法律学研究支援室


事件番号 平成17(行ツ)247
事件名 選挙無効請求事件
裁判年月日 平成18年10月04日
法廷名 最高裁判所大法廷
裁判種別 判決
結果 棄却
判例集巻・号・頁
原審裁判所名 東京高等裁判所??
原審事件番号 平成16(行ケ)356
原審裁判年月日 平成17年05月18日
判示事項
裁判要旨 公職選挙法(平成18年法律第52号による改正前のもの)14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の定数配分規定は,平成16年7月11日に施行された参議院議員選挙当時,憲法に違反しない
参照法条
全文

主文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人兼上告代理人山口邦明,同森徹,上告人土釜惟次,同野々山哲郎,同柏木栄一,同國部徹の各上告理由について
1 本件は,平成16年7月11日施行の参議院議員選挙(以下「本件選挙」という。)について,東京都選挙区の選挙人である上告人らが,公職選挙法の一部を改正する法律(平成12年法律第118号)による改正(以下「本件改正」という。)後の公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下「本件定数配分規定」という。)は憲法14条1項等に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。
2 原審の適法に確定した事実関係等によれば,本件改正に至る経緯等は,次のとおりである。
(1) 参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員の選挙について,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方,地方選出議員については,その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとした。
そして,各選挙区ごとの議員定数については,定数を偶数としてその最小限を2人とする方針の下に,昭和21年当時の人口に基づき,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員数を配分した。
昭和25年に制定された公職選挙法の参議院議員定数配分規定は,参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継ぎ,その後,沖縄返還に伴って沖縄県選挙区の議員定数2人が付加された外は,平成6年法律第47号による議員定数配分規定の改正(以下「平成6年改正」という。)まで上記定数配分規定に変更はなかった。
なお,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正により,参議院議員選挙についていわゆる拘束名簿式比例代表制が導入され,各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになったが,比例代表選出議員は全都道府県を通じて選出されるものであって,各選挙人の投票価値に差異がない点においては,従来の全国選出議員と同様であり,選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称が変更されたものにすぎない。
(2) 選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,参議院議員選挙法制定当時は1対2.62(以下,較差に関する数値は,すべて概数である。)であったが,その後,次第に拡大した。
平成6年改正は,平成4年7月26日施行の参議院議員選挙当時には1対6.59にまで拡大していた選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差を是正する目的で行われたものであり,前記のような参議院議員の選挙制度の仕組みに変更を加えることなく,直近の平成2年10月実施の国勢調査結果に基づき,できる限り増減の対象となる選挙区を少なくし,かつ,いわゆる逆転現象を解消することとして,参議院議員の総定数(252人)及び選挙区選出議員の定数(152人)を増減しないまま,7選挙区で議員定数を8増8減した。
上記改正の結果,上記国勢調査による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の較差は,最大1対6.48から最大1対4.81に縮小し,いわゆる逆転現象は消滅することとなった。
その後,上記改正後の定数配分規定の下において平成7年7月23日に施行された参議院議員選挙当時における選挙人数を基準とする上記較差は,最大1対4.97であった(なお,同年10月実施の国勢調査結果によれば,人口を基準とする上記較差は,最大1対4.79であった。)。
(3) 本件改正は,昭和57年に導入された拘束名簿式比例代表制には幾つかの批判があり,また,中央省庁の改革,国家公務員の定員削減等が行われている状況において,行政を監視すべき地位にある立法機関である参議院においても定数を削減して事務の効率化等を図る必要があるとの声が高まったのを受けて,比例代表選出議員の選挙制度をいわゆる非拘束名簿式比例代表制に改め,参議院議員の総定数を10人削減して242人としたものである。
定数削減に当たっては,改正前の選挙区選出議員と比例代表選出議員の定数比をできる限り維持する方針の下に,選挙区選出議員の定数を6人削減して146人とし,比例代表選出議員の定数を4人削減して96人とした上,選挙区選出議員の定数削減については,直近の平成7年10月実施の国勢調査結果に基づき,平成6年改正の後に生じたいわゆる逆転現象を解消するとともに,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数又は人口の較差の拡大を防止するために,定数4人の選挙区の中で人口の少ない3選挙区の定数を2人ずつ削減した。
本件改正の結果,いわゆる逆転現象は消滅したが,上記国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差は1対4.79であって,本件改正前と変わらなかった。
その後,平成13年7月29日施行の参議院議員選挙(以下「前回選挙」という。)当時における選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対5.06となり,平成16年7月11日施行の本件選挙当時における上記の最大較差は1対5.13となった。
3 憲法は,国会の両議院の議員を選挙する国民固有の権利につき,選挙人の資格における人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入による差別を禁止するにとどまらず,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等をも要求していると解するのが相当である。
他方,憲法は,国会の両議院の議員の選挙について,議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとしている(43条,47条)。
また,憲法は,国会を衆議院と参議院の両議院で構成するものとし(42条),各議院の権限及び議員の任期等に差異を設けているところ,その趣旨は,衆議院と参議院とがそれぞれ特色のある機能を発揮することによって,国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにある。
そうすると,憲法は,投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一,絶対の基準としているものではなく,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の裁量にゆだねており,投票価値の平等は,参議院の独自性など,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものとしていると解さなければならない。
それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り,それによって投票価値の平等が損なわれることになっても,憲法に違反するとはいえない。
4 前記2(1)において指摘した参議院議員の選挙制度の仕組みは,憲法が二院制を採用した前記の趣旨から,参議院議員の選出方法を衆議院議員のそれとは異ならせることによって参議院の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に,参議院議員を全国選出議員ないし比例代表選出議員と地方選出議員ないし選挙区選出議員とに分け,後者については,都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し,政治的に一つのまとまりを有する単位としてとらえ得ることに照らし,都道府県を構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものであると解することができる。
また,上記の仕組みは,憲法46条が参議院議員については3年ごとにその半数を改選すべきものとしていることに応じて,各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることになるように配慮し,各選挙区に偶数により定数配分を行うこととしたものと解することができる。
このような憲法の趣旨等に照らすと,公職選挙法が定めた参議院議員の選挙制度の仕組みは,国民各自,各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものとはいえず,国会の有する立法裁量権の合理的な行使の範囲を逸脱するものであるということはできない。
このように,公職選挙法が採用した参議院議員についての選挙制度の仕組みが国会にゆだねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものである以上,その結果として各選挙区に配分された議員定数とそれぞれの選挙区の選挙人数又は人口との比率に較差が生じ,そのために選挙区間における選挙人の投票価値の平等がそれだけ損なわれることとなったとしても,これをもって直ちに上記の議員定数の定めが憲法の定めに違反して選挙権の平等を侵害したものとすることはできない。
そして,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の変動につき,それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要するものであって,その決定は,種々の社会情勢の変動に対応して適切な選挙制度の内容を決定する責務と権限を有する国会の裁量にゆだねられている。
したがって,議員定数配分規定の制定又は改正の結果,上記のような選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせたこと,あるいは,その後の人口の変動が上記のような不平等状態を生じさせ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮しても,その許される限界を超えると判断される場合に,初めて議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
5 上記の見地に立って,以下,本件選挙当時の本件定数配分規定の合憲性について検討する。
(1) 平成6年改正前の参議院議員定数配分規定の下で,最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁は,平成4年7月26日施行の参議院議員選挙当時の最大較差1対6.59について,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていた旨判示するに至った。
平成6年改正は,上記のような選挙区間における較差を是正する目的で行われたものであり,その結果,前記のとおり,平成2年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の議員1人当たりの人口の較差は,最大1対6.48から最大1対4.81に縮小した。
その後,平成6年改正後の定数配分規定の下において平成7年7月23日に施行された参議院議員選挙当時における選挙人数を基準とする上記較差は,最大1対4.97であったところ,最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁は,平成6年改正の結果においても残ることとなった較差及び上記選挙当時における選挙人数を基準とする較差については,いずれも違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示し,最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁は,平成10年7月12日施行の参議院議員選挙当時における選挙人数を基準とする最大較差1対4.98についても,これと同旨の判示をした。
本件改正による議員定数配分規定の改正は,前述のとおり,参議院議員の定数削減に伴って行われたものであり,従来の参議院議員の選挙制度の仕組みを維持した上で,いわゆる逆転現象を解消し,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数又は人口の較差の拡大を防止することを目的として,定数4人の選挙区の中で人口の少ない3選挙区の定数を2人ずつ削減したものである。
その結果,いわゆる逆転現象は消滅したが,平成7年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差は1対4.79であって,本件改正前と変わらなかった。
そして,平成13年7月29日に施行された前回選挙当時における選挙人数を基準とする最大較差は1対5.06であったが,最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁(以下「平成16年大法廷判決」という。)は,その結論において,前回選挙当時,本件定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示した。
その後,参議院は,平成16年大法廷判決を受けて,平成16年2月6日,参議院議長が主宰する各会派代表者懇談会の下に,「参議院議員選挙の定数較差問題に関する協議会」を設置し,同協議会は5回にわたって協議を行ったが,同年5月28日,同年7月に施行される本件選挙までの間に定数較差を是正することは困難であり,本件選挙後に協議を再開すべきであるとの意見が大勢であった旨の報告書を参議院議長に提出し,同年6月1日,各会派代表者懇談会において,本件選挙後,次回選挙に向けて,定数較差問題について結論を得るように協議を再開する旨の申合せがされ,結局,本件定数配分規定は改正されないまま本件選挙が施行された。
(2) 投票価値の平等の重要性を考慮すると,選挙区間における選挙人の投票価値の不平等の是正については,国会において不断の努力をすることが望まれる。
もっとも,これをどのような形で実現するかについては,種々の政策的又は技術的な考慮要素が存在する。
参議院議員選挙法制定当時,既に選挙区間における議員1人当たりの人口には最大1対2.62の較差が生じていた上,上告人ら自身の試案によっても,参議院(選挙区選出)議員の選挙について公職選挙法が採用した2人を最小限として偶数の定数配分を基本とする前記のような選挙制度の仕組みに従い,平成12年10月実施の国勢調査結果による人口に基づいていわゆる最大剰余方式により各選挙区の人口に比例した議員定数の再配分を試みた場合には,選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は1対4.87となるというのであるから,前記のような選挙制度の仕組みの下では,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の較差の是正を図ることが容易でないことは明らかである。
ところで,平成16年大法廷判決は,本件改正によっても前記のような較差が残り,また,前回選挙当時において選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差が1対5.06となっていたという状況の下で,結論として本件定数配分規定は違憲とはいえない旨の判断をしたところ,本件選挙当時において生じていた上記の最大較差は1対5.13であって,前回選挙当時のそれと大きく異なるものではなかった。
そして,前記のとおり,平成16年大法廷判決の言渡しから本件選挙までの期間は約6か月にすぎず,選挙区間の選挙人の投票価値の不平等を是正する措置を講ずるための期間として必ずしも十分なものではなかったところ,その間,参議院では,平成16年大法廷判決の言渡しの直後である平成16年2月6日に各会派代表者懇談会の下に協議会を設けて定数較差の是正についての議論を行い,同懇談会において,同年6月1日,同年7月に施行される本件選挙までの間に是正を行うことは困難であることなどから,本件選挙後,次回選挙に向けて,定数較差問題について結論を得るように協議を再開する旨を申し合わせたというのである。
さらに,これを受けて,本件選挙後,参議院議長は同年12月1日に参議院改革協議会の下に選挙制度に係る専門委員会を設け,同委員会において,平成17年2月から同年10月まで9回の会合が開かれ,各種の是正案が具体的に検討され,その中で有力な意見であったとされるいわゆる4増4減案に基づく公職選挙法の一部を改正する法律案が国会に提出され,平成18年6月1日に成立した(同月7日公布。
平成18年法律第52号)。
同改正の結果,平成17年10月実施の国勢調査結果の速報値による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差が1対4.84に縮小することは当裁判所に顕著である。
これらの事情を考慮すると,本件選挙までの間に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものと断ずることはできず,したがって,本件選挙当時において,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない。
6 なお,上記の公職選挙法改正は,上記の専門委員会において,平成16年大法廷判決の多数意見の中に従来とは異なる厳しい姿勢が示されているという認識の下に,これを重く受け止めて検討された案に基づくものであることがうかがわれるところ,そのような経緯で行われた上記の改正は評価すべきものであるが,投票価値の平等の重要性を考慮すると,今後も,国会においては,人口の偏在傾向が続く中で,これまでの制度の枠組みの見直しをも含め,選挙区間における選挙人の投票価値の較差をより縮小するための検討を継続することが,憲法の趣旨にそうものというべきである。
7 以上のとおりであるから,本件定数配分規定が本件選挙当時憲法に違反するに至っていたということはできないとした原審の判断は,是認することができる。
論旨は採用することができない。
よって,裁判官横尾和子,同滝井繁男,同泉徳治,同才口千晴,同中川了滋の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

なお,裁判官藤田宙靖,同甲斐中辰夫,同津野修,同今井功,同那須弘平の補足意見がある。

裁判官藤田宙靖の補足意見は,次のとおりである。
私は,多数意見に賛成するものであるが,先に平成16年大法廷判決の補足意見2において述べたところを踏まえ,以下,若干の補足をしておくこととしたい。
1 立法府は,両院の定数配分を含む選挙制度の在り方について法律によって定めるに当たり,多くの考慮要素(政策的要請)を踏まえ,適正な裁量を行う義務を負っており,この義務に反して,例えば,様々の要素を考慮に入れ時宜に適した判断をしなければならないのに,慢性的に旧弊に従った判断を維持し続けるとか,当然考慮に入れるべき事項を考慮に入れず,又は考慮すべきでない事項を考慮し,あるいはさほど重要視すべきではない事項に過大の比重を置いた判断をしているような場合には,憲法によって課せられた裁量権の行使義務を適切に果たさないものとして,憲法違反の司法判断を受けてもやむを得ないものというべきである。
参議院選挙区選出議員の選挙における定数配分の在り方に関していうならば,従来の我が国の立法においては,憲法により保障された基本的人権の一つである投票価値の平等についての配慮が必ずしも充分であったとはいえず,また,これを是正するためにその間行われた諸改正においても,この問題につき立法府自らが基本的にどう考え,将来に向けてどのような構想を抱くのかについて,明確にされることのないままに,単に目先の必要に応じた小幅な修正が施されて来たにとどまるという憾みを否定することができないのであって,このような状態が漫然と維持されるならば,そのような状況下で行われた選挙については,議員定数配分規定が違憲であるとの判断がされる可能性は充分にある。
以上は,平成16年大法廷判決における補足意見2において述べたとおりである。
2 このような見地に立って,本件で問題とされている議員定数配分規定の合憲性についてみるならば,問われるべきは,平成16年大法廷判決以後本件選挙までの間に,立法府が,定数配分をめぐる立法裁量に際し,諸考慮要素の中でも重きを与えられるべき投票価値の平等を十分に尊重した上で,それが損なわれる程度を可能な限り小さくするよう,問題の根本的解決を目指した作業の中でのぎりぎりの判断をすべく,真摯な努力をしたものと認められるか否かであるといわなければならない。
3 ところで,上記の意味で真摯な努力がなされたといえるのかどうか,換言すれば,立法府の決意がどのようなものであったのかについては,これを判断するための資料が必ずしも十分に存在するとはいい難い。
平成16年大法廷判決を受けて本件選挙までの間に参議院において行われた改革に向けての動きとして,公にされているのは,「参議院議員選挙の定数較差問題に関する協議会」の設置と同協議会における5回にわたる協議である。
この協議においては,本件選挙までの間に,具体的な改革案を示すことはできなかったものの,選挙後の新たな構成の下で,制度の根本的な改革の可能性をも含めて改めて検討する方針を明らかにしているところ,この協議会が参議院としての意思形成の上でどのような意義付け・重みを持つものなのかということについては必ずしも明らかではないことに加え,このように重要な問題につき全部で5回の会議しか開かれていないことについては委員の中でも批判があることがうかがえること等々に照らして見るならば,これをもって直ちに,国会が当時,問題についての上記2に見たような真摯な取り組みをしていたものと評価できるか否かについては,なお分明でないところがある。
そうすると,当時の国会の思惑が実のところどこにあったのかということは,その後の経緯等をも含めて,事態を総合的に把握するところから推し量ることしかできないものといわざるを得ない。
その後の経緯として,公にされている情報は,@平成16年12月1日の第1回参議院改革協議会における専門委員会の設置,そして,その9回にわたる協議の末に出された平成17年10月21日の「参議院改革協議会専門委員会(選挙制度)報告書」,並びにA自民・公明両党による「4増4減」案の第164回国会への提出及び両院におけるその可決である。
@によれば,参議院において,合区案等をも含め,広範な見地からの検討が正面から行われていることがうかがわれ,これは,先の協議会のいう検討先送り措置が必ずしも口先だけのものではなかったことを推認させるものであるということができよう。
また,平成19年選挙に向けての当面の是正策として4増4減案が提出され可決されたというAの事実も,あくまでもそれが「当面の」是正策として位置付けられている限りにおいては(つまり,今後の更なる改善の余地が意識的に留保されており,また改善への意欲が充分に認められる限りにおいては),現段階において許される一つの立法的選択であると評価することもできないではなく,問題の根本的解決に向けて,立法府が真摯な努力を続けつつあることの,一つの証であると見ることも,あるいは不可能ではないであろう。
しかし,いうまでもなく,今回のいわゆる「4増4減」の提案及び同案の可決をもって改革に向けてのすべての作業は終わり,ということになり,しかもそれが,最大較差5倍を超えないための最小限の改革にとどめる,という意図によるものであるとするならば,問題の重要性,そしてその解決に向けての国民に対する責任につき,参議院ないし国会がどの程度真摯に考えているのかについては,改めて重大な疑いが抱かれることになろう。
多数意見がその末尾に述べていることも,このような文脈において理解されるべきものと考える。
裁判官甲斐中辰夫の補足意見は,次のとおりである。
私の考えは,基本的に平成16年大法廷判決の補足意見2において述べたとおりであるが,本件選挙当時に本件定数配分規定が違憲と判断することになお消極的な立場に立ち,多数意見に賛成する理由を述べることとしたい。
国会が,法律によって両議院の選挙に関する事項を定めるについて裁量権を有するものであり,とりわけ参議院議員の選挙制度の仕組みについては,憲法が定める半数改選及び二院制から来る当然の制約として,選挙人の投票価値の平等を厳格に貫くことが困難であることは認めざるを得ないものと考える。
しかしながら,投票価値の平等は憲法上直接に保障されているものであるから,国会の裁量権の適正な行使がされたか否かを判断するに当たり,例えば,地域代表的要素として都道府県を唯一の単位として選挙区を定めることがより重要な要素であるとして,これを維持するため投票価値の平等を無原則に後退させることを看過することはできない。
昭和22年に制定された参議院議員選挙法は,全体を投票価値が平等である全国選出議員と都道府県を単位とし地域代表的性格を有する地方選出議員とに分け,その地方選出議員の定数配分は,各選挙区ごとに半数改選をするために偶数配分とした上で,いわゆる最大剰余方式により人口基準による最大較差は1対2.62にとどめ,投票価値の平等についても尊重しようとしていたものであり,立法府による合理的な裁量権の行使がされたものと評価することができる。
しかしながら,その後人口の都市集中傾向は一貫して継続し,その結果投票価値の不平等は拡大し,制度当初はそれなりにバランスがとれていた都道府県単位の選挙区の議員1人当たりの人口は,二極分化して大きくバランスを失なうに至っている。
昭和22年に定められた参議院議員選挙制度の仕組みは,抜本的な見直しをすべき時期に来ているといわざるを得ない。
したがって,私は,本件選挙当時はもとよりその以前から,立法当初の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の較差から余りにもかけ離れた較差を生じている現行の定数配分規定は,到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせているものと考える。
しかしながら,定数配分規定が上記のような著しい不平等状態を生じさせているとしても,その判断と是正には困難を伴うものであるから,それが憲法に違反するというには,そのような状態が相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する何らの措置も講じないことが,国会の裁量の限界を超えると判断される必要がある。
その際,これまで平成12年9月6日大法廷判決を始めとする最高裁判決が,一貫して,本件選挙当時と同程度の議員1人当たりの選挙人数の最大較差につき,いずれも違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするに足りない旨判示してきたところ,平成16年大法廷判決において初めて現行の定数配分規定について違憲とする考え方又は合憲とすることに疑問を提起する考え方が多数を占めるに至ったことを軽視することはできない。
国会としては,憲法判断については,最高裁の判断を尊重してきたものであるところ,国会が平成16年大法廷判決の内容を知り,定数配分規定の改正をするとしても,本件選挙までに約6か月の期間しかなく,是正措置を講ずるには十分ではなく,これに国民に対する相当な周知期間を要することなどを併せ考慮すると,国会が,本件選挙までに定数配分規定の改正は困難であるとして行わず,本件選挙後に次回選挙に向けてこれを行うとしたことが,国会の裁量権の限界を超えたものと断ずることはできない。
したがって,私は,本件選挙当時において,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできないと考える。

裁判官津野修の補足意見は,次のとおりである。
私は,多数意見に賛成するものであるが,若干の補足をしておきたい。
1 参議院議員選挙は,議員定数の6割を占める選挙区選出議員の選挙(以下「選挙区選挙」という。)とその4割を占める比例代表選出議員の選挙(以下「比例代表選挙」という。)の2つの選挙を組み合わせた選挙制度として構成されている。
選挙人は,選挙区選挙のみならず,比例代表選挙においても投票権を行使することができる。
そして,全都道府県の区域を通じて行われる比例代表選挙においては,各選挙人の投票価値に差異がない。
そうすると,選挙区選挙において生じている選挙区間における選挙人の投票価値の不平等の問題を考えるに際しては,比例代表選挙における投票の存在も合わせて考慮して,選挙を全体として把握した上で各選挙人の有する投票の議員選出に対する影響力について判断することが必要であると考えられる。
2 多数意見は,参議院議員選挙において比例代表選挙が併存していること,比例代表選挙において各選挙人の投票価値に差異がないことを指摘しているが,更に進んで,比例代表選挙の存在が選挙区選挙において生じている選挙区間における選挙人の投票価値の不平等を緩和しているという側面のあることにつき明示的には触れていない。
しかし,多数意見がこのことを自明の前提としているものと解されることは,参議院選挙区選出議員の選挙無効が争われた当審の先例(平成8年9月11日大法廷判決)の多数意見において,選挙区間における投票価値の不平等の程度を吟味するに際し「参議院議員のうち比例代表選出議員の選挙については各選挙人の投票価値に何らの差異もないこと」が考慮要素とされていることからも,うかがうことができる。
3 参議院議員選挙の1票の投票価値を論じるときは,選挙区選挙だけではなく比例代表選挙の部分をも取り込んで一体として検討する必要があるとする那須裁判官の補足意見は,以上の点を明確にした上で,較差を論じる場合の基本となる数値について,このことを織り込んで具体的に算出し,比較したものであり,この問題を考えるに際し,貴重な示唆を与えるものとして評価することができる。
4 ところで,選挙区選挙と比例代表選挙とを合わせて検討した場合における本件選挙当時の選挙区間の投票価値の較差については,同裁判官の意見中において最大2.89倍とされている。
1票の実質的価値の平等という憲法の要請との関係では,このようにして算出された較差が,なお2倍を超える状態となっている場合に,本件議員定数配分規定が憲法に違反することになるのではないかが問題となり得よう。
しかしながら,選挙区選挙の制度については,参議院議員定数を衆議院のそれのほぼ半数にするという従来からの考え方を維持しつつ,都道府県を単位としてその住民の意思を集約的に反映させるという意義を認めて都道府県単位の選挙区を設けた上,憲法が定めている半数改選制を実現するため各選挙区に偶数により定数配分を行うという前提の下で構築されたものであるところ,選出議員が議員定数の6割を占める選挙区選挙と残余の選出議員について投票者の意思がほぼそれに比例して反映される比例代表選挙とで構成される現行の参議院議員の選挙制度は,二院制における参議院の独自性をもたらすものとして合理性を有するものというべきであって,このような選挙制度の下においては,定数配分について人口比例の配分の原則に厳密に従うことは実際上困難であるといわざるを得ない。
これら多数意見で述べた諸事情を考慮すると,上記の投票価値の最大較差が2.89倍となっている点については,直ちに憲法14条1項等に違反するとまではいえない範囲内にとどまっており,いまだ国会の裁量権の限界を超えているものとは考えられない。
5 以上のとおりであるから,私としても,那須裁判官の補足意見に基本的な点において賛成であることを表明する。

裁判官今井功の補足意見は,次のとおりである。
私は,本件定数配分規定が違憲とはいえないとする多数意見に同調するものであるが,この際,私の意見を補足して述べておきたい。
1 参議院議員のいわゆる定数訴訟に関する従来の最高裁判例の法理は,投票価値の平等は憲法14条に基づく憲法上の要請であることを認めると同時に,選挙制度の仕組みについては,憲法43条,47条に基づき国会の定めるところによるとして,国会の裁量を認めている。
そして,投票価値の平等と選挙制度の仕組みについての国会の裁量との関係については,双方の調和的実現という表現を用いて,双方の関係に優劣がない,あるいは国会の裁量により優位が認められるかのように理解されている向きがないではない。
しかし,国会の裁量は,投票価値の平等を実現するという枠内で行使されるべきものであって,国会の裁量といっても,投票価値の平等という憲法の要請を無視することは許されないと解すべきである。
このことは,当然のことではあるが,改めて強調しておきたい。
2 現行の参議院選挙区選出議員選挙の選挙制度は,選挙区を都道府県単位とし,かつ,1選挙区の定数を偶数配分するという制度を採用している。
定数の偶数配分制は,憲法の定めである半数改選(憲法46条)の趣旨から,各選挙区の選挙民が毎回の選挙ごとに代表者である議員を選出することを保障したものであって,憲法の定めに由来するものということができるが,憲法の直接の要請ではない。
また,都道府県単位の選挙区という仕組みは,都道府県の果たしてきた,歴史的,経済的,政治的,社会的な一つのまとまりという点から見てそれなりの合理性があることを肯定することができるが,これもまた,憲法上の要請ではない。
このように,偶数配分制,都道府県単位の選挙区という選挙制度の仕組みは,それ自体としては,国会の裁量として許容されるものということができる。
しかし,偶数配分制,都道府県単位の選挙区という仕組みは,いずれも憲法の直接の要請ではないから,憲法の直接の要請である投票価値の平等には,一歩道を譲らざるを得ず,この仕組みに従った定数配分が投票価値の平等を著しく損なうことになる場合には,違憲となることがあり得るといわなければならない。
したがって,偶数配分制,都道府県単位の選挙区という前提に立った場合には,その前提の下で,投票価値の平等にできる限り配慮しなければならないのは当然のことである。
また,これを維持することによって必然的に投票価値の平等が大きく損なわれることになれば,違憲ということにならざるを得ず,抜本的な改正が要請されることになると考える。
3 参議院発足以来の選挙区(以前は地方区)の定数配分を見ると,昭和22年の発足当初は,150人の定数を各選挙区に最低2人配分し,残余の定数は人口に比例して配分したものであるが,選挙区間の較差はそれほど大きいものではなく,較差2を超える選挙区が12あったものの,最大較差は1対2.62であった。
このような状況の下においては,都道府県単位の選挙区及び偶数配分制は,それなりに合理性があり,投票価値の平等の面から問題とされることはなかった。
また,参議院は,第二院であり,議員定数は第一院である衆議院より少ないものとならざるを得ず,また半数改選であるため,1回の選挙で選出される議員の数も少なくなる関係上,衆議院とは異なり,選挙区ごとの議員1人当たりの人口ないし選挙人数の較差がある程度生ずることもやむを得ないものとして是認された。
その後,人口の都市集中が進み,これに伴って選挙区間の較差は増大し,平成4年7月の選挙においては,選挙人数の最大較差は1対6.59にまで拡大し,これについて平成8年9月11日の大法廷判決は違憲状態にあるとした。
平成6年には,いわゆる8増8減の改正が行われて較差は減少し,さらに,平成12年の改正では,選挙区定数6の減員に伴い3選挙区の定数が2ずつ減員され,較差はわずかながら減少したが,最大較差は5倍に近く,本件選挙当時の選挙人数の最大較差は1対5.13にまで拡大した。
4 偶数配分制,都道府県単位の選挙区という前提を採ったとしても,その枠内で投票価値の平等を徹底するための方策が採られなければならない。
上告人らが主張し,参議院議員選挙法で採用された最大剰余法は,機械的な処理ができ,政治的な思惑が介入する余地がないという点で,その一つの解決策である。
この方法を採れば,較差は全体としては若干縮まるが,しかし,この方法を採っても最大較差はほとんど縮まらないし,かえって較差が拡大する選挙区もある。
また,偶数配分制,都道府県単位の選挙区という仕組みを採用する限り,いかに工夫しても較差の是正には限界のあることは明らかである。
昭和22年の参議院議員選挙法施行当時においては,総人口を議員定数で割った人数である基準人数は,48万7427人であるところ,当時の人口最小県である鳥取県の人口は,55万7429人で,基準人数の1.14倍にすぎないのに2人の定数が配分された。
それでも,この時点では,鳥取県は辛うじて基準人数を超える人口を維持していた。
その後の人口の変動に伴い,総じて,人口の多い大都会又はその周辺地を含む都道府県の人口が増大するのに比して,人口の少ない県の人口は停滞した。
本件選挙当時においてこれを見ると,総選挙人数を議員定数で割った基準人数は70万2106人であったところ,選挙人数が最も少ない鳥取県は,選挙人数が49万2436人で基準人数の0.70倍にすぎないのに,2人の定数を配分されており,基準人数に応じた定数が配分された都道府県に比較して2.86倍の定数を配分されていることになる(計算式は,1÷0.70×2=2.86)。
このように選挙人数が基準人数に満たない県は,本件選挙当時,鳥取県のほか,島根,福井,高知,徳島,佐賀と5県ある。
これらの県においては,基準人数に応じた定数が配分された都道府県に比較しても,2倍以上の定数が配分されていたことになる。
この数字を見るだけでも,これらの人口ないし選挙人数の少ない県の選挙区に2人の定数を配分する限り,いかに努力してもかなりの程度の較差が生ずることは避けられないことは明らかである。
そして,人口の大都市集中の傾向はとどまることなく,1対5.13という現在の較差は,投票価値の平等という見地から,国会の裁量として許容される限界に至っているといわざるを得ない。
そうすると,偶数配分制,都道府県単位の選挙区という現行制度の仕組みは,早晩見直しが求められていると考えるものである。
5 ところで,平成16年大法廷判決は,平成13年7月施行の選挙当時1対5.06の最大較差につき合憲との判断を示したが,この判決には,違憲とする6人の裁判官の反対意見があり,合憲とする裁判官の中でも,このまま放置すれば違憲となることがあり得るとの補足意見を付した裁判官があるように,本件定数配分規定には投票価値の平等の見地から問題があり得るとの趣旨が含意されていたということができる。
本件選挙においては,本件定数配分規定は改正されることなく実施され,最大較差は前回選挙当時よりも若干ではあるが拡大しており,投票価値の平等という観点から許容される限界に至っているといわざるを得ず,違憲との判断をする余地も十分あると考える。
しかし,多数意見の判示するように,前回の大法廷判決を受けて,国会において,較差是正のための検討が進められ,時間的な制約もあって,本件選挙は従前の定数配分規定のまま実施されたが,その後引き続いて行われた検討の結果,現行制度の仕組みを維持するとの前提の下ではあるが,改正が行われ,わずかではあるが較差の是正が実現し,今後更に抜本的な検討が進められることとされたというのである。
私は,このような前回の平成16年大法廷判決以降における較差是正のための国会の取組みの状況を考慮すると,現時点において,直ちに,違憲との判断をすることには躊躇を覚えざるを得ないのであって,国会の較差是正のための更なる努力に期待することとして,多数意見に同調するものである。
裁判官那須弘平の補足意見は,次のとおりである。
私は,「本件選挙までの間に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものと断ずることはできず,したがって,本件選挙当時において,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない」とする多数意見に賛成するものである。
しかし,若干異なる視点からの検討が可能でかつ必要であると考えるので,以下のとおり補足して意見を述べる。
(多数意見の判断の枠組み)1 多数意見は「国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り,それによって投票価値の平等が損なわれることになっても,憲法に違反するとはいえない」,「公職選挙法が採用した参議院議員についての選挙制度の仕組みが国会にゆだねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものである以上,その結果として各選挙区に配分された議員定数とそれぞれの選挙区の選挙人数又は人口との比率に較差が生じ,そのために選挙区間における選挙人の投票価値の平等がそれだけ損なわれることとなったとしても,これをもって直ちに上記の議員定数の定めが憲法の定めに違反して選挙権の平等を侵害したものとすることはできない」との一般論を前提として,「議員定数配分規定の制定又は改正の結果,上記のような選挙制度の仕組みの下において投票価値の著しい不平等状態を生じさせたこと,あるいは,その後の人口の変動が上記のような不平等状態を生じさせ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮しても,その許される限界を超えると判断される場合に,初めて議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解する」との判断枠組みを示しているが,この判断の枠組みについても賛同する。
(投票価値に関する選挙区と比例代表との一体的評価)2 問題は,裁量権の範囲を超えていないとすることの理由付けにある。
本件においては,基本的に選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差が本件選挙当時1対5.13であったことに着目し,これを前提とした議論が展開されている。
しかし,本件選挙における1票の投票価値に1対5.13の較差があったことを前提とする場合,なお「立法の裁量の範囲を超えるものではない」と言い切ってよいものかどうか,素朴な疑問を感じる。
率直に言って,この数字を動かし難い事実として認める限り,本件選挙が平等原則に違反する違法なものであったという結論に傾くのはごく自然なことだと考える。
多数意見に対し5名の反対意見が出されているのも,この数字を無視し得ないとの判断が根底にあるからではないか。
他方で,しかし,ここで問題とされているのは,本件選挙において各選挙人が投じた票の価値に軽重があって,その較差が憲法上許される範囲を超えているのではないかという点であることを考えると,果たして選挙区間における投票価値の最大較差1対5.13という数字を見るだけで足りるのかという疑問が生じる。
参議院議員選挙において,それぞれの選挙人は,選挙区の候補者に1票を投じた同じ機会に比例代表の候補者又はその所属する政党にも1票を投じている。
そのいずれも参議院を構成する議員を選ぶ投票であることには相違がない。
換言すれば,選挙人は,選挙区選出議員を選ぶのに1票,比例代表選出議員を選ぶのに1票を投じ,この2つの投票行動が相まって各選挙人の政治的意思を表明するものとなっている。
制度的にみても,選挙区選挙と比例代表選挙は,決して無関係な2個の選挙がたまたま同時に行われたということではなく,被選挙人の定数,選出母体となる区域等についてそれなりの関係付けをし,一体のものとして設計され運用されているものである。
当選した候補者は,選挙区から選出された者も,比例代表として選出された者も,参議院議員の構成員として何らの区別なく立法活動に携わる制度となっている。
したがって,私は,参議院議員選挙の1票の投票価値を論じるときは,選挙区だけではなく比例代表の部分をも取り込んで一体として検討する必要があると考える。
(投票価値の算定)3 上記の視点から本件選挙における選挙区と比例代表の双方を一体のものとして投票価値を算定する場合,比例代表の部分は全国を一つの単位として候補者の中から一定数を選ぶ制度であるから,選挙人がどこに居住するかで差がないことが明らかである。
したがって,全体としての投票価値の較差は,投票価値が均一な比例代表を合わせて一体のものとして計算することにより,選挙区だけの較差に比べ,相当程度緩和されることになる。
これを具体的な数値として表現するため,次のような考え方に立って計算すると,最も投票価値の低い東京都を1とした場合,最大較差は鳥取県の2.89という数値(概数)が導かれる。
(計算方法)@ 鳥取県選挙区では,選挙区選出議員の選挙に関して,定数2人を選挙人数49万2436人(本件選挙当時のもの)が選出するから,同選挙区の選挙人1人が行使する1票の価値(結果に対する影響力)は,前者を後者で割ったものとして把握できる。
A 比例代表選出議員の選挙については,全国の定数96人を,全国の全選挙人1億0258万8411人(在外投票を含む。)が選出するから,1票の価値は,全国いずれの選挙人についても,前者を後者で割ったものとして把握できる。
B 鳥取県選挙区の選挙人が本件選挙当時に行使した合計2票の価値は,上記@及びAの合計として算出できる。
C 同様に,東京都選挙区の選挙人が行使した合計2票の価値を算出し,これを鳥取県選挙区のそれと比較すると,鳥取県選挙区の選挙人1人が持つ投票価値は,東京都選挙区の2.89倍となる。
(較差1対2.89の評価)4 この1対2.89という較差をどう評価するかについては両様の考え方があり得よう。
「このような視点から計算してもなお1対2.89の較差があるのであるから,やはり憲法の下での平等原則に反する」と見るか,それとも「1対2.89ならその較差は憲法上許容される範囲内に収まっている」と見るかの問題である。
私は,以下の理由で,本件定数配分については,違憲性の問題を完全に払拭できる状態とまではいえず,違憲性が問題となる領域に近接するが,なお憲法の許容する範囲内に踏みとどまっていると評価してよいと考える。
(1) 同じ国民1人当たりの投票価値が,選挙区ないし居住する場所を異にすることで不平等となることは極力回避することが望ましいが,選挙区選挙に関する限り各選挙区の地理的・歴史的状況,人口変化の動向等により完全に平等ということは実現困難であり,また,人口の変化が立法当局に把握された後も,これを踏まえた定数の是正措置を実行に移すまでには,国会における審議期間を含め相当程度の時間を必要とすること,選挙区の投票価値の不均衡が比例代表を含めた全体としての選挙における投票価値に影響する結果として,全体の投票価値の較差の存在もある程度は容認せざるを得ないことから,較差が1対2に至らない場合には,「1人が2票以上の投票権を有する」という事態に当たらないこともあり,原則として憲法の許容する裁量権の範囲内の問題であると解する。
これに対し,投票価値の較差が1対2を超える場合には,上記「1人2票」の問題が生じ,憲法上の平等原則との関係をどう説明するか,慎重な検討が必要となる。
(2) 参議院選挙区選出議員の選挙における投票価値の較差が,基本的に都道府県を単位とし,かつ憲法の定める半数改選制と密接な関係を持つ偶数配分制に由来することは明らかであるところ,都道府県を単位とする点については,地方の住民を代表する議員を中央に送り,その声を政治に反映させたいという住民の気持ちは自然の欲求であって,これを考慮した制度とすることに合理性を認めることができ,偶数配分制についても,奇数配分制を一部採用した場合の半数改選という憲法上の要請との折り合いをどうつけるかについて,制度設計上技術的な難しさが予想される状況の下では,一定の合理性があると認めるべきである。
都道府県を選挙区の単位とし,かつ偶数配分制によって選挙区の定数を定める場合には,1対2未満の場合は原則として憲法の容認する裁量権の範囲内にあると解すべきことは前述のとおりであるが,これを超えた場合にどこまでなら許され,どこからは違憲となるかは,問題となる選挙の置かれた具体的な状況によって異なり,一義的に明確な数字をもって決めかねる問題である。
一般的には,是正措置を執るための時間との相関関係で,短期間に是正措置を講じた場合には「当面の応急措置」でも足りるが,時間が長く掛かればそれだけ較差を縮小させるための抜本的な対応が要請されると考えるべきであろう。
いずれにしても,比例代表を含めた全体の投票価値の較差が1対2を大きく超えて拡大すれば,違憲状態と判断される可能性も格段に高くなると考える。
(3) 本件参議院選挙については,平成16年大法廷判決から6か月しか経たない時期の問題であったこと,その間に参議院は,必ずしも十分とは言いかねるが,しかし「参議院議員選挙の定数較差問題に関する協議会」を発足させる等,較差の是正に向けて具体的で真摯な対応を執ったことがうかがわれ,これが平成18年6月の4増4減の実現につながったものであること,そして,なおこの是正措置は「当面」のものとされ,更に道州制の採用とこれに基づく選挙区の見直し等,抜本的な制度改革も視野に入れた動きが見られないではないこと等を考慮すれば,本件選挙については,これを憲法の許容する立法の裁量権の範囲内に辛うじて踏みとどまったものと評価することができる。
私は,以上のような観点から,選挙区のみに着目した場合に前記のような最大較差が生じていたとしても,本件定数配分規定が本件選挙当時に憲法に違反するに至っていたということはできないとする多数意見を採ることが妥当であると考える。
裁判官横尾和子の反対意見は,次のとおりである。
私は,参議院選挙区選出議員の各選挙区の議員定数は,配当基数(総人口を選挙区選出議員の総定数で除して計算される基準人数をもって,各選挙区の人口を除したもの)が2以上の選挙区相互間の議員1人当たりの人口較差が最大1対3以上であるときは,憲法14条の規定に反するとするのが相当と考えるものであって,その理由は,平成16年大法廷判決の中の補足意見2の追加補足意見に述べたとおりであるから,これを引用する。
これを本件についてみると,本件選挙の直近の国勢調査である平成12年10月実施の国勢調査結果に基づく人口によれば,配当基数2以上の選挙区間の上記最大較差は,栃木県選挙区(議員1人当たり人口が50万1204人)と東京都選挙区(議員1人当たり人口が150万8013人)との間の1対3.01であることが計算上明らかであるから,本件定数配分規定は,憲法14条の規定に違反するものである。
よって,本件においては,原判決を変更し,事情判決の法理により上告人らの請求を棄却するとともに,主文において本件選挙が違法である旨の宣言をするのが相当であると考える。

裁判官滝井繁男の反対意見は,次のとおりである。
1 憲法47条は,「選挙区,投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は,法律でこれを定める。
」と規定しており,国会はどのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるかを決定する上で一定の裁量を持っている。
私は,選挙制度を定める上で国民の利害や意見を効果的に国政に反映させるためには,議員の数が選挙人の数に比例するという人口比例の原則がその基本になるべきであると考えるが,他方,憲法が国会を衆議院と参議院の両院で構成すべきものとしているのは,それぞれ特色ある機能を発揮することを期待していること,そのため,参議院は衆議院と異なる独自の立場と観点から国政の審議に当たるべきであるとの考えに立ってその構成を定め得ることから,参議院においては,定数を決めるに際して非人口的要素をより柔軟に考慮し得ること,その結果,半数改選制という憲法上の要請もあって,人口比例の原則の持つ意味が衆議院の場合より後退することは許容されると考えるものである。
しかしながら,選挙権は国民主権に直結する極めて重要な権利であって,その内容,すなわち各選挙人の投票価値の平等もまた憲法の要求する原則であると解する以上,参議院の特殊性もその中で考えるべきものであって,その裁量の範囲にはおのずから限度があるといわなければならないのである。
そして,この権利の性質に照らし,その裁量権の行使に合理性があるのかは厳密に検討されるべきであって,立法機関が現状をそのまま放置しておくことが裁量の名において是認されるようなことがあってはならないのである。
2 昭和22年参議院議員選挙法は,都道府県を単位とする地方選出議員と全国を通して選出される全国選出議員とに分け,前者については歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有している区域を構成する住民の意見を集約的に反映させる機能を持たせ,全国的視野で選出される後者と併立させることによって参議院が衆議院とは異なる特色を発揮し得るものとした。
全国選出議員については,衆議院の構成とはできる限り異質なものとするため,学識経験ともに優れた全国的な有為の人材を簡抜することを主眼とし,職能的知識経験を有する者が選出される可能性を生じるようにすることによって職能代表制の持つ長所を採り入れようとするものであったことを,その提案理由によって知ることができる。
これは,全国的視野で非党派的な高い見識を持つ人士を糾合することによって衆議院に対する抑制と補完の機能を果たすという目的の下に,衆議院とは異なる民意の反映方法を選択したものである。
そして,地方選出議員については,定数を偶数として最小限を2人とする方針の下に各選挙区の人口に比例する形で偶数の議員数を配分した。
この仕組みの下で生じる投票価値の不平等は,参議院に衆議院とは異なる民意を反映させるため,全国選出議員と地方選出議員とを並立させた結果であり,上記の仕組みは公正かつ効果的な代表を選ぶための方法として一定の合理性があったと評価することができる。
しかしながら,私は,上記の仕組みが合理性を持つとされていた理由の相当部分が,今日において失われていると考える。
第1に,前記のような意図の下に採用された全国選出議員の選出方法の合理性の相当部分が,その後比例代表制を採用したことにより失われたことである。
比例代表制の採用によって議員の政党化が促進されることは否定し得ないところ,政党化は民主政治の観点から必ずしも排斥すべきものではないにしろ,参議院の全国選出議員は,衆議院において予想される政党間の対立抗争とは距離を置き,二院制の機能を発揮しようとして採用したものであるから,比例代表制の採用によって政党化が進み,それが当初の理念としたものとは異なる色彩を濃くするものとなったといわざるを得ないのである。
そして,非党派的見識を持った全国的に有為な人材を糾合するという意図の下に,そのような議員の選出を可能とする全国選出という仕組みを採用した結果,地方選出議員の定数を配分する上で人口比例の原則がある程度後退することを正当化していたのであるが,全国選出制が党派性を持つこととなる比例代表制に変容したため,当初持っていた正当性の根拠はその相当部分を失ったといわざるを得ないのである。
次に,二院制の下で,参議院議員の選出方法を衆議院議員のそれと異なることにその価値を求める以上,その合理性はその時の衆議院議員の選挙方法との比較において検討されなければならないことである。
ところが,衆議院議員の選出については,その後,小選挙区比例代表並立制が導入され,小選挙区選出議員選挙において各都道府県に1選挙区を配分した上で残余を人口比例原則に従って配分することとしたのである。
これは衆議院議員に都道府県代表的性格を加味したものともいい得るのである。
また,衆議院議員選挙にブロック比例代表制を導入したことによって参議院において比例代表選出議員の選挙の持つ独自性が希釈されることとなったことも否定し得ないのである。
このように参議院選挙の仕組みは,制定当初衆議院議員選出方法との対比において独自性を持たせるものとして合理性を持つとされた前提の幾つかが失われ,選出方法における独自性が希薄になって,衆議院と異なる民意を反映させるという実体を失いつつあるものといわざるを得ないのである。
さらに,参議院議員選挙法制定時には地方選出議員を地域代表的な性格を持つものとして構築されたものと考えられるが,その後の交通通信事情の著しい変化や生活態様の変容をみるとき,都道府県の持つ人的,地理的,更には政治,経済,文化的なまとまりとしての意味やそれについての国民の意識も変化してきているのであって,そのことも当然考慮されるべきことである。
もちろん,そのことの持つ意味も小さいわけではないし,参議院議員の選挙方法も衆議院のそれとは異なる独自のものを残していることは否定できない。
しかしながら,問題は,そのことが選挙権の価値の平等という憲法上の要請を犠牲にする正当性を持ち得るかである。
前記のように,参議院比例代表選出議員が,当初全国選出議員として期待された独自性を薄め,かつ衆議院におけるブロック比例代表制の導入によりその独自性の希薄化が進み,他方都道府県という区域の持つ今日的意味が変容しつつある中で,昭和22年に制定した枠組みがなお合理性を維持しているといい得るのか,しかもその人口較差が5倍を超えるという異常な数値に達しているのに,なお合理的なものといい得るかである。
私は,このような状況の下で現状が選挙価値の平等という憲法上の要請と調和すると考えることは国民の常識と合致するとは到底思えず,この較差は国民の平均的意識や法感情からみて既に許容限度を大きく超えているものといわざるを得ないものと考えるのである。
3 多数意見は,参議院の独自性を例示し,そのほかにも,国会が正当に考慮することのできる政策目的ないし理由があって,投票価値の平等は,それらとの調和の中で損なわれているかどうかを考えるべきだとの考えに立つものである。
しかしながら,私は,代表民主制の下における投票価値の平等の重要性に照らせば,平等は形式的に理解されるべきであって,そこに政策目的ないし理由をその内実を明らかにしないまま国会が正当に考慮することができるものとすることは,その裁量の幅を際限なく広げることになりかねないと危惧するのである。
議員の選出方法の改正は,時には議員にとって死活にかかわる問題であり,その裁量権の適正な行使には期待し得ない側面があることは否定できないところであるから,投票価値の不平等の是正は,司法の適切な関与が求められるべき領域の問題であるといわなければならない。
それにもかかわらず,このように広い裁量にゆだねるならば,司法は投票価値の平等を憲法上の権利と宣言しながら,立法機関がそれを逸脱したものと判断する際に,その基準となる指標とその明確な根拠を失ってしまい,結局本来の使命を果たし得ないということになりかねないのである。
むしろ,私は,公正かつ効果的な国民意思を反映させるための代表選出の方法を選択する上で,国会に裁量権はあるにしろ,投票価値の平等が憲法上の要請である以上,平等という言葉の通常持っている意味に照らし参議院においても2倍を超える較差が生じるような方法を選ぶことは本来的に正当性を持ち得ないと考えるのである。
そして,もし,それを正当化する理由があるとすれば国会においてそれを国民に理解し得るように提示し,その司法審査が可能なようにすべきものであると考える。
このような考えに立って,私は,平成16年大法廷判決において,投票が国民が主権者として民主主義社会において最も重要な意思の表明であり,その価値の平等を憲法の要求するものであることを承認する以上,人口比例の原則を柔軟に解し得る参議院の独自性を考慮に入れても,どこに居住するかによって2倍を超える較差の生ずることが許されるような大きな価値はなく,国会がもしそれを許容する価値があるというのであれば,そのことを信託者である国民が理解し得る形で提示するべきであるとの意見を明らかにした。
4 参議院は,平成16年大法廷判決を受けて,参議院議長が主宰する各会派代表者懇談会の下に協議会を設け,本件選挙前に5回にわたって協議し,本件選挙後更に検討を重ね,選挙区選出議員のいわゆる4増4減に基づく公職選挙法の一部を改正する法律案を国会に提出した。
これによれば,改正前に比べ,選挙区間における議員1人当たりの人口較差は若干の減少をみるものの,それは微減にとどまっている。
何よりも,そこでは参議院議員選挙法制定時に衆議院議員の選出方法と異なる独自のものにするために構想された仕組みがなお現時点で合理性を持っているのかについて議論された形跡はない。
ただ,その後の前記のような状況の変化にもかかわらず,現在の枠組みを基本的に維持したまま選挙区間における議員1人当たりの人口較差を減少させるため最小限の作業が行われたというにとどまるのである。
そこでは,国会がどのような政策的目的ないし理由があって,その検討の結果として今日の異常ともいうべき投票価値の較差を正当化し得ると考えたのかについての議論の跡が,国民の前に提示されたとはいえないのである。
5 もっとも,本件選挙は平成16年大法廷判決の言渡しから約6か月後に行われたものであり,その期間は選挙区間に存在する選挙人の投票価値の不平等を是正する期間としては十分なものではないという指摘がある。
しかしながら,ある法規が合憲であるかどうかは,本来その内容によって決まるものであって,是正のために許される合理的期間の存否によって変わるものではないのである。
のみならず,当法廷は昭和51年4月1日大法廷判決以来,選挙人の投票価値の平等が憲法上の要求する原則であることを繰り返し強調してきたところであって,立法機関としては,選挙権を平等に行使し得る選挙制度が民主主義の根幹を成すものであることに思いを致せば,現行制度の下の選挙区間の議員1人当たりの人口較差が5倍にも及ぶという投票価値の異常ともいうべき較差を生じている状況が長期にわたって継続し,それが解消される可能性が全くうかがわれないのであるから,これを是認するだけの目的ないし理由があるかについて常に検討すべきであり,その機会は十分にあったはずである。
しかしながら,それがなされたという形跡はなく,今回の改正論議でもこの点についての検討がなされないまま,いわゆる較差の減少という弥縫策を講じたにとどまり,制度の枠組みの見直しを含めた選挙価値の平等を図るための検討が継続されるという状況もうかがえないのである。
投票価値の平等に向けての国会自身の自覚的政策が十分とはいえない状況の下で,非人口的要素の考慮に加えて是正のための期間の合理性をも判断の基準にすることは,立法府の裁量を一層大きくし,基準を益々曖昧なものとするものといわねばならず,この点は考慮の対象とはならないものといわねばならない。
6 以上のとおり,公職選挙法が定めた参議院議員選挙の仕組みに,選挙制度において国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることについての国会の裁量を是認しても,現在の制度の下での前記較差をもって,その正当な行使の結果とは到底いうことができず,本件定数配分規定は投票価値の平等という憲法上の価値を損なうものであって違憲といわなければならない。
したがって,原判決を変更し,事情判決の法理によって上告人らの請求を棄却するとともに,主文において本件選挙が違憲である旨の宣言をするのが相当である。

裁判官泉徳治の反対意見は,次のとおりである。
1 本件選挙当時における選挙区間の議員1人当たりの人口の較差は,最大1対4.92にまで達していたから,本件定数配分規定は,憲法上の選挙権平等の原則に大きく違背し,憲法に違反することが明らかである。
したがって,本件選挙は違法であり,これと異なる原審の判断は是認することができない。
原判決を変更し,事情判決の法理により請求を棄却するとともに,主文において本件選挙が違法である旨の宣言をするのが相当である。
2 1人1票の平等選挙の原則は,我が国憲法が採用する国民主権・議会制民主主義の根幹をなすものである。
議員1人当たりの人口の選挙区間における較差が1対2以上になると,投票価値の較差が2倍以上となり,一部の選挙区の住民に対し実質的に1人当たり2票以上の複数投票を認めることになって,民主主義体制の根幹を揺るがすことになるから,憲法に違反することが明らかというべきである(最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁における私の反対意見参照)。
本件選挙当時,東京都選挙区を基準にすると,投票価値が東京都選挙区の2倍以上の選挙区が31も存在し,その合計人口は約4714万人で総人口の約37%に当たり,議員1人当たりの人口の最大較差は1対4.92に及んでいる。
神奈川県選挙区を基準にすると,投票価値が神奈川県選挙区の2倍以上の選挙区が25も存在し,その合計人口は約3545万人で総人口の約28%に当たり,議員1人当たりの人口の最大較差は1対4.61に及んでいる。
千葉県選挙区を基準にすると,投票価値が千葉県選挙区の2倍以上の選挙区が29も存在し,その合計人口は約4267万人で総人口の約34%に当たり,議員1人当たりの人口の最大較差は1対4.83に及んでいる。
これだけの住民が,東京都選挙区,神奈川県選挙区又は千葉県選挙区との比較でいえば,実質的に1人で2票以上を与えられていることになるのである。
したがって,本件定数配分規定は,憲法の要求する平等選挙の原則に大きく違背し,憲法に違反するものといわざるを得ない。
3 平等な選挙権は,表現の自由等と並んで民主主義体制を支える基本的権利であるから,投票価値に較差を設けることが憲法に適合するか否かを審査する場合には,較差を設けた目的が国民の意見を公正かつ効果的に国会に反映させるため真にやむを得ない合理的なものであるかどうか,較差の態様が上記目的と実質的な関連性を有するものであるかどうかを厳格に問う必要がある。
投票価値に較差を設けたことに一応の合理性が認められれば足りるとして,国会に広範な裁量を認めるべきではない。
4 ところが,国会議員の定数配分規定に関する累次の最高裁判所判決は,「国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り,それによって投票価値の平等が損なわれることになっても,やむを得ないものと解すべきである。
」と判示してきた。
仮に,このような判例の見解に立つにしても,本件定数配分規定のうち,選挙すべき議員数が4人以上の選挙区間において,選挙すべき議員数が人口に比例しておらず,議員1人当たりの人口に最大1対3.01の較差(東京都選挙区と栃木県選挙区との間におけるもの)が存することについての合理性を是認することはできない。
参議院議員選挙法は,地方選出議員の選挙区を各都道府県とした上,各選挙区に対する定数配分について,憲法46条が参議院議員は3年ごとにその半数を改選すべきものとしていることに応じ,各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることになるように配慮し,各選挙区において選挙すべき議員数を偶数としてその最小限を2人とする方針の下に,昭和21年当時の人口に基づき,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員数を配分した。
公職選挙法は,参議院議員選挙法の上記定数配分基準を引き継いだが,その後に各選挙区の人口が変動したにもかかわらず,各選挙区の人口に比例して定数配分を行うという当初の定数配分基準に従った改正を怠り,平成6年と平成12年に,選挙区の一部についてのみ議員数の部分的修正を行うにとどまった。
当初の定数配分基準に従う限り,各都道府県を選挙区として,各選挙区に最小2人の偶数の議員数を配分することはやむを得ないが,その制約の下でも,定数配分は人口に比例して行う必要がある。
しかし,定数配分を完全に人口に比例させるための改正を怠ってきたため,本件選挙当時,選挙すべき議員数が4人以上の選挙区間においても,選挙すべき議員数が人口に比例しておらず,議員1人当たりの人口に最大1対3.01の較差が存することになったのである。
すなわち,特段の立法目的があって,上記のような較差を設けたというのではなく,各選挙区の人口の変動に応じて定数配分を適正に是正することを怠ってきたため,上記のような較差が残ることになったというにすぎないのであって,この較差の放置をもって裁量権の合理的な行使という余地はない。
ちなみに,各選挙区の議員1人当たりの人口が,総人口を定数146人で除した人口の3分の4未満で3分の2を超える範囲内に収まれば,較差が1対2未満となる。
本件定数配分規定の下では,上記の範囲内に収まる選挙区の合計人口が総人口の約39%にとどまるのに対し,当初の立法趣旨に従い,各選挙区において選挙すべき議員数を偶数としてその最小限を2人とし,人口に比例して定数146人を各選挙区に配分すれば,上記の範囲内に収まる選挙区の合計人口が総人口の約79%に拡大し,総体的には各選挙区間の較差がかなり縮小されるのである。
また,選挙区選出議員の過半数74人を選出することが可能な人口も,本件定数配分規定の下では,総人口の約32%にとどまるのに対し,当初の立法趣旨に従った定数配分を行えば,総人口の約40%に拡大する。
このように,日本全体としてみれば,当初の立法趣旨に従った定数配分を行うことにより,較差の程度が相当に改善されるのである。
当初の立法趣旨に従った定数配分を行っても,選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対4.87という,依然として高い数値を示すにとどまる。
しかし,最大較差というのは,47の選挙区の中から2つの選挙区を取り出して比較した数値であって,言わば点と点との比較の数値である。
47の選挙区の全体,すなわち日本全体を視野に入れれば,当初の立法趣旨に従った定数配分を行うだけでも,上記に指摘したように,較差の程度が相当に改善されるのであるから,せめて,当初の立法趣旨に従った定数配分に改正すべきであり,この改正を怠っていることをもって合理的な裁量権の行使と評することはできない。

裁判官才口千晴の反対意見は,次のとおりである。
本件選挙における本件定数配分規定は,憲法14条1項等に違反して違憲であるから,原判決を変更し,上告人らの請求を棄却するとともに,主文において本件選挙が違法である旨の宣言をするのが相当である。
その理由は,次のとおりである。
1 憲法は,すべての国民は法の下において平等であることを宣明し(14条1項),公務員を選定し及びこれを罷免することは国民の固有の権利であるとして成年者による普通選挙を保障し(15条1項,3項),両議院は全国民を代表する選挙された議員で組織するとし(43条1項),選挙人の資格は人種,信条,性別,社会的身分等によって差別してはならない(44条)としている。
この憲法が保障した普通選挙における選挙権の平等は,名実共に平等に1人1票であることを要求するものであり,公職選挙法36条が「投票は,各選挙につき,1人1票に限る。
」と規定するのもその趣旨と解すべきである。
2 1人1票の平等原則は,具体的な選挙制度においても議員1人当たりの選挙人の数の較差が各選挙区間で限りなく1対1となるように構築されなければならないが,憲法は二院制と参議院議員の3年ごとの半数改選制度等を採用している(42条,46条)ので,選挙人の1票の価値に多少の較差が生ずることはやむを得ない。
3 しかし,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の較差が2倍を超えることになると,実質的に選挙人1人に2票以上の複数投票を認める結果となり,これは憲法により保障された基本的人権の一つである投票価値の平等の原則に反することになるから憲法違反となる。
これを本件選挙についてみると,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対5.13となっていた。
これは議員1人当たりの選挙人が最少の選挙区の1票が選挙人が最多の選挙区の1票の5倍強の投票価値を有することを意味し,最少の選挙区の選挙人は,1人で実質5票を与えられたことになる。
しかも,このような2倍を超える不平等が,程度の差はあれ,半数以上の選挙区に生じている実態をみれば,本件定数配分規定は,憲法が保障する投票価値の平等の原則に大きく違背し,憲法に違反することは明白である。
4 参議院議員の選挙制度の仕組みと投票価値の平等との関係については,参議院の特殊性を強調し,選挙の議員定数配分について人口比例の原則を相当程度緩和することができるとする見解,あるいは,住所地を異にすることによる投票価値の較差については国会の裁量権が広く認められるので,当該立法が合理性を欠く恣意的な差別をする場合に初めて違憲となるとの見解がある。
しかし,選挙における平等の原則は,国民の基本的人権の問題であって,二院制等の制度の問題としてとらえるべきではなく,国民は,参議院議員の選出についても,衆議院議員の選挙と同様に基本的に平等な選挙権を与えられなければならない。
また憲法47条は,「選挙区,投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は,法律でこれを定める。
」とするが,これは選挙事項法律主義の原則を確認したものにすぎず,これを論拠に議員定数の配分を含む選挙に関する事項につき,国会の広範な裁量権を導くことはできない。
したがって,司法は,議員定数配分問題につき憲法の理念に照らして厳格な審査をする必要がある。
5 ところで,平成16年大法廷判決は,その結論において,前回選挙当時,本件定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示したが,多数意見を構成する裁判官の中には,補足意見において,従前とは異なり定数配分規定の改正に向けての厳しい示唆をしたものがあった。
私は,前述のとおり,本件定数配分規定は憲法に反すると判断するものであるが,これに加えて,国会は,参議院選挙区選出議員の選挙における定数配分の在り方に関して根本的解決を目指した真摯な努力を重ねる必要があったものと考える。
すなわち,平成16年大法廷判決の言渡しから本件選挙までの期間は6か月であったとはいえ,国会は,同大法廷判決の実質を注視し,憲法により保障された基本的人権の一つである投票価値の平等の重要性にかんがみ,本件選挙までの間に,より具体的な改革案を示す必要があったのではないかと考えるのである。
前回選挙後も人口の変動が投票価値の著しい不平等状態を生じさせ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じていないことは,国会の裁量的権限の許される限界を超えるものと判断される。
6 よって,私は,本件においては,原判決を変更し,公益上の見地から無効判決ではなく請求棄却の事情判決にとどめ,主文において本件選挙が違法である旨の宣言をするのが相当であると思料する。

裁判官中川了滋の反対意見は,次のとおりである。
私は,本件定数配分規定は憲法に違反するものであり,本件選挙は違法であると考える。
その理由は次のとおりである。
1 多数意見は,次のとおり述べる。
@憲法は,国会の両議院の議員を選挙する国民固有の権利につき,選挙人の資格における人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入による差別を禁止するにとどまらず,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等をも要求していると解するのが相当である。
Aしかしながら,憲法は,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとしていること,国会を衆議院と参議院の両議院で構成するものとし,各議院の権限及び議員の任期等に差異を設けているところ,その趣旨は,衆議院と参議院とがそれぞれ特色のある機能を発揮することによって,国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあることから,憲法は,投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一,絶対の基準としているものではなく,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の裁量にゆだねており,投票価値の平等は,参議院の独自性など,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものとしていると解さなければならないのであり,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り,それによって投票価値の平等が損なわれることになっても,憲法に違反するとはいえない。
私は,以上の点については賛成するものである。
したがって,国会の定めた本件定数配分規定が国会の裁量権の行使として合理性を是認し得るものかどうかが問われなければならない。
2 多数意見は,参議院議員の選挙制度の仕組みについて,憲法が二院制を採用したことから,参議院議員の選出方法を衆議院議員のそれとは異ならせることによって参議院の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に,参議院議員を全国選出議員ないし比例代表選出議員と地方選出議員ないし選挙区選出議員とに分け,後者については,都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し,政治的に一つのまとまりを有する単位としてとらえ得ることに照らし,都道府県を構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものであると解することができること,また,憲法46条が参議院議員については3年ごとにその半数を改選すべきものとしていることに応じて,各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることになるように配慮し,各選挙区に偶数により定数配分を行うこととしたものと解することができるとし,このような憲法の趣旨等に照らすと,公職選挙法が定めた参議院議員の選挙制度の仕組みは,国民各自,各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものとはいえず,国会の有する立法裁量権の合理的な行使の範囲を逸脱するものであるということはできないとして,本件選挙当時において選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差が1対5.13であったとしても本件定数配分規定が憲法に違反しないとする。
確かに,現行法制下での参議院議員の選挙制度は,創設された当初から,都道府県ごとの選挙区と半数改選制への配慮から定数を偶数としてその最小限を2人とし,各選挙区の人口に比例する形で2人ないし8人の偶数の議員数を配分する制度を採用してきており,都道府県単位の選挙区設置及び定数偶数配分制に上記のような一定の合理性は認めることができる。
しかし,憲法は二院制と3年ごとの半数改選を定めているにすぎず,都道府県単位の選挙区設置及び定数偶数配分制は憲法上に直接の根拠を有するものではない。
そして,参議院議員の定数配分については,その後当初の人口分布が大きく変わり,それに伴う人口比例による配分の改定が適宜行われなかったこともあって,上記のとおり5倍以上の較差が生ずるに至ったものである。
上記のとおり,投票価値の平等を憲法の要求であるとする以上,5倍以上の較差が生ずるような選挙区設定や定数配分は,投票価値の平等の重要性に照らして許されず,これを国会の裁量権の行使として合理性を有するものということはできないと解すべきであり,このような較差が生じている不平等状態は違憲とされるべきものと考える。
3 ところで,現行の都道府県単位の選挙区設定と定数偶数配分制を維持したままで不平等状態を改善しようとすれば,例えば上告人ら自身の試案によっても,参議院(選挙区選出)議員の選挙について,平成12年10月実施の国勢調査結果による人口に基づいていわゆる最大剰余方式により各選挙区の人口に比例した議員定数の再配分を試みた場合には,選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は1対4.87となるというのであり,「参議院改革協議会専門委員会(選挙制度)報告書」によれば,14増14減案によっても最大較差は4.13倍となるにとどまるのであって,なお4倍以上の較差が存在することが明らかである。
したがって,不平等状態の大幅な改善には今や従来の選挙制度の在り方自体の変更が必要とされるものと思われる。
4 以上によれば,本件定数配分規定は違憲であるが,国会による真摯かつ速やかな是正を期待し,今回は事情判決の法理に従い本件選挙を違法と宣言するにとどめ,無効とはしないものとするのが相当である。
(裁判長裁判官 町田 顯 裁判官 横尾和子 裁判官 上田豊三 裁判官滝井繁男 裁判官 藤田宙靖 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉 徳治 裁判官島田仁郎 裁判官 才口千晴 裁判官 津野 修 裁判官 今井 功 裁判官中川了滋 裁判官 堀籠幸男 裁判官 古田佑紀 裁判官 那須弘平)

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