法律学研究支援室

判例 平成16年02月17日 第二小法廷決定 平成15年(あ)第1716号 傷害致死,建造物侵入,強盗,強盗未遂,道路交通法違反被告事件

要旨: 暴行による傷害の治療中に治療の効果を減殺する被害者の行動が介在したとしても暴行と死亡との間に因果関係があるとされた事例

内容:  件名 傷害致死,建造物侵入,強盗,強盗未遂,道路交通法違反被告事件 (最高裁判所 平成15年(あ)第1716号 平成16年02月17日 第二小法廷決定 棄却)
 原審 大阪高等裁判所 (平成14年(う)第1724号)

主    文  本件上告を棄却する。当審における未決勾留日数中90日を第1審判決の懲役刑に算入する。

理    由

 弁護人橋口玲の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,所論引用の各判例が事案を異にし,あるいは所論の主張するような趣旨を示したものではないから,前提を欠き,その余は事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 以下,所論にかんがみ,本件各犯行中,傷害致死事件の因果関係について,職権で判断する。

 1 原判決の認定及び記録によると,本件傷害致死事件の事実関係等は,次のとおりである。

 (1) 被告人は,外数名と共謀の上,深夜,飲食店街の路上で,被害者に対し,その頭部をビール瓶で殴打したり,足蹴にしたりするなどの暴行を加えた上,共犯者の1名が底の割れたビール瓶で被害者の後頸部等を突き刺すなどし,同人に左後頸部刺創による左後頸部血管損傷等の傷害を負わせた。被害者の負った左後頸部刺創は,頸椎左後方に達し,深頸静脈,外椎骨静脈沿叢などを損傷し,多量の出血を来すものであった。

 (2) 被害者は,受傷後直ちに知人の運転する車で病院に赴いて受診し,翌日未明までに止血のための緊急手術を受け,術後,いったんは容体が安定し,担当医は,加療期間について,良好に経過すれば,約3週間との見通しを持った。

 (3) しかし,その日のうちに,被害者の容体が急変し,他の病院に転院したが,事件の5日後に上記左後頸部刺創に基づく頭部循環障害による脳機能障害により死亡した。

 (4) 被告人は,原審公判廷において,上記容体急変の直前,被害者が無断退院しようとして,体から治療用の管を抜くなどして暴れ,それが原因で容体が悪化したと聞いている旨述べているところ,被害者が医師の指示に従わず安静に努めなかったことが治療の効果を減殺した可能性があることは,記録上否定することができない。

 2 以上のような事実関係等によれば,被告人らの行為により被害者の受けた前記の傷害は,それ自体死亡の結果をもたらし得る身体の損傷であって,仮に被害者の死亡の結果発生までの間に,上記のように被害者が医師の指示に従わず安静に努めなかったために治療の効果が上がらなかったという事情が介在していたとしても,被告人らの暴行による傷害と被害者の死亡との間には因果関係があるというべきであり,本件において傷害致死罪の成立を認めた原判断は,正当である。

 よって,刑訴法414条,386条1項3号,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 滝井繁男)

この判例に関する評釈

判例時報1854号158頁 「最新判例演習室」 豊田兼彦(愛知大学助教授) 法学セミナー597号113頁(2005年)
林陽一(千葉大学教授) ジュリスト1291号151頁平成16年度重要判例解説(2005年)

特に指定がないものは、最高裁判所判決です。
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