法律学研究支援室

判例 平成16年02月20日 第二小法廷判決 平成14年(受)第912号 不当利得金返還請求事件

要旨:
 貸金業者が貸金の弁済を受ける前に振込用紙と一体となった貸金業法18条1項所定の事項が記載されている書面を債務者に交付し,債務者が同書面を利用して利息の払込みをしたとしても,同法43条1項の適用要件である同法18条1項所定の要件を具備した書面の交付があるということはできない

内容: 件名 不当利得金返還請求事件 (最高裁判所 平成14年(受)第912号 平成16年02月20日 第二小法廷判決 破棄差戻し)
原審 札幌高等裁判所 (平成13年(ネ)第323号)

主    文
判決を破棄する。
本件を札幌高等裁判所に差し戻す。

理    由

 上告代理人樋川恒一,同濱本光一,同竹之内洋人,同新川生馬,同森越壮史郎,同八十島保の上告受理申立て理由について

 1 原審が確定した事実関係等は,次のとおりである。

 (1) 株式会社A(以下「A」という。)は,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けて貸金業を営む被上告人との間で,平成5年11月26日,金銭消費貸借契約等継続取引に関する基本取引約定を締結し,Aの代表取締役である上告人は,同日,この約定に基づきAが被上告人に対して負担する債務について,根保証元本限度額を200万円,保証期間を同10年11月25日までとする連帯保証をした。Aと被上告人は,平成7年9月27日,上記基本取引約定を更新したが,その際,上告人と被上告人は,上記連帯保証に係る契約について,根保証元本限度額を400万円,保証期間を同12年9月26日までとする旨改定をした。

 (2) 上記基本取引約定に基づき,被上告人は,Aに対し,@ 平成5年11月26日に返済期日を同6年1月5日として200万円を,A 同7年9月27日に返済期日を同年11月5日として200万円を,いずれも日歩8銭の利率で貸し付けた(以下,これらの貸付けを「本件各貸付け」という。)。

 本件各貸付けの元本の返済期日は,1か月ずつその都度延長されることが繰り返された。

 (3) 被上告人は,毎月,Aに対し,本件各貸付けの元本の返済期日である毎月5日の約10日前である前月25日ころに,返済期日から先1か月分についての本件各貸付けに係る利息及び費用(以下,利息及び費用を合わせて「利息等」という。)の銀行振込みによる支払を求める旨の各書面(被上告人の銀行口座への振込用紙と一体となったもの。以下「本件各請求書」という。)を送付した。なお,この利息等の金額は,利息制限法1条1項所定の利息の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超えるものであった。また,本件各請求書には,充当関係が不明な一部の書面を除き,利息等として支払われる金額の充当関係等の法18条1項に掲げる事項の記載がされていた。

 上告人は,本件各貸付けに係る債務の弁済として,A名義で,原判決別紙計算書の番号2から22まで及び24から77までの各「取引年月日」欄記載の各年月日に各「返済額(円)」欄記載の金額を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。

 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件各貸付けにつき支払われた利息等のうち利息の制限額を超える部分を元本に充当すると過払金が生じており,この過払金は,実質的には上告人が負担したものであると主張して,不当利得返還請求権に基づき,また,仮に,Aによる返済と認められる部分があるとすれば,その部分については,主債務者であるAに対する求償債権を保全するため,Aが被上告人に対して有する不当利得返還請求権を上告人が代位行使すると主張して,債権者代位権に基づき,過払金の返還を求める事案である。

 3 原審は,次のとおり判断し,本件各弁済による被上告人の不当利得返還債務は存在しないとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。

 貸金業者が,法18条1項所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)を返済期日の前に債務者に交付し,しかもこの書面が貸金業者の銀行口座への振込用紙と一体となって作成されているような場合には,債務者が上記書面を用いてそこに記載された弁済額と一致する金額を銀行振込みの方式により払い込む以上,債務者は,振込手続をするのと同時に又はその直後の時期に,弁済額の具体的な充当の内訳等を含む同項所定の事項を漏れなく認識しているものとみることができ,また,振込手続を完了して振込金受取書の交付を受けた時点において,上記書面の交付は同項所定の要件を満たすことになるとみることができる。したがって,その振込み後に,貸金業者が債務者に対し,更に18条書面の交付をしなくとも,上記書面の交付により同項所定の要件を満たすことになる。

 本件においては,充当関係が不明な一部の書面を除き,本件各貸付けの返済期日の約10日前ごとに,被上告人からAに対し,法18条1項所定の事項の記載がある本件各請求書が交付されているから,上告人が本件各請求書と一体となった振込用紙を利用して,本件各請求書に記載された弁済額と一致する金額を被上告人に対して振り込んだ支払については,同項所定の要件を満たすものというべきである。

 したがって,本件各貸付けに係る利息の約定に基づき,上告人によってされた利息の制限額を超える金銭部分の任意の支払は,法43条1項により有効な利息の債務の弁済とみなされる。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として任意に支払った金銭の額が,利息の制限額を超え,利息制限法上,その超過部分につき,その契約が無効とされる場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守しているときには,利息制限法1条1項の規定にかかわらず,その支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めている。貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として,貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨,目的(法1条)と,上記業務規制に違反した場合の罰則(平成15年法律第136号による改正前の法49条3号)が設けられていること等にかんがみると,法43条1項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきものである。

 また,利息の制限額を超える金銭の支払が貸金業者の預金口座に対する払込みによってされたときであっても,特段の事情のない限り,法18条1項の規定に従い,貸金業者は,この払込みを受けたことを確認した都度,直ちに,18条書面を債務者に交付しなければならないと解すべきである(最高裁平成8年(オ)第250号同11年1月21日第一小法廷判決・民集53巻1号98頁参照)。

 そして,18条書面は,弁済を受けた都度,直ちに交付することが義務付けられていることに照らすと,貸金業者が弁済を受ける前にその弁済があった場合の法18条1項所定の事項が記載されている書面を債務者に交付したとしても,これをもって法18条1項所定の要件を具備した書面の交付があったということはできない。したがって,本件各請求書のように,その返済期日の弁済があった場合の法18条1項所定の事項が記載されている書面で貸金業者の銀行口座への振込用紙と一体となったものが返済期日前に債務者に交付され,債務者がこの書面を利用して貸金業者の銀行口座に対する払込みの方法によって利息の支払をしたとしても,法18条1項所定の要件を具備した書面の交付があって法43条1項の規定の適用要件を満たすものということはできないし,同項の適用を肯定すべき特段の事情があるということもできない。

 そうすると,これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 5 以上によれば,論旨は理由があり,その余の点について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 亀山継夫 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 滝井繁男)

この判例に関する評釈

「時の判例」 本多知成(最高裁判所調査官) ジュリスト1271号101頁
吉田克己(北海道大学教授) ジュリスト1291号平成16年度重要判例解説(2005年)
平田健治 民商法雑誌131巻4・5号131頁(2005年)

特に指定がないものは、最高裁判所判決です。
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