法律学研究支援室

判例 H16.08.25 第三小法廷・決定 平成16(あ)882 窃盗被告事件(第58巻6号515頁)

判示事項:
公園のベンチ上に置き忘れられたポシェットを領得した行為が窃盗罪に当たるとされた事例

要旨:
公園のベンチ上に置き忘れられたポシェットを領得した行為は,被害者がベンチから約27mしか離れていない場所まで歩いて行った時点で行われたことなど判示の事実関係の下では,窃盗罪に当たる。

参照・法条: 刑法235条,刑法254条

内容:

 件名  窃盗被告事件 (最高裁判所 平成16(あ)882 第三小法廷・決定 棄却)

 原審  H16.03.11 大阪高等裁判所 (平成15(う)1955)

主    文
本件上告を棄却する。
当審における未決勾留日数中40日を本刑に算入する。

理    由

 弁護人滝谷滉の上告趣意は,単なる法令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 所論にかんがみ,本件における窃盗罪の成否につき,職権で判断する。

 1 原判決の認定及び記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。

 (1) 被害者は,本件当日午後3時30分ころから,大阪府内の私鉄駅近くの公園において,ベンチに座り,傍らに自身のポシェット(以下「本件ポシェット」という。)を置いて,友人と話をするなどしていた。

 (2) 被告人は,前刑出所後いわゆるホームレス生活をし,置き引きで金を得るなどしていたものであるが,午後5時40分ころ,上記公園のベンチに座った際に,隣のベンチで被害者らが本件ポシェットをベンチ上に置いたまま話し込んでいるのを見掛け,もし置き忘れたら持ち去ろうと考えて,本を読むふりをしながら様子をうかがっていた。

 (3) 被害者は,午後6時20分ころ,本件ポシェットをベンチ上に置き忘れたまま,友人を駅の改札口まで送るため,友人と共にその場を離れた。被告人は,被害者らがもう少し離れたら本件ポシェットを取ろうと思って注視していたところ,被害者らは,置き忘れに全く気付かないまま,駅の方向に向かって歩いて行った。

 (4) 被告人は,被害者らが,公園出口にある横断歩道橋を上り,上記ベンチから約27mの距離にあるその階段踊り場まで行ったのを見たとき,自身の周りに人もいなかったことから,今だと思って本件ポシェットを取り上げ,それを持ってその場を離れ,公園内の公衆トイレ内に入り,本件ポシェットを開けて中から現金を抜き取った。

 (5) 他方,被害者は,上記歩道橋を渡り,約200m離れた私鉄駅の改札口付近まで2分ほど歩いたところで,本件ポシェットを置き忘れたことに気付き,上記ベンチの所まで走って戻ったものの,既に本件ポシェットは無くなっていた。

 (6) 午後6時24分ころ,被害者の跡を追って公園に戻ってきた友人が,機転を利かせて自身の携帯電話で本件ポシェットの中にあるはずの被害者の携帯電話に架電したため,トイレ内で携帯電話が鳴り始め,被告人は,慌ててトイレから出たが,被害者に問い詰められて犯行を認め,通報により駆けつけた警察官に引き渡された。

 2 以上のとおり,【要旨】被告人が本件ポシェットを領得したのは,被害者がこれを置き忘れてベンチから約27mしか離れていない場所まで歩いて行った時点であったことなど本件の事実関係の下では,その時点において,被害者が本件ポシェットのことを一時的に失念したまま現場から立ち去りつつあったことを考慮しても,被害者の本件ポシェットに対する占有はなお失われておらず,被告人の本件領得行為は窃盗罪に当たるというべきであるから,原判断は結論において正当である。

 よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖)

この判例に関する評釈

園田寿(甲南大学教授) ジュリスト1291号163頁平成16年度重要判例解説(2005年)

特に指定がないものは、最高裁判所判決です。
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