵修補に代わる損害賠償債権を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をし(以下「本件相殺」という。
),これを本訴請求についての抗弁として主張した。
2 原審は,次のとおり判示して,被上告人の本訴請求につき,上告人らそれぞれに対して327万2076円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成6年1月26日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却し,上告人らの反訴請求をいずれも棄却した。
(1) 本件相殺により,被上告人の瑕疵修補に代わる損害賠償債権と上告人らの請負残代金債権とが対当額で消滅した結果,被上告人の上告人らに対する損害賠償債権の額は654万4153円となり,上告人らは,被上告人に対して,それぞれ法定相続分割合に応じて327万2076円(円未満切捨て)の損害賠償債務を負う一方,上告人らの被上告人に対する請負残代金債権は消滅した。
(2) 注文者の請負人に対する瑕疵修補に代わる損害賠償請求訴訟に対し,請負人が反訴を提起して請負代金を請求し,後に請負代金債権をもって相殺の意思表示をした場合には,反訴の提起をもって相殺の意思表示と同視すべきである。
したがって,上告人らの瑕疵修補に代わる損害賠償債務(相殺後の残債務)は,本件反訴状送達の日の翌日である平成6年1月26日から遅滞に陥る。
3 しかしながら,原審の上記(2)の判断は,是認することができない。
その理由は,次のとおりである。
(1) 本件相殺は,反訴提起後に,反訴請求債権を自働債権とし,本訴請求債権を受働債権として対当額で相殺するというものであるから,まず,本件相殺と本件反訴との関係について判断する。
係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは,重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反し,許されない(最高裁昭和62年(オ)第1385号平成3年12月17日第三小法廷判決・民集45巻9号1435頁)。
しかし,本訴及び反訴が係属中に,反訴請求債権を自働債権とし,本訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することは禁じられないと解するのが相当である。
この場合においては,反訴原告において異なる意思表示をしない限り,反訴は,反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分については反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更されることになるものと解するのが相当であって,このように解すれば,重複起訴の問題は生じないことになるからである。
そして,上記の訴えの変更は,本訴,反訴を通じた審判の対象に変更を生ずるものではなく,反訴被告の利益を損なうものでもないから,書面によることを要せず,反訴被告の同意も要しないというべきである。
本件については,前記事実関係及び訴訟の経過に照らしても,上告人らが本件相殺を抗弁として主張したことについて,上記と異なる意思表示をしたことはうかがわれないので,本件反訴は,上記のような内容の予備的反訴に変更されたものと解するのが相当である。
(2) 注文者の瑕疵修補に代わる損害賠償債権と請負人の請負代金債権とは民法634条2項により同時履行の関係に立つから,契約当事者の一方は,相手方から債務の履行又はその提供を受けるまで自己の債務の全額について履行遅滞による責任を負うものではなく,請負人が請負代金債権を自働債権として瑕疵修補に代わる損害賠償債権と相殺する旨の意思表示をした場合,請負人は,注文者に対する相殺後の損害賠償残債務について,相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負うと解される(最高裁平成5年(オ)第1924号同9年2月14日第三小法廷判決・民集51巻2号337頁,最高裁平成5年(オ)第2187号,同9年(オ)第749号同年7月15日第三小法廷判決・民集51巻6号2581頁参照)。
本件においては,被上告人の瑕疵修補に代わる損害賠償の支払を求める本訴に対し,Aが請負残代金の支払を求める反訴を提起したのであるが,Aの本件反訴は,請負残代金全額の支払を求めるものであって,本件反訴の提起が相殺の意思表示を含むと解することはできない。
したがって,本件反訴の提起後にされた本件相殺の効果が生ずるのは相殺の意思表示がされた時というべきであるから,本件反訴状送達の日の翌日から上告人らの瑕疵修補に代わる損害賠償債務が遅滞に陥ると解すべき理由はない。
4 以上によれば,上告人らは,本件相殺の意思表示をした日の翌日である平成14年3月9日から瑕疵修補に代わる損害賠償残債務について履行遅滞による責任を負うものというべきであって,これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
論旨は理由がある。
そして,前記事実関係及び訴訟の経過によれば,本訴請求は,上告人らそれぞれに対し,本件相殺後の損害賠償債権残額654万4153円の2分の1に当たる327万2076円及びこれに対する平成14年3月9日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却すべきである。
よって,原判決を主文第1項のとおり変更することとする。
なお,反訴請求については,本訴請求において,反訴請求債権の全額について相殺の自働債権として既判力のある判断が示されているので,判断を示す必要がない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 津野 修 裁判官 滝井繁男 裁判官 今井 功 裁判官中川了滋 裁判官 古田佑紀)

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