法律学研究支援室

判例 H14.10.22 第二小法廷・決定 平成10(あ)252 収賄被告事件(第56巻8号690頁)

判示事項:
  中央省庁の幹部職員の不作為について収賄罪における職務関連性が認められた事例

要旨:
  中央省庁の幹部職員が,積極的な便宜供与行為をしていなかったとしても,同省庁が私人の事業の遂行に不利益となるような行政措置を採らずにいたことに対する謝礼等の趣旨で利益を収受したときは(判文参照),収賄罪における職務関連性が認められる。

参照・法条:  刑法(平成7年法律第91号による改正前のもの)197条1項前段

内容:
 件名  収賄被告事件 (最高裁判所 平成10(あ)252 第二小法廷・決定 棄却)
 原審  H10.01.19 東京高等裁判所 (平成8(う)1013)

主    文
       本件上告を棄却する。

理    由

 弁護人伊藤卓藏,同八代宏の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,単なる法令違反,事実誤認の主張であり,被告人本人の上告趣意は,単なる法令違反,事実誤認の主張であって,いずれも適法な上告理由に当たらない。

 なお,原判決の認定及び記録によれば,被告人は,昭和58年7月5日から昭和61年6月16日までの間,文部省初等中等教育局の局長として,教育課程,学習指導法等初等中等教育のあらゆる面について,教育職員その他の関係者に対し,専門的,技術的な指導と助言を与えること,初等中等教育における進路指導に関し,援助と助言を与えること,文部大臣の諮問機関である教育課程審議会に関することなどの同局の事務全般を統括する職務に従事し,その後,同月17日から昭和63年6月10日までの間,文部事務次官として,文部大臣を助け,省務を整理し,同省各部局等の事務を監督するなどの職務に従事していた者であるが,昭和61年9月上,中旬ころ,高校生向けの進学・就職情報誌を発行して,これを高校生に配布するなどの事業を営む株式会社リクルート(以下「リ社」という。)の代表取締役社長をしていたA及びリ社の関連会社であるファーストファイナンス株式会社の代表取締役社長をしていたBから,@リ社の進学情報誌に係る事業に関し,高等学校の教育職員が高校生の名簿を収集提供するという便宜を与えていることなどについての批判が顕在化していたのに,文部省が同事業の遂行に不利益となるような行政措置を採らずにいたことに対する謝礼と今後も同様の取り計らいを受けたいという趣旨,及びAリ社の事業の遂行に利益となる同社役職員の教育課程審議会等文部省所管の各種審議会,会議等の委員への選任に対する謝礼と今後も同様の取り計らいを受けたいという趣旨の下に,同年10月30日に社団法人日本証券業協会に店頭売買有価証券として店頭登録されることが予定されており,登録後確実に値上がりすることが見込まれ,前記Aらと特別の関係にある者以外の一般人が入手することが極めて困難である株式会社リクルートコスモスの株式を,店頭登録後に見込まれる価格より明らかに低い1株当たり3000円で1万株供与する旨の申入れを受け,申入れの趣旨が前記@Aのとおり自己の職務に関するものであることを認識しながら,その申入れを了承し,同年9月30日,同株式1万株を取得したものと認められる。【要旨】被告人の上記行為が平成7年法律第91号による改正前の刑法197条1項前段の収賄罪に該当することは明らかである。前記@の関係につき,被告人において積極的な便宜供与行為をしていないことは,同罪の成否を左右するものではない。所論は,不作為につき職務関連性を認めるためには,何らかの行政措置を採るべき作為義務が存在する場合でなければならない旨主張するが,そのように解すべき根拠はない。したがって,被告人につき,前記@の関係も含めて収賄罪の成立を認めた原判断は,結論において正当である。

 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷 玄 裁判官 滝井繁男)

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