法律学研究支援室

判例 平成16年01月14日 大法廷判決 平成15(行ツ)15 選挙無効請求事件

要旨:

 公職選挙法が参議院議員選挙につき採用している非拘束名簿式比例代表制の合憲性

内容:  件名 選挙無効請求事件 (最高裁判所 平成15(行ツ)15 平成16年01月14日 大法廷判決 棄却)

 原審 東京高等裁判所 (平成13(行ケ)382)

主    文

       本件上告を棄却する。

       上告費用は上告人らの負担とする。

理    由

 上告人中久木邦宏,上告人兼上告代理人山口邦明,同森徹の各上告理由について

 1 本件は,公職選挙法の一部を改正する法律(平成12年法律第118号)による改正(以下「本件改正」という。)後の公職選挙法のうち参議院(比例代表選出)議員の選挙の仕組みに関する規定が憲法に違反し無効であるから,これに依拠してされた平成13年7月29日施行の参議院(比例代表選出)議員の選挙は無効であるとして提起された選挙無効訴訟である。

 2 原審の適法に確定した事実関係等によれば,本件改正の経緯は,次のとおりである。

 (1) 昭和25年に制定された公職選挙法は,その前身である参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)と同様に,参議院議員を全都道府県の区域を通じて選出される全国選出議員と都道府県単位の選挙区において選出される地方選出議員とに区分していたが,全国選出議員の選挙について,個人本位の選挙制度から政党本位の選挙制度に改めることを目的として,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正によりいわゆる拘束名簿式比例代表制が導入された。その結果,参議院議員は,比例代表選出議員と選挙区選出議員とから成ることとされた。

 (2) 昭和57年に導入された拘束名簿式比例代表制については,候補者の顔の見えない選挙である,参議院の政党化を殊更に進めている,名簿登載者の順位の決定過程が分かりにくいなどの批判があり,第8次選挙制度審議会が,平成2年7月,拘束名簿式比例代表制に代えて政党名又は候補者名で投票することができるいわゆる非拘束名簿式比例代表制の導入を提案するなど,しばしば議論の対象とされてきた。また,中央省庁の改革,国家公務員の定員削減等が行われている状況において,行政を監視すべき地位にある立法機関である参議院においても定数を削減して事務の効率化等を図る必要があるとの声が高まったのを受けて,参議院選挙制度改革に関する協議会等において参議院議員の定数削減について検討が進められた。これらの議論を踏まえて自由民主党,公明党及び保守党の与党3党が作成,提出した公職選挙法の改正案が国会において審議された結果,同12年10月,公職選挙法の一部を改正する法律(平成12年法律第118号)が成立し,これにより参議院の比例代表選出議員の選挙制度が従来の拘束名簿式比例代表制から非拘束名簿式比例代表制に改められるとともに,参議院議員の定数が10人(比例代表選出議員については4人)削減された。

 (3) 本件改正後の公職選挙法(以下「改正公選法」という。)は,比例代表選出議員については,従前どおり,全都道府県の区域を通じて選挙するものとしている(12条2項)。政党その他の政治団体は,当該政党その他の政治団体の名称(一の略称を含む。)及びその所属する者(当該政党その他の政治団体が推薦する者を含む。)の氏名を記載した参議院名簿を選挙長に届け出ることにより,その参議院名簿に記載されている参議院名簿登載者を当該選挙における候補者とすることができるものとし(86条の3第1項),参議院名簿には当選人となるべき順位を記載しないこととした。選挙人は,投票用紙に公職の候補者たる参議院名簿登載者1人の氏名を自書しなければならないが,参議院名簿登載者の氏名を自書することに代えて,一の参議院名簿届出政党等の届出に係る名称又は略称を自書することができるものとしている(46条3項)。当選人の決定については,@ まず最初に,各参議院名簿届出政党等の得票数(当該参議院名簿届出政党等に係る各参議院名簿登載者の得票数を含むものをいう。)に基づき,それぞれの参議院名簿届出政党等の当選人の数を定め,A 各参議院名簿届出政党等の届出に係る参議院名簿登載者の間における当選人となるべき順位は,その得票数の最も多い者から順次に定めるが,得票数の同じ参議院名簿登載者が2人以上いる場合には,選挙長がくじでそれらの者の間における当選人となるべき順位を定めることとし,B 各参議院名簿届出政党等の届出に係る参議院名簿登載者のうち,Aにより定められた当選人となるべき順位に従い,@により定められた当該参議院名簿届出政党等の当選人の数に相当する数の参議院名簿登載者を当選人とするものとしている(95条の3)。また,参議院名簿登載者個人の選挙運動を認めたことに伴い,参議院名簿登載者にも連座制の適用があるものとしている(251条の2ないし251条の4)。

 3 代表民主制の下における選挙制度は,選挙された代表者を通じて,国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし,他方,政治における安定の要請をも考慮しながら,それぞれの国において,その国の実情に即して具体的に決定されるべきものであり,そこに論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではない。我が憲法もまた,上記の理由から,国会の両議院の議員の選挙について,議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条,47条),両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量にゆだねているのである。このように,国会は,その裁量により,衆議院議員及び参議院議員それぞれについて公正かつ効果的な代表を選出するという目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができるものであるから,国会が新たな選挙制度の仕組みを採用した場合には,その具体的に定めたところが,国会の上記のような裁量権を考慮しても,上記制約や法の下の平等などの憲法上の要請に反するためその限界を超えており,これを是認することができない場合に,初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである(最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁,最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁,最高裁昭和56年(行ツ)第57号同58年11月7日大法廷判決・民集37巻9号1243頁,最高裁昭和59年(行ツ)第339号同60年7月17日大法廷判決・民集39巻5号1100頁,最高裁平成3年(行ツ)第111号同5年1月20日大法廷判決・民集47巻1号67頁,最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁,最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁,最高裁平成11年(行ツ)第8号同11年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1577頁及び最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁参照)。

 4 上記の見地に立って,上告理由について判断する。

 (1) 論旨は,改正公選法が採用した非拘束名簿式比例代表制の制度(以下「本件非拘束名簿式比例代表制」という。)は,参議院名簿登載者個人には投票したいが,その者の所属する参議院名簿届出政党等には投票したくないという投票意思を認めず,選挙人の真意にかかわらず参議院名簿登載者個人に対する投票をその者の所属する参議院名簿届出政党等に対する投票と評価し,比例代表選出議員が辞職した場合等には,当該議員の所属する参議院名簿届出政党等に対する投票意思のみが残る結果となる点において,国民の選挙権を侵害し,憲法15条に違反するものであり,また,本件非拘束名簿式比例代表制の下では,超過得票に相当する票は,選挙人が投票した参議院名簿登載者以外の参議院名簿登載者に投票した選挙人の投票意思を実現するために用いられ,各参議院名簿届出政党等の届出に係る参議院名簿登載者の間における投票の流用が認められることになるから,直接選挙とはいえず,憲法43条1項に違反するなどというのである。

 (2) 名簿式比例代表制は,各名簿届出政党等の得票数に応じて議席が配分される政党本位の選挙制度であり,本件非拘束名簿式比例代表制も,各参議院名簿届出政党等の得票数に基づきその当選人数を決定する選挙制度であるから,本件改正前の拘束名簿式比例代表制と同様に,政党本位の名簿式比例代表制であることに変わりはない。憲法は,政党について規定するところがないが,政党の存在を当然に予定しているものであり,政党は,議会制民主主義を支える不可欠の要素であって,国民の政治意思を形成する最も有力な媒体である。したがって,国会が,参議院議員の選挙制度の仕組みを決定するに当たり,政党の上記のような国政上の重要な役割にかんがみて,政党を媒体として国民の政治意思を国政に反映させる名簿式比例代表制を採用することは,その裁量の範囲に属することが明らかであるといわなければならない。そして,名簿式比例代表制は,政党の選択という意味を持たない投票を認めない制度であるから,本件非拘束名簿式比例代表制の下において,参議院名簿登載者個人には投票したいが,その者の所属する参議院名簿届出政党等には投票したくないという投票意思が認められないことをもって,国民の選挙権を侵害し,憲法15条に違反するものとまでいうことはできない。また,名簿式比例代表制の下においては,名簿登載者は,各政党に所属する者という立場で候補者となっているのであるから,改正公選法が参議院名簿登載者の氏名の記載のある投票を当該参議院名簿登載者の所属する参議院名簿届出政党等に対する投票としてその得票数を計算するものとしていることには,合理性が認められるのであって,これが国会の裁量権の限界を超えるものとは解されない。

 もっとも,本件非拘束名簿式比例代表制の下においては,比例代表選出議員が辞職し又は離党しても,当該議員の得票数がその所属する参議院名簿届出政党等の得票数から控除されて当該参議院名簿届出政党等の当選人数が減じられることはない。しかしながら,これらの場合に,当該参議院名簿登載者の得票数をその所属する参議院名簿届出政党等の得票数から除外し,改めて当選人数を確定し直すこととしたのでは,手続が複雑となりすぎる上,比例代表選出議員の辞職又は離党によってその所属する参議院名簿届出政党等の他の当選人の当選の効力が失われることとしたのでは,有権者の意思から離れる結果となるという批判を招きかねない。参議院名簿登載者の氏名を記載した投票をその所属する参議院名簿届出政党等に対する投票とみることに合理性があることは前記のとおりであるから,当選後において,比例代表選出議員の辞職又は離党の事態が生じたとしても,上記投票の効果が存続することが直ちに不合理であるとまではいえず,この点をもって国会の裁量権の限界を超えるものということはできない。

 なお,本件非拘束名簿式比例代表制の下においては,当選した参議院名簿登載者が選挙犯罪を犯し刑に処せられ,又は当該参議院名簿登載者のために行われる選挙運動に関し総括主宰者等による選挙犯罪が行われ,当該総括主宰者等が刑に処せられた場合であっても,当該参議院名簿登載者の当選が無効となるにとどまり,当該参議院名簿登載者の所属する参議院名簿届出政党等に対する投票としての効果が残る結果となるが,このことが不合理であるとはいえないのは前述した辞職又は離党の場合と同じである。

 (3) また,政党等にあらかじめ候補者の氏名を記載した参議院名簿を届け出させた上,選挙人が参議院名簿登載者の氏名又は参議院名簿届出政党等の名称等を記載して投票し,各参議院名簿届出政党等の得票数(当該参議院名簿届出政党等に係る参議院名簿登載者の得票数を含む。)の多寡に応じて各参議院名簿届出政党等の当選人数を定めた後,参議院名簿登載者の得票数の多寡に応じて各参議院名簿届出政党等の届出に係る参議院名簿登載者の間における当選人となるべき順位を定め,この順位に従って当選人を決定する方式は,投票の結果すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点において,選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異なるところはない。同一参議院名簿届出政党等内において得票数の同じ参議院名簿登載者が2人以上いる場合には,それらの者の間における当選人となるべき順位は選挙長のくじで定められることになるが,この場合も,当選人の決定に選挙人以外の者の意思が介在するものではないから,上記の点をもって本件非拘束名簿式比例代表制による比例代表選挙が直接選挙に当たらないということはできず,憲法43条1項に違反するとはいえない。

 (4) 論旨はまた,本件非拘束名簿式比例代表制を導入した立法目的は不当なものであり,立法目的と手段との間に合理的関連性がなく,国会における審議経過も不当であるから,本件非拘束名簿式比例代表制は国会の裁量権の範囲を逸脱しているとも主張する。

 しかしながら,本件非拘束名簿式比例代表制は,2(2)で述べたように,本件改正前の拘束名簿式比例代表制に対しては,候補者の顔の見えない選挙である,参議院の政党化を殊更に進めている,名簿登載者の順位の決定過程が分かりにくいなどの批判があったことを受けて,上記制度の問題点を改め,政党本位の選挙制度を採りながら特定の名簿登載者の選択をも可能にするために導入されたものであり,その立法目的が正当でないとはいえず,本件非拘束名簿式比例代表制が上記立法目的に照らして合理性を欠く制度であるということはできず,その導入をもって国会の裁量権の限界を超えているということはできない。また,所定の手続にのっとって可決成立した法律の効力が国会における審議の内容,経過により左右される余地はないから,国会における審議経過の不当をいう論旨は失当である。

 (5) 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができ,原判決が所論の憲法の原理や前文,43条,47条,99条等に違反するということはできない。論旨は採用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 町田 顯 裁判官 福田 博 裁判官 金谷利廣 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷 玄 裁判官 深澤武久 裁判官 濱田邦夫 裁判官 横尾和子 裁判官 上田豊三 裁判官 滝井繁男 裁判官 藤田宙靖 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉 コ治 裁判官 島田仁郎)


特に指定がないものは、最高裁判所判決です。
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