法律学研究支援室

事件番号 平成15(あ)60
事件名 略取,逮捕監禁致傷,窃盗被告事件
裁判年月日 平成15年07月10日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄自判
判例集巻・号・頁 第57巻7号903頁
原審裁判所名 東京高等裁判所??
原審事件番号 平成14(う)756
原審裁判年月日 平成14年12月10日
判示事項 1 刑法47条の法意2 刑訴法495条2項2号にいう「上訴審において原判決が破棄されたとき」の意義
裁判要旨 1 刑法47条は,併合罪のうち2個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは,同条が定めるところに従って併合罪を構成する各罪全体に対する統一刑を処断刑として形成し,その範囲内で各罪全体に対する刑を決することとした規定であって,併合罪の構成単位である各罪について個別的な量刑判断を行うことは,法律上予定されていない。2 刑訴法495条2項2号にいう「上訴審において原判決が破棄されたとき」とは,当該上訴審における破棄判決が確定した場合をいう。
参照法条 刑法21条,刑法47条,刑訴法495条2項
全文

主文

原判決を破棄する。

本件

控訴を棄却する。
原審における未決勾留日数中260日を本刑に算入する。

理由(検察官の事件受理申立て理由について)第1検察官の論旨検察官の論旨は,事件受理申立理由書記載のとおりであるが,その骨子は,次のようなものである。
すなわち,刑法47条は,併合罪を構成する個別の罪について暫定的にせよ刑の量定を行うことなく,併合罪を構成する各罪全体について包括的に1個の処断刑の枠を決め,その処断刑によって併合罪を構成する各罪を一体として評価し,統一的な刑の量定を行うこととする趣旨の規定である。
同条により併合罪を構成する各罪全体に対する処断刑が作出された後は,各罪の法定刑は,宣告刑を量定するに際して事実上の目安となることはあるとしても,それ自体としては独立の法的意味を失うに至ると解される。
それにもかかわらず,原判決が,同条の併合罪加重に関し,「併合罪を構成する個別の罪について,その法定刑を超える趣旨のものとすることは許されない。
」旨の解釈を示し,これに基づいて裁判したのは,同条の解釈適用を誤ったものである。
第2当裁判所の判断 1まず,原判決の第1審判決に関する理解について検討する。
原判決は,第1審判決の刑法47条に関する解釈について論ずるに当たり,同判決の説示を次のように引用している。
「本件のうち,未成年者略取及び逮捕監禁致傷罪の犯情がまれにみる程極めて悪質なのに対して,窃盗の犯行は,その犯行態様が同種の事案と比べても,非常に悪質とまではいえず,またその被害額が比較的少額であり,しかもその犯行後被害弁償がなされ,その被害者の財産的な被害は回復されて実害がない等の事情があり,このような場合の量刑をどのように判断すべきかが問題になる。
(中略)このように本件の処断刑になる逮捕監禁致傷罪の犯情には特段に重いものがあるといわざるを得ず,その犯情に照らして罪刑の均衡を考慮すると,被告人に対しては,逮捕監禁致傷罪の法定刑の範囲内では到底その適正妥当な量刑を行うことができないものと思料し,同罪の刑に法定の併合罪加重をした刑期の範囲内で被告人を主文掲記の刑に処することにした。
」(原判決4頁,原文は第1審判決29頁以下)そして,原判決は,第1審判決について,「要するに,原判決は,併合罪関係にある2個以上の罪につき有期懲役に処するに当たっては,併合罪中の最も重い罪の法定刑の長期が刑法47条により1.5倍に加重され,その罪について法定刑を超える刑を科する趣旨の量定をすることができる,と解していることが明らかである。
しかしながら,このような原判決の刑法47条に関する解釈は,誤りであるといわなければならない。
」(原判決4頁),「原判決は,併合罪全体に対する刑を量定するに当たり,再犯加重の場合のように,刑法47条によって重い逮捕監禁致傷罪の法定刑が加重されたとして,同罪につき法定刑を超える趣旨のものとしているが,これは明らかに同条の趣旨に反するといわざるを得ない。
」(原判決6頁)と判示している。
しかし,第1審判決の上記説示は,措辞がやや不適切であるといわざるを得ないが,その趣旨は,本件の犯情にかんがみ,逮捕監禁致傷罪と窃盗罪という二つの罪を併せたものに対する宣告刑は,逮捕監禁致傷罪の法定刑の上限である懲役10年でもなお不十分であるので,併合罪加重によって10年を超えた刑を使わざるを得ない旨を述べたものと解される。
そのことは,原判決が「中略」として引用を省いた第1審判決の説示中において,「刑法が併合罪を構成する数罪のうち,有期の懲役刑に処すべき罪が2個以上含まれる場合の量刑については,加重単一刑主義を採り,その情状が特に重いときは,その各罪の刑の長期の合計を超えることはできないとしつつ,その長期にその半数を加えた刑期の範囲内で最終的には1個の刑を科すとした趣旨を勘案すると,併合罪関係にある各罪ごとの犯情から導かれるその刑量を単に合算させて処断刑を決するのではなく,その各罪を総合した全体的な犯情を考慮してその量刑処断すべき刑を決定すべきものと解される。
」と判示されていること(第1審判決29頁)と対比すれば,いっそう明らかである。
第1審判決が,刑法47条による併合罪加重に関し,併合罪中の最も重い罪について法定刑を超える刑を科する趣旨の量定をすることができると解していることが明らかであるなどと評するのは,相当でない。
2次に,原判決が示した刑法47条に関する解釈について検討する。
原判決は,同条がいわゆる加重主義を採った趣旨について述べた上,「以上のような刑法47条の趣旨からすれば,併合罪全体に対する刑を量定するに当たっては,併合罪中の最も重い罪につき定めた法定刑(再犯加重や法律上の減軽がなされた場合はその加重や減軽のなされた刑)の長期を1.5倍の限度で超えることはできるが,同法57条による再犯加重の場合とは異なり,併合罪を構成する個別の罪について,その法定刑(前同)を超える趣旨のものとすることは許されないというべきである。
これを具体的に説明すると,逮捕監禁致傷罪と窃盗罪の併合罪全体に対する刑を量定するに当たっては,例えば,逮捕監禁致傷罪につき懲役9年,窃盗罪につき懲役7年と評価して全体について懲役15年に処することはできるが,逮捕監禁致傷罪につき懲役14年,窃盗罪につき懲役2年と評価して全体として懲役15年に処することは許されず,逮捕監禁致傷罪については最長でも懲役10年の限度で評価しなければならないというわけである。
」(原判決6頁)と判示している。
しかしながら,刑法47条は,併合罪のうち2個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは,同条が定めるところに従って併合罪を構成する各罪全体に対する統一刑を処断刑として形成し,修正された法定刑ともいうべきこの処断刑の範囲内で,併合罪を構成する各罪全体に対する具体的な刑を決することとした規定であり,処断刑の範囲内で具体的な刑を決するに当たり,併合罪の構成単位である各罪についてあらかじめ個別的な量刑判断を行った上これを合算するようなことは,法律上予定されていないものと解するのが相当である。
また,同条がいわゆる併科主義による過酷な結果の回避という趣旨を内包した規定であることは明らかであるが,そうした観点から問題となるのは,法によって形成される制度としての刑の枠,特にその上限であると考えられる。
同条が,更に不文の法規範として,併合罪を構成する各罪についてあらかじめ個別的に刑を量定することを前提に,その個別的な刑の量定に関して一定の制約を課していると解するのは,相当でないといわざるを得ない。
これを本件に即してみれば,刑法45条前段の併合罪の関係にある第1審判決の判示第1の罪(未成年者略取罪と逮捕監禁致傷罪が観念的競合の関係にあって後者の刑で処断されるもの)と同第2の罪(窃盗罪)について,同法47条に従って併合罪加重を行った場合には,同第1,第2の両罪全体に対する処断刑の範囲は,懲役3月以上15年以下となるのであって,量刑の当否という問題を別にすれば,上記の処断刑の範囲内で刑を決するについて,法律上特段の制約は存しないものというべきである。
したがって,原判決には刑法47条の解釈適用を誤った法令違反があり,本件においては,これが判決に影響を及ぼし,原判決を破棄しなければ著しく正義に反することは明らかである。
(弁護人及び被告人本人の各上告趣意について)弁護人渡辺孝の上告趣意は,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,量刑不当の主張であり,被告人本人の上告趣意は,事実誤認,量刑不当の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
以上のとおり,検察官の論旨は理由があるから,刑訴法411条1号により原判決を破棄し,なお,訴訟記録及び関係証拠に基づいて検討すると,第1審判決は,被告人に対し懲役14年を宣告した量刑判断を含め,首肯するに足りると認められ,これを維持するのが相当であるから,同法413条ただし書,414条,396条により第1審判決に対する被告人の控訴を棄却し,原審における未決勾留日数の算入につき刑法21条,当審及び原審における訴訟費用につき刑訴法181条1項ただし書を適用することとし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
検察官山田弘司,同山本信一公判出席(裁判長裁判官深澤武久裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官泉コ治裁判官島田仁郎)

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