法律学研究支援室

判例 H14.03.28 第一小法廷・判決 平成11(受)1220 建物明渡等請求事件(第56巻3号662頁)

判示事項:
  事業用ビルの賃貸借契約が賃借人の更新拒絶により終了しても賃貸人が信義則上その終了を再転借人に対抗することができないとされた事例

要旨:
  ビルの賃貸,管理を業とする会社を賃借人とする事業用ビル1棟の賃貸借契約が賃借人の更新拒絶により終了した場合において,賃貸人が,賃借人にその知識,経験等を活用してビルを第三者に転貸し収益を上げさせることによって,自ら各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れるとともに,賃借人から安定的に賃料収入を得ることを目的として賃貸借契約を締結し,賃借人が第三者に転貸することを賃貸借契約締結の当初から承諾していたものであること,当該ビルの貸室の転借人及び再転借人が,上記のような目的の下に賃貸借契約が締結され転貸及び再転貸の承諾がされることを前提として,転貸借契約及び再転貸借契約を締結し,再転借人が現にその貸室を占有していることなど判示の事実関係があるときは,賃貸人は,信義則上,賃貸借契約の終了をもって再転借人に対抗することができない。

参照・法条:  民法1条2項,民法612条,借地借家法34条

内容:
 件名  建物明渡等請求事件 (最高裁判所 平成11(受)1220 第一小法廷・判決 破棄自判)
 原審  H11.06.29 東京高等裁判所 (平成10(ネ)1902)

主    文
原判決中,上告人らに関する部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理    由

 上告代理人桑島英美,同川瀬庸爾の上告受理申立て理由について

 1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 (1) 被上告人は,昭和50年初めころ,ビルの賃貸,管理を業とする日本ビルプロヂェクト株式会社(以下「訴外会社」という。)の勧めにより,当時の被上告人代表者が所有していた土地の上にビルを建築して訴外会社に一括して賃貸し,訴外会社から第三者に対し店舗又は事務所として転貸させ,これにより安定的に収入を得ることを計画し,昭和51年11月30日までに原判決別紙物件目録記載の1棟のビル(以下「本件ビル」という。)を建築した。本件ビルの建築に当たっては,訴外会社が被上告人に預託した建設協力金を建築資金等に充当し,その設計には訴外会社の要望を最大限に採り入れ,訴外会社又はその指定した者が設計,監理,施工を行うこととされた。

 (2) 本件ビルの敷地のうち,小田急線下北沢駅に面する角地に相当する部分51.20uは,もとAの所有地であったが,被上告人代表者は,これを本件ビル敷地に取り込むため,訴外会社を通じて買収交渉を行い,訴外会社がAに対し,ビル建築後1階のA所有地にほぼ該当する部分を転貸することを約束したので,Aは,その旨の念書を取得して,上記土地を被上告人に売却した。

 (3) 被上告人は,昭和51年11月30日,訴外会社との間で,本件ビルにつき,期間を同年12月1日から平成8年11月30日まで(ただし,被上告人又は訴外会社が期間満了の6箇月前までに更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは,更新される。)とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借」という。)を締結した。被上告人は,本件賃貸借において,訴外会社が本件ビルを一括又は分割して店舗又は事務所として第三者に転貸することをあらかじめ承諾した。

 (4) 訴外会社は,昭和51年11月30日,Aとの間で,本件ビルのうちAの従前の所有地にほぼ照合する原判決別紙物件目録記載一及び二の部分(以下「本件転貸部分」という。)につき,期間を同日から平成8年11月30日まで,使用目的を店舗とする転貸借契約(以下「本件転貸借」という。)を締結した。

 (5) Aは,昭和51年11月30日に被上告人及び訴外会社の承諾を得て,株式会社京樽(以下「京樽」という。)との間で,本件転貸部分のうち原判決別紙物件目録記載二の部分(以下「本件転貸部分二」という。)につき,期間を同年12月1日から5年間とする再転貸借契約(以下「本件再転貸借」という。)を締結し,京樽はこれに基づき本件転貸部分二を占有している。京樽については平成9年3月31日に会社更生手続開始の決定がされ,上告人らが管財人に選任された。

 (6) 訴外会社は,転貸方式による本件ビルの経営が採算に合わないとして経営から撤退することとし,平成6年2月21日,被上告人に対して,本件賃貸借を更新しない旨の通知をした。

(7) 被上告人は,平成7年12月ころ,A及び京樽に対し,本件賃貸借が平成8年11月30日に期間の満了によって終了する旨の通知をした。

 (8) 被上告人は,本件賃貸借終了後も,自ら本件ビルを使用する予定はなく,A以外の相当数の転借人との間では直接賃貸借契約を締結したが,Aとの間では,被上告人がAに対し京樽との間の再転貸借を解消することを求めたため,協議が調わず賃貸借契約の締結に至らなかった。

 (9) 京樽は昭和51年12月から本件転貸部分二において寿司の販売店を経営しており,本件ビルが小田急線下北沢駅前という立地条件の良い場所にあるため,同店はその経営上重要な位置を占めている。

 2 被上告人の本件請求は,上告人らに対し所有権に基づいて本件転貸部分二の明渡しと賃料相当損害金の支払を求めるものであるところ,上告人らは,信義則上,本件賃貸借の終了をもって承諾を得た再転借人である京樽に対抗することができないと主張している。

 原審は,上記事実関係の下で,被上告人のした転貸及び再転貸の承諾は,A及び京樽に対して訴外会社の有する賃借権の範囲内で本件転貸部分二を使用収益する権限を付与したものにすぎないから,転貸及び再転貸がされた故をもって本件賃貸借を解除することができないという意義を有するにとどまり,それを超えて本件賃貸借が終了した後も本件転貸借及び本件再転貸借を存続させるという意義を有しないこと,本件賃貸借の存続期間は,民法の認める最長の20年とされ,かつ,本件転貸借の期間は,その範囲内でこれと同一の期間と定められているから,A及び京樽は使用収益をするに足りる十分な期間を有していたこと,訴外会社は,その採算が悪化したために,上記期間が満了する際に,本件賃貸借の更新をしない旨の通知をしたものであって,そこに被上告人の意思が介入する余地はないことなどを理由として,被上告人が信義則上本件賃貸借の終了をA及び京樽に対抗し得ないということはできないと判断した。

 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 前記事実関係によれば,被上告人は,建物の建築,賃貸,管理に必要な知識,経験,資力を有する訴外会社と共同して事業用ビルの賃貸による収益を得る目的の下に,訴外会社から建設協力金の拠出を得て本件ビルを建築し,その全体を一括して訴外会社に貸し渡したものであって,本件賃貸借は,訴外会社が被上告人の承諾を得て本件ビルの各室を第三者に店舗又は事務所として転貸することを当初から予定して締結されたものであり,被上告人による転貸の承諾は,賃借人においてすることを予定された賃貸物件の使用を転借人が賃借人に代わってすることを容認するというものではなく,自らは使用することを予定していない訴外会社にその知識,経験等を活用して本件ビルを第三者に転貸し収益を上げさせるとともに,被上告人も,各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れ,かつ,訴外会社から安定的に賃料収入を得るためにされたものというべきである。他方,京樽も,訴外会社の業種,本件ビルの種類や構造などから,上記のような趣旨,目的の下に本件賃貸借が締結され,被上告人による転貸の承諾並びに被上告人及び訴外会社による再転貸の承諾がされることを前提として本件再転貸借を締結したものと解される。そして,京樽は現に本件転貸部分二を占有している。

 【要旨】このような事実関係の下においては,本件再転貸借は,本件賃貸借の存在を前提とするものであるが,本件賃貸借に際し予定され,前記のような趣旨,目的を達成するために行われたものであって,被上告人は,本件再転貸借を承諾したにとどまらず,本件再転貸借の締結に加功し,京樽による本件転貸部分二の占有の原因を作出したものというべきであるから,訴外会社が更新拒絶の通知をして本件賃貸借が期間満了により終了しても,被上告人は,信義則上,本件賃貸借の終了をもって京樽に対抗することはできず,京樽は,本件再転貸借に基づく本件転貸部分二の使用収益を継続することができると解すべきである。このことは,本件賃貸借及び本件転貸借の期間が前記のとおりであることや訴外会社の更新拒絶の通知に被上告人の意思が介入する余地がないことによって直ちに左右されるものではない。

 これと異なり,被上告人が本件賃貸借の終了をもって京樽に対抗し得るとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,上告人らに関する部分は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,被上告人の請求を棄却した第1審判決の結論は正当であるから,上記部分についての被上告人の控訴を棄却すべきである。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 町田 顯 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子)

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