法律学研究支援室

事件番号 平成16(オ)1365
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成18年03月28日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 棄却
判例集巻・号・頁
原審裁判所名 札幌高等裁判所??
原審事件番号
原審裁判年月日 平成16年05月27日
判示事項
裁判要旨 1 旭川市介護保険条例が,介護保険の第1号被保険者のうち生活保護法6条2項に規定する要保護者で市町村民税が非課税とされる者について,一律に保険料を賦課しないものとする旨の規定又は保険料を全額免除する旨の規定を設けていないことは,憲法14条,25条に違反しない
2 介護保険法135条の規定による介護保険の第1号被保険者の保険料についての特別徴収の制度は,憲法14条,25条に違反しない
参照法条
全文

主文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理由

1 上告人の上告理由第3(10を除く。
),第6,第7,第8(特別徴収及び連帯納付義務を定める規定の違憲をいう部分を除く。
)について介護保険法129条3項は,介護保険の第1号被保険者の保険料率について,第1号被保険者の所得の分布状況,その見通し等に照らしおおむね3年を通じ財政の均衡を保つことができるものでなければならない旨を規定し,同条2項を受けてその保険料率の算定に関する基準を定める介護保険法施行令38条は,その保険料率を被保険者本人及び世帯の負担能力に応じて5段階に区分するとともに,同条1項1号イ(2),ハ,2号ロ,3号ロ,4号ロにおいて,いわゆる境界層該当者(本来適用されるべき段階の保険料を負担すれば生活保護法6条2項に規定する要保護者となるが,より負担の低い段階の保険料の負担であれば同法2条に規定する保護を必要としない状態となる者)に対する負担軽減規定を設けている。
被上告人旭川市が行う介護保険の第1号被保険者の平成14年度における保険料率を定める旭川市介護保険条例(平成12年旭川市条例第27号。
平成15年旭川市条例第20号による改正前のもの。
以下「本件条例」という。
)3条は,これらに従って規定されたものである。
また,介護保険法142条は,市町村は,条例で定めるところにより,特別の理由がある者に対し,保険料を減免し,又はその徴収を猶予することができる旨を規定し,これを受けて,本件条例12条1項,13条1項は,第1号被保険者等が災害等により著しい損害を受けるなどした場合における保険料の徴収猶予及び減免を規定している。
そして,生活保護受給者については,生活扶助として介護保険の保険料の実費が加算して支給され(生活保護法11条1項1号,12条,生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)別表第1の第2章9),介護扶助として所定のサービスを受けることができるものとされている(同法11条1項5号,生活保護法(平成17年法律第77号による改正前のもの)15条の2)。
以上のとおり,低所得者に対して配慮した規定が置かれているのであり,また,介護保険制度が国民の共同連帯の理念に基づき設けられたものであること(介護保険法1条)にかんがみると,本件条例が,介護保険の第1号被保険者のうち,生活保護法6条2項に規定する要保護者で地方税法(平成16年法律第17号による改正前のもの)295条により市町村民税が非課税とされる者について,一律に保険料を賦課しないものとする旨の規定又は保険料を全額免除する旨の規定を設けていないとしても,それが著しく合理性を欠くということはできないし,また,経済的弱者について合理的な理由のない差別をしたものということはできない。
したがって,本件条例が上記の規定を設けていないことは,憲法14条,25条に違反しない。
以上は,最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁の趣旨に徴して明らかである。
論旨は採用することができない。
2 同第3の10,第8のうち特別徴収を定める規定の違憲をいう部分について介護保険法135条の規定による介護保険の第1号被保険者の保険料についての特別徴収の制度は,市町村における保険料収納の確保と事務の効率化を図るとともに,第1号被保険者の保険料納付の利便を図るために導入されたものである。
上記の特別徴収の対象となるのは,国民年金法による老齢基礎年金等の老齢退職年金給付であって(介護保険法131条),その年額が18万円以上のものである(同法134条1項1号,介護保険法施行令41条)。
老齢基礎年金等の公的年金制度は,老後の所得保障の柱としてその日常生活の基礎的な部分を補うことを主な目的とするところ,介護保険の第1号被保険者の保険料は,高齢期の要介護リスクに備えるために高齢者に課されるものであり,その日常生活の基礎的な経費に相当するということができる。
そして,一定額を下回る老齢退職年金給付を特別徴収の対象としていないことを踏まえれば,老齢退職年金給付から上記保険料を特別徴収することが,上記公的年金制度の趣旨を没却するものということはできない。
また,特別徴収の対象は,公租公課禁止規定(国民年金法25条)の趣旨に配慮して,同法による老齢基礎年金及びこれに相当する年金とされている。
したがって,上記の特別徴収の制度は,著しく合理性を欠くということはできないし,経済的弱者を合理的な理由なく差別したものではないから,憲法14条,25条に違反しない。
以上は,前記各大法廷判決,最高裁昭和33年(あ)第1413号同37年2月21日大法廷判決・刑集16巻2号107頁,最高裁昭和31年(あ)第1071号同37年2月28日大法廷判決・刑集同号212頁の趣旨に徴して明らかである。
論旨は採用することができない。
3 同第5のうち憲法84条違反をいう部分について介護保険法129条2項は,介護保険の第1号被保険者に対して課する保険料の料率を,政令で定める基準に従い条例で定めるところにより算定する旨を規定し,具体的な保険料率の決定を,同条3項の定め及び介護保険法施行令38条所定の基準に従って制定される条例の定めるところにゆだねたのであって,保険者のし意を許容したものではない。
そうすると,同法129条2項は,憲法84条の趣旨に反するということはできない。
以上は,最高裁平成12年(行ツ)第62号,同年(行ヒ)第66号同18年3月1日大法廷判決・民集60巻2号登載予定の趣旨に徴して明らかである。
論旨は採用することができない。
4 その余の上告理由について論旨は,違憲をいうが,その前提を欠くものであって,民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男)

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