法律学研究支援室

判例 H15.10.06 第二小法廷・決定 平成14(あ)1164 有印私文書偽造被告事件(第57巻9号987頁)

判示事項:

正規の国際運転免許証に酷似する文書をその発給権限のない団体の名義で作成した行為が私文書偽造罪に当たるとされた事例

要旨:

正規の国際運転免許証に酷似する文書をその発給権限のない団体Aの名義で作成した行為は,上記文書が,一般人をして,その発給権限を有する団体であるAにより作成された正規の国際運転免許証であると信用させるに足りるものであるなど判示の事実関係の下では,団体Aから上記文書の作成を委託されていたとしても,私文書偽造罪に当たる。

参照・法条:  刑法159条1項

内容:

 件名  有印私文書偽造被告事件 (最高裁判所 平成14(あ)1164 第二小法廷・決定 棄却)

 原審  H14.05.28 東京高等裁判所 (平成14(う)314)

主    文

       本件上告を棄却する。

理    由

 弁護人門西栄一の上告趣意のうち,憲法違反をいう点は,実質において単なる法令違反の主張であり,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 なお,所論にかんがみ,職権で判断する。

 1 1,2審判決の認定及び記録によると,本件の事実関係は,次のとおりである。

 (1) 被告人は,甲らと共謀の上,国際運転免許証様の文書1通(以下「本件文書」という。)を作成した。被告人らは,本件文書のような国際運転免許証様の文書を顧客に販売することを業としており,本件文書も,顧客に交付する目的で作成されたものである。

 (2) 1949年9月19日にジュネーブで採択された道路交通に関する条約(以下「ジュネーブ条約」という。)は,締約国若しくはその下部機構の権限ある当局又はその当局が正当に権限を与えた団体でなければ,同条約に基づいて国際運転免許証を発給することができない旨規定した上,国際運転免許証の形状,記載内容等の様式を詳細に規定している。我が国はジュネーブ条約の締約国であり,同条約に基づいて発給された国際運転免許証は,我が国において効力を有する。

 (3) 本件文書は,その表紙に英語と仏語で「国際自動車交通」,「国際運転免許証」,「1949年9月19日国際道路交通に関する条約(国際連合)」等と印字されているなど,ジュネーブ条約に基づく正規の国際運転免許証にその形状,記載内容等が酷似している。また,本件文書の表紙に英語で「国際旅行連盟」と刻された印章様のものが印字されていることなどからすると,本件文書には国際旅行連盟なる団体がその発給者として表示されているといえる。このような形状,記載内容等に照らすと,本件文書は,一般人をして,ジュネーブ条約に基づく国際運転免許証の発給権限を有する団体である国際旅行連盟により作成された正規の国際運転免許証であると信用させるに足りるものである。

 (4) 国際旅行連盟なる団体がジュネーブ条約に基づきその締約国等から国際運転免許証の発給権限を与えられた事実はなく,被告人もこのことを認識していた。しかし,被告人は,メキシコ合衆国に実在する民間団体である国際旅行連盟から本件文書の作成を委託されていた旨弁解している。

 2 私文書偽造の本質は,文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽る点にあると解される(最高裁昭和58年(あ)第257号同59年2月17日第二小法廷判決・刑集38巻3号336頁,最高裁平成5年(あ)第135号同年10月5日第一小法廷決定・刑集47巻8号7頁参照)。本件についてこれをみるに,【要旨】上記1のような本件文書の記載内容,性質などに照らすと,ジュネーブ条約に基づく国際運転免許証の発給権限を有する団体により作成されているということが,正に本件文書の社会的信用性を基礎付けるものといえるから,本件文書の名義人は,「ジュネーブ条約に基づく国際運転免許証の発給権限を有する団体である国際旅行連盟」であると解すべきである。そうすると,国際旅行連盟が同条約に基づきその締約国等から国際運転免許証の発給権限を与えられた事実はないのであるから,所論のように,国際旅行連盟が実在の団体であり,被告人に本件文書の作成を委託していたとの前提に立ったとしても,被告人が国際旅行連盟の名称を用いて本件文書を作成する行為は,文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽るものであるといわねばならない。したがって,被告人に対し有印私文書偽造罪の成立を認めた原判決の判断は,正当である。

 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷 玄 裁判官 滝井繁男)

この判例に関する評釈

「時の判例」 成瀬幸典(東北大学助教授) 法学教室285号84頁(2004年)

特に指定がないものは、最高裁判所判決です。
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