法律学研究支援室

判例 H16.12.10 第二小法廷・判決 平成16(あ)92 住居侵入,事後強盗,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件(第58巻9号1047頁)

判示事項:
窃盗の犯人による事後の脅迫が窃盗の機会の継続中に行われたとはいえないとされた事例

要旨:
 被害者方で財物を窃取した犯人が,だれからも発見,追跡されることなく,いったん同所から約1km離れた場所まで移動し,窃取の約30分後に再度窃盗をする目的で被害者方に戻った際に逮捕を免れるため家人を脅迫したなど判示の事実関係の下においては,その脅迫は,窃盗の機会の継続中に行われたものとはいえない。

参照・法条:
 刑法238条

内容:

 件名  住居侵入,事後強盗,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件 (最高裁判所 平成16(あ)92 第二小法廷・判決 破棄差戻し)

 原審  H15.11.27 東京高等裁判所 (平成15(う)2364)

主    文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理    由

 弁護人北久浩の上告趣意は,違憲をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 しかしながら,所論にかんがみ職権をもって調査すると,原判決は,刑訴法411条1号,3号により破棄を免れない。その理由は,以下のとおりである。

 1 原判決の認定及び記録によれば,本件の事実関係は次のとおりである。

 (1) 被告人は,金品窃取の目的で,平成15年1月27日午後0時50分ころ,A方住宅に,1階居間の無施錠の掃き出し窓から侵入し,同居間で現金等の入った財布及び封筒を窃取し,侵入の数分後に玄関扉の施錠を外して戸外に出て,だれからも発見,追跡されることなく,自転車で約1km離れた公園に向かった。

 (2) 被告人は,同公園で盗んだ現金を数えたが,3万円余りしかなかったため少ないと考え,再度A方に盗みに入ることにして自転車で引き返し,午後1時20分ころ,同人方玄関の扉を開けたところ,室内に家人がいると気付き,扉を閉めて門扉外の駐車場に出たが,帰宅していた家人のBに発見され,逮捕を免れるため,ポケットからボウイナイフを取り出し,Bに刃先を示し,左右に振って近付き,Bがひるんで後退したすきを見て逃走した。

 2 原判決は,以上の事実関係の下で,被告人が,盗品をポケットに入れたまま,当初の窃盗の目的を達成するため約30分後に同じ家に引き返したこと,家人は,被告人が玄関を開け閉めした時点で泥棒に入られたことに気付き,これを追ったものであることを理由に,被告人の上記脅迫は,窃盗の機会継続中のものというべきであると判断し,被告人に事後強盗罪の成立を認めた。

 3 しかしながら,【要旨】上記事実によれば,被告人は,財布等を窃取した後,だれからも発見,追跡されることなく,いったん犯行現場を離れ,ある程度の時間を過ごしており,この間に,被告人が被害者等から容易に発見されて,財物を取り返され,あるいは逮捕され得る状況はなくなったものというべきである。そうすると,被告人が,その後に,再度窃盗をする目的で犯行現場に戻ったとしても,その際に行われた上記脅迫が,窃盗の機会の継続中に行われたものということはできない。

 したがって,被告人に事後強盗罪の成立を認めた原判決は,事実を誤認して法令の解釈適用を誤ったものであり,これが判決に影響することは明らかであって,原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

 よって,刑訴法411条1号,3号,413条本文により,原判決を破棄し,更に審理を尽くさせるため,本件を東京高等裁判所に差し戻すこととし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 検察官山本信一 公判出席

(裁判長裁判官 津野 修 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 梶谷 玄 裁判官 滝井繁男)

この判例に関する評釈

高橋則夫(早稲田大学教授) ジュリスト1291号165頁平成16年度重要判例解説(2005年)
小新井友厚 研修681号17頁(2005年)
「最新判例演習室」 豊田兼彦(愛知大学助教授) 法学セミナー605号125頁(2005年)

特に指定がないものは、最高裁判所判決です。
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