法律学研究支援室

事件番号 平成17(テ)21
事件名 貸金等請求事件
裁判年月日 平成18年03月17日
法廷名 最高裁判所第二小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄自判
判例集巻・号・頁
原審裁判所名 大阪高等裁判所??
原審事件番号 平成17(ツ)5
原審裁判年月日 平成17年03月25日
判示事項
裁判要旨 債務者の貸金業者に対する貸金の弁済について貸金業法43条1項又は3項の適用を認めた高等裁判所の上告審としての判決が,特別上告審において,法令の違反があるとして職権により破棄された事例
参照法条
全文

主文

原判決を破棄する。
原々判決を破棄し,本件を神戸地方裁判所に差し戻す。

理由

第1 上告代理人辰巳裕規の上告理由について高等裁判所が上告審としてした終局判決に対して最高裁判所に更に上告をすることが許されるのは,民訴法327条1項所定の場合に限られるところ,本件上告理由は,違憲をいうが,その実質は単なる法令違反を主張するものであって,同項に規定する事由に該当しない。
第2 職権による検討1 原々審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
(2) 被上告人は,平成11年1月27日,Aに対し,380万円を,次の約定で貸し付け(以下「本件貸付け」という。),上告人は,同日,被上告人に対し,Aの本件貸付けに係る債務について連帯保証をした。
ア 利息 年29.80%(年365日の日割計算)イ 遅延損害金 年36.50%(年365日の日割計算)ウ 返済方法 平成11年3月から平成16年2月まで毎月10日に60回にわたって元金6万3000円ずつ(最終回は8万3000円)を経過利息と共に支払う。
エ 特約 Aは,元金又は利息の支払を遅滞したときには,当然に期限の利益を失い,被上告人に対して直ちに元利金を一時に支払う(以下「本件期限の利益喪失特約」という。)。
(3) 被上告人は,本件貸付けに係る契約を締結した際に,Aに対し,「貸付契約説明書」及び「償還表」と題する書面を交付した。
貸付契約説明書には,利息の利率を利息制限法1条1項所定の制限利率を超える年29.80%とする約定が記載された後に,本件期限の利益喪失特約につき,「元金又は利息の支払いを遅滞したとき(中略)は催告の手続きを要せずして期限の利益を失いただちに元利金を一時に支払います。
」と記載され,期限後に支払うべき遅延損害金の利率を同法4条1項(平成11年法律第155号による改正前のもの。
以下同じ。)所定の制限利率を超える年36.50%とする約定が記載されていた。
(4) Aは,被上告人に対し,本件貸付けに係る債務の弁済として,第1審判決別紙元利金計算書の「入金日」欄記載の各年月日に「入金額」欄記載の各金額を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。
被上告人は,Aに対し,本件各弁済の都度,「領収書兼利用明細書」と題する書面(以下「本件各受取証書」という。)を交付した。
本件各受取証書には,貸金業の規制等に関する法律施行規則(昭和58年大蔵省令第40号。
以下「施行規則」という。)15条2項に基づき,法18条1項2号所定の契約年月日の記載に代えて,契約番号が記載されていた。
(5) Aは,原々審係属中の平成16年6月21日,被上告人に対し,本件貸付けに係る債務の弁済として,2万4080円を支払った。
2 本件は,被上告人が,本件各弁済には法43条1項又は3項の規定が適用されるから,利息制限法1条1項又は4条1項に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超える部分の支払も有効な債務の弁済とみなされると主張して,上告人に対し,連帯保証債務履行請求権に基づき,本件貸付けの残元本211万9617円及び遅延損害金の支払を求める事案である。
3 原々審は,次のとおり判断し,本件各弁済には法43条1項又は3項の規定が適用されるとして,被上告人の請求を全部認容すべきものとした。
(1) 法18条1項柱書きは,法の趣旨に反しない範囲で,同項の規定に基づき貸金業者が貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときに当該弁済をした者に対して交付すべき書面(以下「18条書面」という。)の記載要件の詳細を内閣府令に委任したものと解され,この委任を受けて,施行規則15条2項が規定されたものである。
そして,法18条1項1号から3号までに掲げる事項の記載がなくとも,契約番号が記載されていれば,当該弁済がどの貸付けの契約に基づく債務についてされたかを特定することができ,弁済者に不利益が生ずることもないから,施行規則15条2項は,法18条1項柱書きの趣旨を逸脱するものとは解されない。
よって,施行規則15条2項に基づき,法18条1項2号所定の契約年月日の記載に代えて契約番号を記載した本件各受取証書は,法18条1項所定の事項の記載に欠けるものではなく,本件各受取証書の交付をもって,18条書面の交付がされたものというべきである。
(2) 法43条1項が,一定の要件の下に,利息制限法1条1項所定の利息の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超える利息の取得を容認し,法17条1項9号,施行規則13条1項1号ヌが,「期限の利益の喪失の定め」をすることを容認している以上,法43条1項の規定の適用を受けることを前提として,利息の制限額を超える約定利息の支払を怠った場合を期限の利益喪失事由とすることもまた,法的に許容されているものというべきである。
そして,債務者は,本件期限の利益喪失特約があっても,利息制限法所定の制限利率に従って支払をすることを表明して,利息の制限額の限度で支払をすることは何ら妨げられないのであるから,本件期限の利益喪失特約の存在自体が,債務者に対して利息の制限額を超える約定利息の支払を強制するものであるということはできない。
Aのした利息の制限額を超える額の金銭の支払は,法43条1項にいう「利息として任意に支払った」ものということができる。
4 原審は,前記事実関係の下においては,本件各弁済について法43条1項又は3項の規定の適用を認めた原々審の判断は正当として是認することができるとして,上告人の上告を棄却した。
5 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。
その理由は,次のとおりである。
(1) 法18条1項は,その文理に照らすと,18条書面の記載事項は,同項1号から5号までに掲げる事項(以下「法定事項」という。)及び法定事項に追加して内閣府令(法施行当時は大蔵省令。後に,総理府令・大蔵省令,総理府令,内閣府令と順次改められた。)で定める事項であることを規定するとともに,18条書面の交付方法の定めについて内閣府令に委任することを規定したものと解される。
したがって,18条書面の記載事項について,内閣府令により他の事項の記載をもって法定事項の記載に代えることは許されないものというべきである。
上記内閣府令に該当する施行規則15条2項の規定のうち,弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,法18条1項1号から3号までに掲げる事項の記載に代えることができる旨定めた部分は,他の事項の記載をもって法定事項の一部の記載に代えることを定めたものであるから,内閣府令に対する法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである(最高裁平成16年(受)第1518号第二小法廷同18年1月13日判決・民集60巻1号登載予定参照)。
そうすると,法18条1項2号所定の契約年月日の記載に代えて契約番号が記載された本件各受取証書の交付をもって,18条書面の交付がされたものとみることはできない。
(2) 本件期限の利益喪失特約のうち,Aが支払期日に利息の制限額を超える部分(以下「制限超過部分」という。)の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,利息制限法1条1項の趣旨に反して無効であり,Aは,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,制限超過部分の支払を怠ったとしても,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
そして,本件期限の利益喪失特約は,法律上は,上記のように一部無効であって,制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪失することはないけれども,この特約の存在は,通常,債務者に対し,支払期日に約定の元本と共に制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額を直ちに一括して支払い,これに対する年36.50%の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解を与え,その結果,このような不利益を回避するために,制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべきである。
したがって,本件期限の利益喪失特約の下で,債務者が,利息として,利息の制限額を超える額の金銭を支払った場合には,上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって制限超過部分を支払ったものということはできないと解するのが相当である(前掲最高裁平成18年1月13日第二小法廷判決参照)。
そうすると,上記特段の事情の存否につき審理判断することなく,Aが任意に制限超過部分を支払ったものということはできない。
6 以上と異なる原々審及び原審の前記判断には,いずれも判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
したがって,原判決及び原々判決を破棄し,本件を原々審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 津野 修 裁判官 滝井繁男 裁判官 今井 功 裁判官中川了滋 裁判官 古田佑紀)

特に指定がないものは、最高裁判所判決です。
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