法律学研究支援室

判例 平成16年04月23日 第二小法廷判決 平成14年(受)第248号 管理費等請求事件

要旨:
マンション管理組合が組合員である区分所有者に対して有する管理費及び特別修繕費に係る債権が5年間の短期消滅時効を定める民法169条所定の定期給付債権に当たるとされた事例

内容:  件名 管理費等請求事件 (最高裁判所 平成14年(受)第248号 平成16年04月23日 第二小法廷判決 破棄自判)
原審 東京高等裁判所 (平成13年(ネ)第3618号)

主    文
1 原判決を次のとおり変更する。
 第1審判決を次のとおり変更する。
(1) 上告人は,被上告人に対し,69万9720円及びこれに対する平成12年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被上告人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟の総費用は,これを5分し,その3を被上告人の負担とし,その余を上告人の負担とする。

理    由

 上告代理人桑原昌宏の上告受理申立て理由について

 1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

 (1) 被上告人は,埼玉県草加市内にあるマンション「Aマンション」(以下「本件マンション」という。)の管理組合であり,建物の区分所有等に関する法律3条前段所定の本件マンションの区分所有者全員を構成員とする団体である。

 (2) 上告人は,平成10年3月31日,株式会社Bから本件マンションの506号室の区分所有権を買い受け,同年5月1日,その旨の所有権移転登記手続を了した。

 (3) 被上告人が定めた本件マンションの管理規約(以下「本件規約」という。)中には,管理費及び特別修繕費(以下,併せて「管理費等」という。)に関する定めとして,次のような規定がある。

 組合員である区分所有者は,敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため,管理費等を被上告人に納入しなければならず,その額については,各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出し,毎会計年度の収支予算案により,総会の承認を受けるものとする(25条)。特別修繕費は修繕積立金として積み立てるものとする(28条1項)。被上告人は,管理費等について,組合員が各自開設する預金口座からの自動振替の方法等により翌月分を毎月末日までに一括して受け入れる方法により徴収するものとする(58条1項)。管理費等の額,賦課徴収方法等については,総会の決議を経なければならない(47条)。

 (4) 株式会社Bは,平成4年1月分から平成10年4月分までの管理費等を滞納しており,その合計額は173万9920円である(内訳は別紙「滞納額の内訳」のとおりである。以下,この管理費等を「本件管理費等」という。)。

 (5) 被上告人は,本件管理費等の支払義務は上告人に承継されたとして(建物の区分所有等に関する法律8条),平成12年12月4日,上告人に対し,本件管理費等の支払を求める旨の支払督促を越谷簡易裁判所に申し立てた。この督促事件は,上告人が督促異議の申立てをしたことにより本件訴訟に移行した。

 (6) 上告人は,本件訴訟において,本件の管理費等の債権は民法169条所定の債権に該当し,同条所定の5年間の短期消滅時効により消滅する旨主張して,本件管理費等のうち支払期限から5年を経過した平成7年12月分までのもの(合計104万0200円)につき消滅時効を援用した。

 2 原審は,次のとおり判断し,上告人の上記消滅時効の抗弁を排斥して,被上告人の請求を認容すべきものとした。

 本件の管理費等は,原則的には毎月一定額を支払う形になってはいるものの,共用部分の管理の必要に応じて,総会の決議によりその額が決定され,毎年要する経費の変化に応じて年単位でその増額,減額等がされることが予定されているものであって,その年額が毎年一定となるものではない。したがって,被上告人が区分所有者に対して管理費等の納入を求めることができる権利は,基本権たる定期金債権の性質を有するものではなく,本件の管理費等の債権についても,基本権たる定期金債権から発生する支分権としての性質を有するものとはいえず,民法169条所定の定期給付債権には該当しないから,同条所定の短期消滅時効の適用はないと解すべきである。

 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 本件の管理費等の債権は,前記のとおり,管理規約の規定に基づいて,区分所有者に対して発生するものであり,その具体的な額は総会の決議によって確定し,月ごとに所定の方法で支払われるものである。このような本件の管理費等の債権は,基本権たる定期金債権から派生する支分権として,民法169条所定の債権に当たるものというべきである。その具体的な額が共用部分等の管理に要する費用の増減に伴い,総会の決議により増減することがあるとしても,そのことは,上記の結論を左右するものではない。

 そうすると,本件管理費等のうち平成4年1月分から平成7年12月分までのもの(合計104万0200円)については,消滅時効が完成していることになるから,被上告人の請求は,上記時効完成分を除いた69万9720円及びこれに対する支払督促の送達の日の翌日である平成12年12月13日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきである。

 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決を主文第1項のとおり変更するのが相当である。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官福田博の補足意見がある。

 裁判官福田博の補足意見は,次のとおりである。

 論旨は,管理費及び特別修繕費の双方について実体的に一体のものとして民法169条に基づく短期消滅時効を主張しており,現行法の解釈としては,法廷意見が述べるとおり,これを首肯せざるを得ない。

 しかし,マンション等の区分所有建物においては,経常的な経費を賄うために徴収される通常の管理費とは別に,共用部分の経年劣化等に対処するための修繕費用は必ず必要となるものであって,これを区分所有者全員で負担しなければならないことはいうまでもない。そのために要する費用は往々にして多額に上ることから,これを修繕を行う際に一度に徴収することは実際的とはいい難い。そこで,管理組合が長期的な収支見通しの下で計画的な積立てを行ってこれに備えるのが修繕積立金と呼ばれるものであり,将来への備えとして,このような対応が必要となることは当然のことというべきである。このような修繕積立金は,区分所有建物の資産価値を維持保全するためのものであり,究極的には個々の区分所有者の利益に還元されるのであり,また,区分所有関係を維持していくために必要不可欠の負担ということもできる。修繕積立金のこのような性質にかんがみると,短期消滅時効の適用により,不誠実な一部の滞納者がその納付義務を容易に免れる結果とならないようにするための適切な方策が,立法措置を含め十分に検討されるべきものと考える。

(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 福田 博 裁判官 滝井繁男)

この判例に関する評釈

判例時報1861号38頁
判例タイムズ1152号147頁
「最新判例演習室」 原田剛(成城大学助教授) 法学セミナー596号112頁
金山直樹(慶應義塾大学教授) ジュリスト1291号平成16年度重要判例解説(2005年)
丸山英気 民商法雑誌131号4・5号174頁(2005年)

特に指定がないものは、最高裁判所判決です。
【分野別トップへ】
【トップページに戻る】

憲法. 民法.   刑法.   商法.   民事訴訟法.   刑事訴訟法
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送