法律学研究支援室

判例 平成16年02月13日 第二小法廷判決 平成13(行ヒ)18 公文書一部非公開処分取消請求事件

要旨:

 1 京都市交通局の開催した地下鉄建設事業に関する飲食を伴う協議に地元関係者が出席したことに関する情報が京都市の公文書の公開に関する条例所定の非公開情報(個人識別情報のうち公開しないことが正当であると認められるもの)に

当たるとされた事例

2 京都市交通局の開催した飲食を伴う協議等に民間法人の従業員がその職務として出席したことに関する情報が京都市の公文書の公開に関する条例所定の非公開情報(個人識別情報のうち公開しないことが正当であると認められるもの)に当

たらないとされた事例

内容:  件名 公文書一部非公開処分取消請求事件 (最高裁判所 平成13(行ヒ)18 平成16年02月13日 第二小法廷判決 一部破棄自判,一部棄却)

 原審 大阪高等裁判所 (平成12(行コ)18)

主    文

1 原判決中,上告人が被上告人に対し平成9年5月14日付けでした公文書一部非公開決定のうち別表の@ないしBの記載部分を非公開とした部分に関する部分を破棄する。

2 上記部分について,第1審判決を取り消し,被上告人の請求を棄却する。

3 上告人のその余の上告を棄却する。

4 訴訟の総費用は,これを10分し,その9を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。

         

理    由

上告代理人坂本正寿,同森田雅之,同石川泰久,同松恵美の上告受理申立て理由一1について

1 本件は,被上告人が,京都市公文書の公開に関する条例(平成3年京都市条例第12号。平成12年京都市条例第41号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)に基づき,上告人に対し,平成6年度及び同7年度における接遇に関する支出決定書及び支払伝票の公開を請求したところ,平成9年5月14日付けで一部非公開決定(以下「本件処分」という。)がされたので,その一部の取消しを求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1) 本件条例8条は,「実施機関は,次の各号の一に該当する情報が記録されている公文書については,公文書の公開をしないことができる。」と定め,その1号において,「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で,個人が識別され,又は識別され得るもののうち,公開しないことが正当であると認められるもの」と規定している。

(2) 本件処分の対象となった文書のうち別表の(1)ないし(4)の支出決定書には,同表「記載部分」欄のとおりの記載がある。

(3) 上告人は,本件処分において,別表の@ないしCの記載部分に係る市交通局との協議等への相手方の出席に関する各情報(以下,それぞれの出席に関する情報を別表の記載部分の番号を付して「@の情報」,「Aの情報」などという。)については本件条例8条1号所定の非公開情報に該当し,そのうち@ないしBの情報については同条7号所定の非公開情報にも該当することを理由として,これらの記載部分を非公開とした。

(4) 別表の(1)ないし(3)の支出決定書は,京都市(以下「市」という。)の交通局の地下鉄建設事業等に関して地元関係者と行った飲食を伴う協議に要した経費の支出に係るものである。

別表の(1)の支出決定書に係る協議は,地下鉄東西線の醍醐駅・二条駅間の建設工事に際して,地元住民の団体との間で,工事内容の説明等のために開催された。

別表の(2)の支出決定書に係る協議は,地下鉄烏丸線の北山駅・国際会館駅間の建設工事に際して,両駅間のシールド区間の全地権者により構成されたA協議会との間で,工事内容及び予定を説明し協力を求めること,地下鉄の開業により生じる環境問題についての対策の取組状況及び工事進捗状況を説明すること,並びに用地契約に伴う疑義を解消することを目的として開催された。

別表の(3)の支出決定書に係る協議は,地下鉄東西線の醍醐駅・二条駅間の建設工事に際して山科地域における円滑な工事の進行を図るために,市の交通局及び山科区役所の職員と市から市政協力委員として委嘱を受けた者との間で開催された。

(5) 別表の(4)の支出決定書は,民間法人の従業員が当該法人の事業に関する調査等のために市交通局に来庁した際に行った飲食を伴う協議等に要した経費の支出に係るものである。

3 原審は,次のとおり判断して,本件処分のうち別表の@ないしCの記載部分を非公開とした部分を取り消すべきであるとした。

(1) @ないしCの情報は,本件条例8条1号所定の非公開情報に該当しない。

(2) @ないしBの情報は,同条7号所定の非公開情報にも該当しない。

4 しかしながら,原審の上記3(1)の判断のうち,Cの情報が本件条例8条1号所定の非公開情報に該当しないとした部分は是認することができるが,その余の部分は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) @の情報は,地元住民の団体に所属する者が市交通局の開催した飲食を伴う協議に出席したことに関する情報であることが原審において確定されており,これらの者の社会的活動にかかわる情報であって,氏名,上記団体名,肩書等により特定の個人が識別されるものである。そして,本件条例8条1号は,個人識別情報のうち公開しないことが正当である私事に関する情報が記録されている文書を公開しないこととしているものであるところ,前記事実関係等によれば,上記協議は,上記団体に地下鉄の建設工事の内容の説明等を行うことを目的として開催されたというのであるから,@の情報は,個人識別情報のうち公開しないことが正当である私事に関する情報に当たり,本件条例8条1号所定の非公開情報に該当するというべきである。

(2) Aの情報は,地下鉄の建設工事区間の地権者によって構成された協議会に所属する者が市交通局の開催した飲食を伴う協議に出席したことに関する情報であることが原審において確定されており,これらの者の社会的活動にかかわる情報であって,氏名,肩書等により特定の個人が識別されるものである。そして,前記事実関係等によれば,上記協議は,上記協議会に地下鉄の建設工事の内容及び予定を説明し協力を求めること,地下鉄の開業により生ずる環境問題についての対策の取組状況及び工事進捗状況を説明すること,並びに用地契約に伴う疑義を解消することを目的として開催されたというのであるから,Aの情報は,個人識別情報のうち公開しないことが正当である私事に関する情報に当たり,本件条例8条1号所定の非公開情報に該当するというべきである。

(3) 前記事実関係等によれば,Bの情報は,山科地域における地下鉄建設工事の円滑な進行を図るために開催された市の交通局及び山科区役所の職員との飲食を伴う協議に市政協力委員が出席したことに関する情報であって,氏名等により特定の個人が識別されるものである。そして,市政協力委員は,市長が担当区域ごとにその区域在住者の中から委嘱し,市政の普及徹底,市民の要望の取次等所定の事項に関し市に協力するものとされており(京都市市政協力委員設置規則(昭和28年京都市規則第28号)),市の職員ではなく,上記協議への出席は,私人として市政に対する任意の協力としてされたものである。市政協力委員である個人にとって,上記協議へ出席したという情報は,地下鉄建設工事をめぐり地元住民の間に多様な意見があり得ることからすると,みだりに他人に知られたくないと考える者があり得る情報である。そうすると,Bの情報は,個人識別情報のうち公開しないことが正当である私事に関する情報に当たり,本件条例8条1号所定の非公開情報に該当するというべきである。

(4) 前記事実関係等によれば,Cの情報は,民間法人の従業員が当該法人の事業に関する調査等のために市交通局との飲食を伴う協議等に出席したことに関する情報であって,氏名等により特定の個人が識別されるものである。しかし,上記出席は,使用者の指揮命令の下に職務として行われたものであり,また,上記協議等の目的からしても,上記協議等に出席したことは,従業員にとって私事としての性質が希薄であり,Cの情報を公開しないことが正当である私事に関する情報に当たるということはできない。したがって,上記情報は,同号所定の非公開情報に該当しないというべきである。

5 以上によれば,原審の前記判断中,@ないしBの情報が本件条例8条1号所定の非公開情報に該当しないとした部分には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は理由があり,原判決中上記判断に係る部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,本件処分のうち別表の@ないしBの記載部分を非公開とした部分に違法はないから,同部分については,第1審判決を取り消して被上告人の請求を棄却するのが相当であるが,本件処分のうち別表のCの記載部分を非公開とした部分の取消請求に関する上告は棄却すべきである。

なお,その余の上告については,上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 福田 博 裁判官 亀山継夫 裁判官 滝井繁男)


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