法律学研究支援室

判例 平成17年12月15日 第一小法廷判決 平成16年(オ)第402号 土地所有権移転登記抹消登記手続請求事件

要旨:
 A名義の不動産につきB,Yが順次相続したことを原因として直接Yに対して所有権移転登記がされている場合に,Aの共同相続人であるXは,Yが上記不動産につき共有持分権を有しているとしても,上記登記の全部抹消を求めることができる

内容:  件名 土地所有権移転登記抹消登記手続請求事件 (最高裁判所 平成16年(オ)第402号 平成17年12月15日 第一小法廷判決 破棄差戻し)
 原審 福岡高等裁判所宮崎支部 (平成15年(ネ)第194号)

主    文
原判決を破棄する。
本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理    由

 第1 上告人の上告理由について

 民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは,民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ,本件上告理由は,理由の不備をいうが,その実質は単なる法令違反を主張するものであって,民訴法312条1項,2項に規定する事由に該当しない。

 第2 職権による検討

 1 原審の確定した事実関係は,次のとおりである。

 (1) 第1審判決別紙物件目録記載@〜Eの土地(以下「本件各土地」という。)は,もとA(以下「A」という。)が所有していた。

 (2) Aは,昭和44年3月5日に死亡した。Aの法定相続人は,妻であるC並びに子であるB(以下「B」という。),D,E(平成3年4月10日死亡),F及び上告人であった。Bは,平成9年11月3日に死亡した。Bの法定相続人は,妻であるG及び被上告人を含む6人の子である。

 (3) 本件各土地について,平成10年4月8日受付により,「昭和44年3月5日B相続,平成9年11月3日相続」を原因として,Aから被上告人に対する所有権移転登記(以下「本件登記」という。)がされている。

 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件各土地について,共有持分権に基づき,本件登記の抹消登記手続をすることを求める事案である。

 被上告人は,上告人を含むAの相続人の間で,本件各土地をBが取得する旨の遺産分割協議が成立したと主張したのに対し,上告人は,これを否認し争った。

 3 原審は,概要次のとおり判断し,上記遺産分割協議の成立が認められないとして上告人の請求を認容した第1審判決を取り消し,本件を第1審裁判所に差し戻した。

仮に上記遺産分割協議の成立が認められないとしても,前記事実関係の下では,被上告人は,Aの相続人であるBの相続人として本件各土地について共有持分権を取得していることになるから,本件登記は,この共有持分権に関する限り,実体関係に符合するものである。したがって,Aの相続人の1人として自己の共有持分権を有する上告人としては,被上告人に対し,本件登記の全部抹消を求めることはできず,被上告人の共有持分権を除くその余の部分についてのみ,本件登記の一部抹消のための更正登記手続を求めることができるにとどまるものと解される(最高裁昭和35年(オ)第1197号同38年2月22日第二小法廷判決・民集17巻1号235頁参照)。そして,このような更正登記を行うためには,A及びBの各相続人について,順次,相続登記を行う形に本件登記を更正する必要があるから,各相続について相続人を確定し,その持分割合等を認定する必要があるところ,この認定等のためになお審理を行う必要がある。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 更正登記は,錯誤又は遺漏のため登記と実体関係の間に原始的な不一致がある場合に,その不一致を解消させるべく既存登記の内容の一部を訂正補充する目的をもってされる登記であり,更正の前後を通じて登記としての同一性がある場合に限り認められるものである(最高裁平成11年(オ)第773号同12年1月27日第一小法廷判決・裁判集民事196号239頁参照)。

 前記事実関係によれば,原判決が判示する更正登記手続は,登記名義人を被上告人とする本件登記を,@登記名義人を被上告人が含まれないAの相続人とする登記と,A登記名義人をBの相続人とする登記に更正するというものである。しかし,この方法によると,上記@の登記は本件登記と登記名義人が異なることになるし,更正によって登記の個数が増えることにもなるから,本件登記と更正後の登記とは同一性を欠くものといわざるを得ない。したがって,上記更正登記手続をすることはできないというべきである。

 そして,被上告人の主張する遺産分割協議の成立が認められない限り,本件登記は実体関係と異なる登記であり,これを是正する方法として更正登記手続によることができないのであるから,上告人は,被上告人に対し,本件各土地の共有持分権に基づき本件登記の抹消登記手続をすることを求めることができるというべきであり,被上告人が本件各土地に共有持分権を有するということは,上記請求を妨げる事由にはならない。原審の引用する前記昭和38年2月22日第二小法廷判決は,共有不動産について,共有者の1人のため実体関係と異なる単独所有権取得の登記がされている場合に,他の共有者は,更正登記手続をすることができるから,全部抹消を求めることができない旨判示したものであり,更正の前後を通じて登記としての同一性がある事案についての判決であって,本件とは事案を異にする。

5 以上によれば,原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。そして,被上告人の抗弁(遺産分割協議の成立)が認められるのであれば,上告人の本訴請求は理由がないことになるから,本件においては,まず上記抗弁について判断すべきであるところ,原判決は,前記のとおり,前記遺産分割協議の成否を確定していないので,これについて更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島田仁郎 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉 コ治 裁判官 才口千晴)

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