法律学研究支援室

判例 平成17年11月01日 第三小法廷判決 平成14(行ツ)187、平成14(行ヒ)218 市道区域決定処分取消等請求事件

要旨:
 昭和13年に決定された都市計画における道路に含まれる土地に建築の制限が課せられることによる損失について,憲法29条3項に基づく補償請求をすることができないとされた事例

内容:  件名 市道区域決定処分取消等請求事件 (最高裁判所 平成14(行ツ)187、平成14(行ヒ)218 平成17年11月01日 第三小法廷判決 棄却)
 原審 仙台高等裁判所 (平成13(行コ)19)

主    文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。

理    由

 1 上告代理人熊谷隆司,同渡辺正和の上告理由第3及び上告受理申立て理由第3について

 (1) 本件は,昭和13年3月5日付けで旧都市計画法(昭和43年法律第100号による廃止前のもの)3条に基づき内務大臣が決定した都市計画に係る道路に関し,第1審判決別紙物件目録1ないし3記載の各土地(以下「本件土地」という。)の共有持分権者である上告人らが,上記道路の区域内にその一部が含まれる同目録2記載の土地について建築物の建築の制限を課せられ,それを超える建築物の建築をして一団の本件土地を使用することができないことによって損失を受けているとして,憲法29条3項に基づき補償請求をしているものである。

 上記目録2記載の土地は,当初,市街地建築物法26条,市街地建築物法施行令30条,同法7条,9条により,特別の事由があるとして行政官庁の許可を受けない限りそこに建築物を突出させることができないこととなり,昭和25年11月23日に建築基準法が施行された後は,昭和43年法律第101号による改正前の同法44条2項に基づく建築物の建築の制限を課せられていた。さらに,昭和44年6月14日に都市計画法が施行されて以降,上記都市計画は,都市計画法施行法2条にのっとり都市計画法の規定による都市計画とみなされることとなったため,同土地は,同法53条に基づく建築物の建築の制限を受けている。

 (2) 原審の適法に確定した事実関係の下においては,上告人らが受けた上記の損失は,一般的に当然に受忍すべきものとされる制限の範囲を超えて特別の犠牲を課せられたものということがいまだ困難であるから,上告人らは,直接憲法29条3項を根拠として上記の損失につき補償請求をすることはできないものというべきである。これと同旨の原審の判断は,是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

 2 その余の上告理由について

 論旨は,違憲をいうが,その実質は事実誤認又は単なる法令違反をいうものであって,民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官藤田宙靖の補足意見がある。

 裁判官藤田宙靖の補足意見は,次のとおりである。

 私は,法廷意見に賛成するものであるが,都市計画法53条に基づく建築制限と損失補償の要否,殊に制限の期間が長きにわたった場合の損失補償の要否について,若干の補足を行っておくこととしたい。

 私人の土地に対する都市計画法(以下「法」という。)53条に基づく建築制限が,それのみで直ちに憲法29条3項にいう私有財産を「公のために用ひる」ことにはならず,当然に同項にいう 「正当な補償」 を必要とするものではないことは,原審のいうとおりである。しかし,公共の利益を理由としてそのような制限が損失補償を伴うことなく認められるのは,あくまでも,その制限が都市計画の実現を担保するために必要不可欠であり,かつ,権利者に無補償での制限を受忍させることに合理的な理由があることを前提とした上でのことというべきであるから,そのような前提を欠く事態となった場合には,都市計画制限であることを理由に補償を拒むことは許されないものというべきである。そして,当該制限に対するこの意味での受忍限度を考えるに当たっては,制限の内容と同時に,制限の及ぶ期間が問題とされなければならないと考えられるのであって,本件における建築制限のように,その内容が,その土地における建築一般を禁止するものではなく,木造2階建て以下等の容易に撤去できるものに限って建築を認める,という程度のものであるとしても,これが60年をも超える長きにわたって課せられている場合に,この期間をおよそ考慮することなく,単に建築制限の程度が上記のようなものであるということから損失補償の必要は無いとする考え方には,大いに疑問がある。その意味において,原審及び(その引用する)第1審判決は,一般的な法53条の建築制限について指摘するに止まり,本件決定から既に60年以上経過しているという本件に特有の事情についての判断が明示されていない,という限りでは,上告論旨には理由があるものというべきである。

 因みに,本件における建築制限を憲法29条3項にいう私有財産を公のために用いる場合に当たる,と考える場合,理論的には,これを,論旨のいうように「土地利用権を収用している」(いわば,土地所有権の部分収用)と法律構成するのか,それとも,一種の公用使用権類似の権利が設定された,と見るのか,という問題(この問題は,補償額の算定にも関わってくる可能性があろう),更に又,補償の要否の判断に,制限が課せられた期間の長短を考慮に入れることとする場合,そもそもどの時点をもって補償不要の状態から要補償の状態に移行したと考えるのか,といった問題が生じよう。これは本来,立法措置によって明確化されるべき問題であると言えようが,しかし,ここで問題とされているのは,憲法29条3項に直接基づいた損失補償請求なのであるから,上記の問題につき,裁判所が,明確な法律の規定が無いことを理由に判断を避けることは,許されないものと言わなければならない。

 ところが,本件においては,原審は,上記のように,上告人が主張する都市計画制限の及ぶ期間と損失補償の要否の問題につき,一切の判断をしていないのであるから,その限りで判断の遺脱ないし理由の不備があることとなり,本件については,更に上記の問題につきなお審理を尽くさせるため,原審判決を破棄し,仙台高等裁判所に差し戻すということも考えられないではない。

 しかしながら,記録及び弁論の全趣旨によれば,本件土地の所在する地域は,都市計画により,第1種住居地域とされ,容積率10分の20,建ぺい率10分の6と定められていることがうかがわれ,高度な土地利用が従来行われていた地域ではなく,また,現にそれが予定されている地域でもないというべきである。そして,本件土地の上に現に存在する上告人らの共有に係る建築物は,木造瓦葺平家建の居宅であって,これを改築するのには,法53条1項ただし書1号により,同項本文所定の許可を受けることを要しないこととなり,また,これと同程度の規模及び構造の建築物を再度建築するのについては法54条3号により許可がされるものと考えられる。もともと,本件土地は,面積合計692.32平方メートルの一団の土地であるところ,予定区域内に含まれるのは,そのうちの面積約173平方メートル(約4分の1)の部分にとどまるから,残余の部分を敷地として同号に該当する最大の建築物を許可の下に建築すれば,それは上記の容積率及び建ぺい率の上限に近いものとなることもうかがわれる。

 このような本件土地に関する具体的事情に照らせば,本件土地に課せられた上記の建築制限が長期間にわたっていることを考慮に入れても,いまだ,上告人らが制限を超える建築をして本件土地を使用することができなかったことによって受けた損失をもって特別の犠牲とまでいうことはできず,憲法29条3項を根拠とする補償を必要とするとはいえないという評価も成り立ち得るところであり,その趣旨をいう限りにおいて法廷意見の見解はなお正当とするに足りるものである。

(裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 濱田邦夫 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男)

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